●国内初の院内感染が和歌山県の病院で発生
―― 皆さま、こんにちは。本日は和歌山県の仁坂吉伸知事にお越しいただき、「新型コロナウイルス対策 和歌山モデルの教訓」というテーマでお話をいただきます。仁坂知事、どうぞよろしくお願いをいたします。
仁坂 よろしくお願いいたします。
―― 今また新型コロナの状況が厳しくなってきています。一時期、ゴールデンウィークのステイホーム週間で落ち着いていたものが、収録日である7月末にはまた厳しいものになってきています。そうした状況の中、今後どうすればよいか、まさに現場を率いられた和歌山県のモデルをご紹介いただくことで、考えていく講義にしたいと思っています。
今回、和歌山県が一番注目されたのが、新型コロナが流行り始めた最初期に、院内感染を含め、かなり感染が拡大したことです。このとき果敢にPCR検査を展開され、全国的にもよく報道されました。まずはその経緯から、お話しいただけますか。
仁坂 2月13日、和歌山県の紀中と紀北の間にある湯浅町の済生会有田病院という地域の中核病院で、医師とその同僚、さらに入院患者からコロナらしい症例が見られました。さっそく検査したところ、皆さん陽性ということで、「これは院内感染を起こしている。これは大変なことだ」と思いました。
病院ですから、入院患者には、もともと別の病気で重篤の方もいます。そういう方をよそへ移すことは不可能です。ですから、そういう方は入院したままの状態で、病院内感染を止めないといけない。そういうミッションが発生します。
当時日本では、ほとんどコロナの発生がありませんでした。のちに東京の屋形船で大量に感染者が発見されましたが、それ以前のことなので、瞬間的には日本で一番、感染者が多い県だったと思います。
この時、大事なのは、とにかく感染者を発見して、隔離をすることです。そこでまず入院患者にそれぞれ個室に入っていただき、その後、病室を訪問する医師や看護師、病院関係者から、順番を付けて検査をしていきました。
患者さんのもとを訪れる人は、患者さんにうつすことが考えられます。したがって、うつす可能性のある人から順番にPCR検査をして、陽性者が出たら、ただちに設備の整っている別の病院に隔離する。こういう方針を立てました。
その次に、検査をした医師や看護師たちの近くにいる病人の方。さらに全体の医師や看護師、コメディカル(医療従事者)の人たち。それから全員の入院患者。さらには病院の職員や出入りの業者さん。こういう方々まで、470人ほどいる全員のPCR検査をしました。
初めのうちは「これは大変だ」と思ってやっていましたが、隔離が成功してくると、だんだんPCR検査で陽性者が出てこなくなります。今でいうと、あるいは通例でいうと、そのあたりで経過観察に移ることも可能だったと思います。しかし当時、コロナはものすごく恐れられていたので、病院全体がクリアにならないと、県民の方や周りの方々が病院を信用してくれないと考えました。それでは病院の機能がいつまでも回復しないので、自分で決断して、全員のPCR検査をして、陰性を証明することにしたのです。
少し時間がかかりましたが、キットを厚労省に頼んで送っていただき、あるいは検査を大阪府に頼んだりして、なんとか10日前後で全部やり終えました。あとは経過観察だけなので、3月の初め頃には病院が晴れてクリアになり、ほっとしました。
●PCR検査で次々と陰性が確認された
仁坂 この時、今のメインの仕事のほかに、3つしなければいけないことがありました。一つは周辺調査をして、病院関係者以外の人たちに感染が広がっていないか確認することです。当時の発生源は、中国由来に決まっていました。中国の方が旅行にたくさん来られた時期だったので、その方々が出入りしているホテルや料理屋さんで、新たな陽性患者が出たら大変です。
これは非常に広範で、どこへ行ったかわからず、追跡するわけにはいかないので、県庁の職員にそういうところを訪問させました。そこで様子を聞き、PCR検査はしませんが体調の悪い人がいないかなどを、ずっと調べて回るのです。これもしばらくすると全部大丈夫と分かり、これも「やれやれ」となりました。
ここで気をつけるべきは、この感染症法上の仕事をする保健所の人たちのことです。私が「周りも調べてこい」と言うことで、保健所の人たちの手が足りなくなるといけません。患者さんの面倒を見たり、PCR検査をすることで保健所は精一杯ですから、保健所以外の人を動員して、そういう調査をしてもらいました。
2つ目は、感染者の早期発見です。一番初めに私は「ひょっとしたら県下中にコロナが蔓延しているかもしれない」という恐れを抱きました。そこで感染者をいち早く発見する方法を考え...