●「クリニックに行くな」の真相
仁坂 なぜこのように(前回お話しした町のクリニックとの連携を)したのかというと、もともと風邪を引いたら、普通クリニックに行くのが人情です。それを「行くな」と言うのは、おかしいというのが第一です。またコロナであった場合、4日間も放っておくと、悪化する場合があります。だから、それは重症者をつくるようなものとも思いました。
発熱して4日たって、やはり熱があるというとき、皆さんが行くのは「感染症指定病院」といわれるところになるでしょう。そうすると、その窓口で大混乱が生じます。実は来られた方のほとんどは風邪の重い人、あるいは別の意味での肺炎の方です。コロナにかかっている方は全体の一部で、さらに一部は大重症になっている。そうした中で現場は大混乱になりますから、やはり仕分けをしたほうがいいのです。
しかも今はコロナの時代ですから、「クリニックへ行くと、うつるかもしれない」と皆さん、クリニックへ行かない傾向が強い。クリニックのほうは忙しいわけではないので、「クリニックに行っていただいて大丈夫です」というシステムをつくり上げました。
その時、クリニックのほうでも、少し懸念を持たれるところも1つ2つありました。一つは「自分たちは感染症の専門家ではないし、呼吸器の専門家でもないのでコロナを治せと言われても無理です」というご意見です。これに対しては丁寧に、「治せとは言っていません」とご説明しました。「発見してくれと言っているだけで、おかしいと思ったら保健所に連絡していただければ、あとは全部、保健所と感染症専門の病院でやります」と。こう言ってご納得いただきました。
もう一つですが、当時ですからマスクもなく診察をしているクリニックが圧倒的に多かったのです。クリニックが入手すべきマスクや消毒薬などが、入手困難になっていた。「自分自身が感染リスクに晒されながら、診てくれというのはひどい」というご意見があり、それはごもっともなので、不足しているクリニックや病院には県庁でどんどんと機材などを調達して、運ぶことでご納得いただきました。
今は違いますが、国が当時なぜこんなことを言っていたのかというと、欧米の状況をご覧になったからだと思います。欧米では重症者が多すぎて、あるいは「われもわれも」と病院に押し寄せ、大混乱していました。その結果、重症者に十分な手当てができず、むざむざ死んでしまうこともあったわけです。それを見ているから、そうなっては大変だと、お医者さまの良心で「4日間は行くな」という話になったのだろうと思います。
だけど現実には当時、病院ですらそんなに逼迫していない。そのあと逼迫してきましたが、まして当時クリニックは、はっきり言うとそんなに(新型コロナが)流行していなかったので余裕は十分ある。そうしたわけで、重症化するまで放っておく必要はないというのが現実です。
それが分からないのは、たぶん専門家の方々は現場から学ぶことが、あまりなかったからではないか。あるいは感染症法とは日本特有のものですから、それについてあまり勉強していない可能性もあると思います。橋本英樹先生は別ですが。
感染症学の教養目録の中心が欧米の学問だからか、WHO(世界保健機関)などでやっているところは隔離をほとんどしませんでした。そして感染症が流行ると、うつるに任せてしまい、「これはいかん」と行動の制約をいっきにした。外出制限や営業の禁止などをいっきにやるのが、欧米のやり方でした。
すると先ほどのようなことが起こるのですが、日本だと感染症法で保健所がさばいていれば、そんなにめちゃくちゃなことにはなりません。そう考えるとやはりあの通達は、明らかに間違っていたと今でも思っています。
●「外からの情報」と「現場からの情報」を組み合わせる
―― 今「現場」という言葉が出てきましたが、まさに国も分からない。どこに問題があって、どこで引っ掛かっているか、なかなか気づかない、あるいは気づけないケースも多いと思います。どうして保健所がパンクしたのか。また、当時言われていたものに、「お医者さんが濃厚接触者になると、患者さんも濃厚接触者になる可能性があるので、町のお医者さんがかかっては大変だ」という議論がありました。だからあまり行かないほうがいいと。諸説が乱れ飛んでいた時期だと思いますが、その中でなぜ仁坂知事が、ご説明いただいた方針を打ち出せたのか。そこは現場で日々、毎日毎日歩かれる中で、どういう気づきがあったのでしょう。
仁坂 外からの情報を取り入れたのが、一つです。そして2つ目は、自分が現場の司令官ですから、現場の苦労など、さまざまな情報が如実に分かってきます。自分が(実際に現場での)仕事をしているわけではありませんが、現場の現状を...