●CNFはCO2削減に大きく貢献できるポテンシャルを持っている
私たちが目指す方向として、未利用の木質バイオマス資源は国内に豊富にありますから、新しい方法でセルロースを取り出すよりは、これまで紙パルプ産業が長い時間をかけて確立してきた既存のパルプ化と漂白の技術で、セルロースという素材と電力エネルギーを両方得られるプロセスを構築しているので、それを変えることなく用いていくことを考えています。
今まではセルロースを紙として用いていたのですが、紙の消費量は落ちているので、今度はナノファイバーに変換し、従来にない新しい循環の輪を形成する先端材料として用いることが求められます。その場合は、最終的にはカーボンニュートラルなので、森林に二酸化炭素(CO2)を吸収してもらうという循環ができれば、非常に理想的だと思います。
これによって、世界が目指しているグローバルな課題である地球温暖化への対策、二酸化炭素の固定化という課題の解決に向けて、日本がリーダーシップをとることができる可能性があるということで、大いに期待しています。
●CNF研究は日本がリードしており日本企業も積極的に実用化に動いている
長所としては、日本発の技術で今のところ世界をリードしているという点が挙げられます。他の国の追随も非常に激しいですが、まだ日本がリードしている状況です。また、これまでシリーズ内で述べたように、針葉樹が最もこの技術に適しているということであれば、日本の未利用のスギやヒノキの間伐材が、価値ある素材になりうるという点も重要です。それによって、既存の産業だけではなく、先端産業と森林産業が融合した新しい産業と雇用の創生に期待することができます。加えて、カーボンナノチューブやフラーレンも日本発の優れたナノ材料だったのですが、これに次ぐ新しいバイオ系のナノ素材として注目を集めています。
課題としては、安全性の確保やさらに効率的なプロセスの発見、市場原理に則った低価格、高機能の汎用的な先端材料として用いることができる状態にしていけるか、などが挙げられます。
現状では、2015年から日本製紙と日本製紙クレシアが、介護者の負担を軽減するための、超消臭機能を持つ大人用の使い捨てオムツとして実用化しています。三菱鉛筆と第一工業製薬は、かすれないボールペンを世界的に販売しています。聞くところによると、世界で2年間で2000万本売り上げており、それ以降はあまりにも売れているのでカウントできていないとのことです。
また、凸版印刷からは、CNFの酸素バリア性を利用して、ガスバリア性の容器に利用することを検討しているというプレスリリースがありました。緑色のプリント基板の世界ナンバーワンシェアの会社である太陽ホールディングスは、CNFを電子基板材料として検討しているというプレスリリースを行いました。さらに、2019年の東京モーターショーに合わせて、住友ゴムがDUNLOP(ダンロップ)という自社ブランドのタイヤにCNFを用いたというプレスリリースもありました。
●CNFが抱えるコストの問題と今後の課題
ここまで夢のような話をしてきましたが、いくつかの課題があるので、最後にお話しします。
まず、高価なので、まだ汎用品に用いられることがなく、高性能、高機能の用途に限られるために、少量高機能新規材料開発は量的に二酸化炭素の削減に貢献するまでには、とても至っていないことが挙げられます。しかし、今の価格でも新しい文化の創生となるような新機能開発が必要であることには、疑いがありません。ですから、既存の石油系材料を代替することになり、相当量のCNFを用いることになれば、低炭素化社会の構築に貢献することになります。
しかし、既存のものとコストを比較すると、高価で環境に優しいCNFが使われるかというと、なかなかそうはいきません。したがって、量が多いものをターゲットとすると、既存のものとのコスト競争が課題となります。量が少ないものは競争できますが、二酸化炭素の削減に貢献することは難しくなります。この点はトレードオフでジレンマになっているのですが、少しずつ量が多くなることで値段も下がるので、すぐに達成することは難しいかもしれません。しかし、少しずつステップアップしていくことは可能だと思います。
現状では、CNFの製造プラントを中山間地につくって、林業を活性化することは、理論上は可能です。しかし、CNFをつくる前のパルプ化、漂白プロセスには、多くの技術の蓄積があります。環境に配慮してなおかつ品質もコントローするとなると、現在の紙パルプ産業の工場に持っていって、そこで紙パルプ化してナノファイ...