●年収が平均値を超えると年収と幸せの相関はなくなる
次は、皆さんも気になると思いますが、年収と幸せの関係です。横軸に年収をとり、縦軸に幸せをとると、年収が増えるほど幸せになるという関係があると思われるでしょう。
しかし実は、この図に示したように、年収が上がるにつれて幸福は上がるものの、その上がり幅は徐々に小さくなるという、限界効用逓減の法則に似たカーブを示します。本当に収入が少ないときには、お金もない、食べるものもない、家もないという状態なので、非常に幸福度は低くなります。そのような欠乏状態にあるときは、年収が増えるにつれて、幸福度は急速に上がっていきます。ところが、年収の平均値あたりを超えると、上がり幅がかなり小さくなり、もはや年収と幸せの相関はないという水準にまで至ります。アメリカの場合、平均年収7万5000ドル(日本円にして約800万円)を超えると、年収と幸せの間に相関が見られないという研究結果を、ノーベル賞を獲得したダニエル・カーネマン氏が出しています。
右側に示したように、日本でもディーナー氏や大石繁宏氏(ヴァージニア大学心理学部教授)などの研究があります。どの程度お金が稼げていればいいのか気になりますが、私からすると額自体はあまり問題にする必要はありません。2つの変数の関係が、ここに示したようなカーブを描くことが重要です。つまり、皆さんの収入がどの程度であれ、収入が少ないときから増えてきたときに比べると、それからさらに増えていくときのほうが幸福度の上昇率は低いということです。ですので、いくら大金持ちになることを目ざしても、実はそれだけでは幸せになれないということなのです。
他にも、研究結果はいろいろあります。例えば、宝くじに当選した人は、もちろん幸せになる人もいるでしょうが、平均値としては当選しなかった人よりも不幸になるという研究結果があるのです。ということは、宝くじを買ったときには、はずれることを願ったほうがいいということになります。それなら買わないほうがいいと思いますが、要するに、トラブルなどさまざまなことが起きるのだろうということで、当選すると幸せになれないという結果が、統計値としては出ています。
●幸せに気をつけると健康で長寿になる
次に、前回から指摘している寿命との関係についてお話しします。
先進国における調査では、幸せな人は7年から10年程度長寿、また修道院における調査でも7年程度長寿だということが分かっています。ですので、幸せに気をつけると健康で長寿になるという良いことがあるわけです。
さらに、歳を取るにつれて幸せはどう変化するのでしょうか。長寿になっても、老いて不幸になるならばどうしようもないという指摘があります。しかし、人によっては意外と感じられるかもしれないデータが出ています。年齢を横軸に取ると、幸せはU カーブの形になっています。
つまり、この図を見ると、20代のときは幸せなのですが、そこから徐々に落ちていって、40~50代では幸せの底に至ります。それを超えると、徐々に幸せになります。このような統計的な結果が出ています。
皆さんが今20代であれば、残念なことに、これからしばらく幸福度は下がっていきます。一方、40から50代の方は、これからどんどん幸せになっていきます。もちろん外れ値の人はいますので、あくまで平均値として見てください。50歳から80歳にかけて、どんどんと幸せになっていくことが分かっています。
さらに、こちらのスライドの右下にもありますが、「老年的超越」という概念があります。一番下の行に書いてあるように、90歳から100歳の幸福度は極めて高い傾向があるのです。予防医学や産業医の方が、老年的超越研究という研究を行っていますが、90歳から100歳程度になると、欲も少なくなってくるのです。例えば、「朝ご飯と梅干しだけ食べられればもう幸せだよ」といった具合です。孤独にも強くなります。孫の顔を3か月に一度見ただけで、「ああ、大きくなったねえ」といって幸せに感じられるようになるのです。このように、幸せの感度が高まって、実はこの年代の人は非常に幸福度が高いことが分かっています。医者からこの説明を受けた時には、私は早く90歳になりたいと思いました。
考えてみていただきたいのですが、人は40歳を超えると、それからどんどんと幸福になっていくのです。90歳から100歳になると特に幸せになるので、皆がこうした状況を目指して生きることができれば、非常に幸せな社会ではないでしょうか。
日本は、これから世界で最初の超高齢化大国に...