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民主主義の最盛期をつくりだした謙虚さと知性

民主主義の根源とは(3)命懸けの2万人がいたからこそ

概要・テキスト
良心を失ったら、民主主義は情熱のない無分別なものになってしまう。19世紀のイギリスで民主主義がうまく機能したのは、自分の思想に命を懸けられる2万人のジェントルマンがいたからだ。そして、同様に日本には自分の思想に命を懸ける2万人の武士がいた。19世紀の大英帝国と対等な条約を結んだ国は、世界でも日本だけだったが、これは英国の騎士道を貫くジェントルマンが日本の武士道を深く信頼していたからなのだ。だが、第一次世界大戦で漁夫の利を得たことで、日本人は傲慢になってしまった。これがその後の日本をおかしくした。(全7話中第3話)
時間:13:16
収録日:2019/12/25
追加日:2020/04/10
カテゴリー:
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≪全文≫

●2万人の英国ジェントルマンが7つの海を制覇した


執行 キルケゴールも、民主主義の社会は心の良心を失ったら、もう情熱のない無分別なものになるとはっきりいっています。つまり今の時代です。そして、キルケゴールがいっているマスコミは新聞だけですが、マスコミの操作だけで動く何の定見もない人間たちの社会が現出すると、1846年に書いた『現代の批判』という、180年前の本で語っています。

―― なるほど、1846年に……。

執行 そこに出ている話は全部、現代と同じです。だから民主主義は、心の良心を失ったらどうなるか、最初からわかっているのです。その良心とは、先ほどからいうように、昔は「神」といわれていましたが、この神をわかりやすく砕けば「命よりも大切なもの」のために生きるということです。そのために人間の意見をぶつけるのが民主主義なのです。

 今そんなことをいったら怒られますが、ひと昔前は、「意見をいう」というのは、「命を懸ける」ということでした。だいたい、僕が子どものときでも、自分の人生や命を懸けないようなことをいえば、「うるせえ、引っ込め。なんだそんな軽薄な言葉は」といわれました。今は誰もいいませんが、やはり意見とは命懸けのことです。意見とは何かということを、今の日本人は、キリスト教社会や武士道の面から思い起こさないといけません。

 民主主義が一番うまく機能した時代を例として1つ挙げると、19世紀のヴィクトリア朝イングランドです。

―― 一番、イギリスの最盛期ですね。

執行 最盛期です。われわれが言葉では知っているのは、西欧自由主義、西欧個人主義という、民主主義の土台です。議会制民主主義を生み出した、西欧個人主義が花開いたのが、19世紀のヴィクトリア朝イングランドです。

 そのときのジェントルマンの定義は、民主主義社会を牽引するエリートです。牽引するエリートを、あの当時はジェントルマンといっていたのです。ジェントルマンというのは、今、名簿も残っているようですが、2万人いました。だから国民全部がすごかったのではなく、2万人のジェントルマンがいたことによって、英国は7つの海を制覇したのです。

―― 2万人のジェントルマンがいるというのは、すごいことですね。

執行 これはすごいことです。その2万人を生み出したのが、われわれもよく知るパブリックスクールです。ウィンチェスターやハーロウ...
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