●PCRは「隔離」のための手段
―― 非常に重要な論点をいろいろいただいたので、順番にお聞きしたいと思います。まず1点目が、PCR検査の検査数です。
2月中旬に和歌山県で発生して、当時はまだどういう病気かもよくわからない状況でした。和歌山県としても暗中模索のところもあったと思いますが、当時マスメディアなどでよく言われたのが、「とにかくPCR検査をたくさんしなければダメだ」という議論でした。
今の仁坂知事のお話を聞くと、ただ闇雲にPCR検査をやったのではなく、院内感染だったこともあり、そのときの状況に応じてやられたように思います。あの当時、「どんどんPCR検査をしなければダメだ」という大合唱に対し、どのように感じていらっしゃいましたか。
仁坂 当時も今も、識者の意見を含めマスコミの論調は、「PCR検査をたくさんしなさい」というものでした。たくさんやれるに越したことはないですが、極端にいうと例えば1億人に1週間に一度ぐらいPCR検査をしないと、不十分という発想になります。そして私はPCR検査の数だけが、すべてではないと思っています。なぜならPCR検査は第一義的には、隔離のための手段だと思っているからです。
この「隔離」は、テンミニッツTVで小宮山宏先生が使っておられる用法とは少し違います。小宮山先生は「ステイホーム」、家に閉じこもって接触を立つことを国民的な意味での「隔離」とおっしゃっています。私はもっとミクロで、感染者を病院に入れて接触を断つ意味での「隔離」です。その隔離のための手段だと思うのです。
これは感染症法で、「保健所がその機能を持つ」と定めてあります。誰を隔離すべきかは検査をしないと分からないので、PCR検査をして陽性者を隔離するのが本旨だと思っています。
当時はPCR検査できる数も少なかったので、われわれもずいぶん苦労しました。済生会有田病院で感染が発生した時は、私が「全部、検査しろ」と命じ、そのために検査を分析する環境衛生研究所の職員は一時、徹夜のような状況になりました。キットは厚労省に無理を言って頂き、さらに大阪にも頼みました。
●重要なのは「現場の癖」を知ること
仁坂 当時マスコミなどで、「PCR検査をたくさんした仁坂知事はえらい」などと言われましたが、各地の保健所はなぜやらなかったのか。実は「この患者さんはコロナではないか」と病院やクリニックから連絡を受けたとき、厚労省の通達に合わないので「それはやる必要はないと思います」と断っていた部分がたくさんあるのです。
コロナは当初、中国由来に決まっていましたから、中国ないしは外国から来た人、あるいはそういうところと関係ある人以外は、PCR検査をしても仕方ない。だから「やめなさい」とまでは言わないけれど、「中国由来、あるいは中国と関係がある方だけやりなさい」といった通達が出ていたのです。
それがだんだん「それだけではダメだろう」という議論が高まり、加藤勝信厚生労働大臣などが「自発的に、どんどん広げていただいて結構です」といった発言をするようになりました。けれども、現場である保健所の職員からすれば、通達が来ている以上、もっと上から明確な指示が来ないと、なかなか動けなかったと思います。
この「上から」ということですが、保健所の場合、全国の知事の監督下にあります。和歌山県の保健所では、私が司令官です。したがって私は現場をグリップしているので、「これは中国由来とか何とか言っている時期ではない」と判断した。済生会有田病院については全員検査し、あとでご説明するように、クリニックからいろいろな情報が来たら、「それは必ず検査をしろ」と言いました。「どんどんやれ」とサジェスチョンを与えたから、和歌山県の保健所は検査をやりやすかった。
だけど現場サイドで検査について明確に指示されているところは、当時はそうなかったと思います。したがって保健所がやたらと断る事態が起こり、それが全部国のせいにされたというのが、あの時の私の印象です。
だから「現場の癖」といったことを考えると、緊急非常事態のときは直接的な責任者が明確に責任を持ち、命令を出すことが重要ではないかと思います。