●「和歌山モデル」は人口が多い都道府県でも可能なのか
―― 前回、和歌山県と大阪府の比較の話が出ました。東京都も含めて、仁坂知事にお話しいただいた保健所のネットワークを中心とした総合的な対策、つまり「和歌山モデル」は、大阪や東京など人口が多い都道府県ではうまく回せないのではないか。そういう指摘なり批判も考えられると思います。ここはどのようにお感じになりますか。
仁坂 確かに少し難しくなる可能性はありますが、十分可能だと思います。例えば、一番初めに済生会有田病院の話をしましたが、あの時は和歌山県の地元の保健所が中心になり大活躍しました。だけど地元の保健所の規模は大都市よりも小さいですから、そこだけに頼ればパンクした可能性があります。そこに何でもやらせたら、パンクするに決まっています。だから、他の部署からもどんどん応援を出して、全体が機能するようにする。これを考えるのが、司令官の仕事です。
大都市は人口が多く、保健所もたくさんある。たくさんあるということは、たくさんの人間もいる。その他の公務員の数を考えたら、人口に比例しないまでも、それに応じてたくさんいます。そういう方々を一つの統合ネットワークのもとに駆使できたら、できるのではないか。そこはトップの腕だと思います。
2020年6月から7月の感染については、大阪も当初は完璧に押さえ込んでいたと思います。だけどとうとう大きく増え出した。だから押さえ込んでいる時を含めて、私はアドバイスした手前、「どうですか」といろいろ聞きました。きちんとやっておられたと私は信じていますが、それでもこんなに増えるのですから、やはりコロナとの闘いは容易ではないと痛感しています。
●大阪府と東京都の進め方をどう見たか
―― 今回、大阪府と東京都のあり方は、都道府県の対応の中で、特に注目されたと思います。両知事の政治スタイル、あるいは進め方は、知事からはどのように見えたでしょう。
仁坂 両方とも人気のある知事ですから、それぞれの都民、府民の方とうまくコミュニケーションを取りながら、やっていけばいいと思います。ただ、それぞれのトップが、わりとマスコミに取り上げられ、テレビなどによく出てこられます。そういう方の発言は、それが全部ではなく切り取られた一部の発言にせよ、「こういうことをやっている」ということが、すぐに分かります。
それを私が評価するわけにはいきませんが、例えば、「今日はたくさんの検査をしましたので、感染者もたくさん出ました」という発言です。問題は「今日○○しましたので」ということ(検査)は本来、毎日やらないといけないものです。和歌山的にいえば、あるいは感染症法上の法律的な義務からいえば、濃厚接触者を全部あぶり出し、積極的疫学調査をして、検査をするのが現在の一種の定めです。それなのに「今日やったから」ということは、「昨日やっていなかったのか」と推測されかねません。
また保健医療行政のことを、ほとんど口にされず、どちらかというと「若者が」とか「隣りの県の方々が押し寄せてくるから」という話ばかりされているとすると、行政としての片方の義務をきちんとやっているか、少し疑問を感じます。実際は分かりませんが、「大丈夫かな」という懸念を持つときもあります。
●経済を動かすため、感染拡大防止との戦いをどう進めればいいか
―― ありがとうございます。今後、状況がどう推移するかわからず、特にこの7月から8月に向けて、コロナとの戦いが非常に厳しいことを痛感しています。感染症と戦う一方、経済を死なせてもいけないということで、これらをどのように進めていくお考えでしょう。
仁坂 これは本当に難しい問題だと思います。基本に立ち返れば、感染拡大防止との戦いです。それは、行政の保健医療行政の責任と、国民の協力が重要だと申し上げました。問題はどちらに、どのぐらいのウエイトをかけるかですが、その時々で変わってくると言わざるを得ません。
例えば和歌山県でいえば、われわれは地方県ですから、東京や大阪との関係のもとに生活や経済が成り立っています。端的にいえば、そういったところの取引先もあります。それから、観光産業に関しては、果物などを売っているお店もあります。お客さまに来ていただかないと、ただちにわれわれが干上がってしまいます。
経済で干上がれば、コロナにかからなくても決して安泰ではないので、両立を図る必要があります。そのためには、保健医療行政のほうで必死に頑張り、できるだけ感染者を少なくする。それで耐えられるところまで頑張りますが、途中、「ちょっとこれはヤバい」と思う局面も出てきます。7月の事例でいえば、大阪や東京に、わざわざ飲みに行く。あるいは、繁華街に遊びに行く。そこでかかって帰ってきた例が、結構ありまし...