●「和歌山モデル」の3プラス1の要素
―― 前回のまさに後半部分が、「和歌山モデル」と言い得るお話かと思います。一つにはまず保健所が、世界の中でも非常に日本独特の仕組みであることです。テンミニッツTVでも東京大学の橋本英樹先生に、そのあたりを2020年3月末時点で伺いました。
日本では保健所が津々浦々、各地方自治体に配置され、感染症が起きたときは発見して、隔離する。さらに濃厚接触者を探して、その人も隔離する。そうした実働部隊の力がある、というお話でした。
ただ、これは反面、それが非常に丁寧な仕事だけに、都道府県によってはPCR検査の足枷になったのではないか、ということですね。そこから批判が起きたのも、事実だったと思います。
では和歌山県モデルで考えたとき、保健所を有効に使うためにどうすればいいかということで、一つは知事がおっしゃるように町の診療所、町のお医者さんを一つの関所、第一関門として使うということです。当時日本では、「(37・5度以上の)熱が4日以上出ないと病院に行くな」とか、いろいろな指示がありました。これはマスメディアでも強調されていたことですが、和歌山県の場合はそうではなく、「病気になったら、医者に行ってください」というお話もされていたと。さらに各地の保健所では問い合わせが殺到してパンクしていたという状況で、そんな中、現場が有効に動けるように、和歌山県の職員を適宜配置してカバーしていったと。まさに保健所の現場が一番いい形で機能して、隔離ができる体制をつくっていったと思います。
そうした和歌山モデルの秘密といいますか、どのようにしてそれを構築し、どのような効果があったのかを教えていただけますか。
仁坂 (「和歌山モデル」と)名前を付けることでアピールするのは私の好みではありませんが、あえて申し上げると「早期発見」「早期隔離」、それから「感染者の行動履歴の徹底的な調査」という3つの要素だと思います。さらにもう一つ言うと、保健所の統合ネットワークをきちんとつくっておく。この4つかなと思います。
早期発見については、まさに今言われたように、町のクリニックにご協力をお願いしました。ここで「この人はコロナ患者ではないかな」と言ってこられたら、保健所がさっそく検査する。実際には陽性者は少ないのですが、もし陽性者が出たら隔離をして、行動履歴の徹底的な調査もする。これらを地道にやってきたのが、和歌山モデルといえば、和歌山モデルかなと思います。
●囲い込みをやることで感染の爆発を防ぐのは感染症法上の義務
仁坂 言葉でいうと簡単のように見えますが、「早期隔離」と「行動履歴の徹底した調査」は、実際はすごく大変です。チャートでお見せします。
―― はい。
仁坂 これはAという方が、例えばクリニックによって発見された場合です。この方には当然、家族もいるし、仕事場もありますから、そこでの濃厚接触者がいます。その家族や職場の濃厚接触者を、さっそく検査しに行くのです。これはもう悉皆検査です。その結果、ほとんどの方は陰性になり、陰性になったらそれでいい。
だけど陽性になったと仮定します。例えば、同居家族の奥さんが陽性になってしまった。すると、この奥さんの行動履歴を徹底調査しないといけない。勤務先にも同僚の方が何名もいるので、この方々全員の検査をする。このケースでいうと全部、陰性なので、これで終わりとなります。
同僚Bの方は陰性なので、これで終わり。同僚Cの方は陽性なので、これは同居家族を調べに行く。すると子どもにうつっていた。すると子どもの通っている学校で、大々的な調査をしないといけない。それで全部、陰性だったら、それで終わり。こうして端の部分が全部陰性になると、囲い込み終了となります。
この囲い込みを次々とやることで感染の爆発を防ぐのが和歌山モデルと言いましたが、じつは感染症法上の義務でもあります。日本のほとんどの県、特に地方の県の当局は、これを忠実にやっていると私は思っています。
●町のクリニックとの連携
―― それが決まりとはいえ、今のご説明を聞くと、本当に労力の掛かる大変なお仕事だと思います。そして早期発見の大切さですね。時間がたてばたつほど濃厚接触者の数が増えてしまうので、いち早く見つけ、早く隔離することがいかに大事かが、よく分かるお話でした。
一つ特徴的だったのが、町のお医者さんや県の職員をうまく配置するという部分です。このあたりの有機的な連携、まさにそれぞれのセクションが最大限に働けば、最大限の効果が出てくる。とはいえ現場によっては、そうもいかないケースもあると思います。仁坂知事は現場を預かるお立場で、どうすれば有機的な連携がつくれるとお考えですか。
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