●アメリカのシンクタンクは官僚機構を補完
―― 今回は、先生がご指摘になっているシンクタンクについてうかがいます。アメリカでは、よくシンクタンクの話を聞くことがございますけれども。
曽根 はい。アメリカの政治一般を比較するときに気をつけなければいけないのは、いろいろな点でアメリカだけが例外というケースが非常に多いことです。シンクタンクも多分その一つです。アメリカのシンクタンクは本当に傑出して規模が大きく、予算があるため、シンクタンクを考える人はアメリカを真似したいと言います。
民間・非営利・独立という特徴があるわけですが、アメリカで民主党系のシンクタンクに行った時、イギリス人の官僚が来ていました。イギリスの公職を休んでアメリカのシンクタンクに来ていた彼が、とても面白く参考になることを言ってくれました。
「ホワイトハウスは規模が小さいですよ。あれでは政策がつくれません。だから、シンクタンクを使うのは当たり前でしょう。つまり、あれはイギリスでいえば、官僚機構がやっていることですよ」
なるほど、それを補完する機能としてのシンクタンクなのか。イギリスや日本では、そういうことは官僚機構が行っている。その部分を独立させて、アメリカではブルッキングス、ヘリテージ、アメリカンエンタープライズのようなシンクタンクがあるわけです。
●トランプ政権からシンクタンクの使い方が変化
曽根 ただ、このシンクタンクの使い方という点に関しても、トランプ政権ではちょっと違っています。
―― なるほど。トランプ氏で変わったわけですね。
曽根 確かにトランプ氏にもヘリテージとのコネクションはあります。でも、彼の場合は、あまり政策をいろいろなシンクタンクに発注したり、あるいはシンクタンクから出ている政策を吸収して自分の政策に置き換えたり、ということは行わない人なのです。
どちらかというと、思いつきの部分が大きい。だからシンクタンクというのは、トランプ時代ではあまり活躍の余地はないのではないかな、という気がします。
―― シンクタンクが行うのが日本やイギリスでは霞が関や官庁の領分だとすると、それを使わないトランプ氏の場合、どのようにして政策をつくっているのでしょうか。
曽根 その点、トランプ政権はなかなか読みにくいのです。彼は「アメリカ・ファースト」と言って、過去の国際的な秩序、例えば気候変動やTPP、あるいは最近でいえばWHOのような多国間の協定に関しては、非常に否定的な人です。だから、バイで国際交渉をするし、「アメリカ・ファースト」で、アメリカ独自でものを決める。
そういう意味では、アメリカの一般的な傾向なのか、ドランプ氏独自の路線なのかは読みにくいことの一つなのですが、例えばジョー・バイデン氏とトランプ氏を比較すると、バイデン氏の場合には、国際的な協調はもう少し復活するのではないか。となると、やはりトランプ氏が独自に、国際的な秩序や国際機関、マルチラテラル(多国籍)の仕組みを好まない。
好まないというのは政策の方向性の問題であり、制度的には官僚機構や専門家を割と軽視する。大統領権限の一つは官僚の任命ですが、官僚機構のポジションが空いていても全然平気という感じです。
―― ずっと空いているケースもありますね。
曽根 もう、たくさん空いています。国務省なんて、特に空いています。
●トランプの政策は思いつきか、そうではないのか
曽根 専門家(学者やシンクタンク)というのは経済政策や外交政策などを重視するので、どういう経済政策かを明言できますが、トランプ政権の場合、あまりそこは見えません。
そういう意味でいうと、過去のアメリカ政治一般が専門家や学者をうまく利用してきたとばかりは言えません。しかし、過去には例えばハーバード大学の教授が大量にホワイトハウスの補佐官や官僚機構の中に入り込み、政策を支えたというケースはずいぶんあるわけです。そういうところは、あまり見えません。
これは現在のトランプ政権時代の特徴ですが、もう一つは「常識派」というか、政権の中でもジム・マティス氏やハーバート・マクマスター氏のように、どちらかというと割合穏健で常識的な大人の発想をする人がいます。一方、トランプ氏が勝手にいろいろなことを言うため、外交などでも二重性を持ってしまうところがあるわけです。
ですから、マティス氏が「そんなことを言ってはいかん」とたしなめた時はいいのですが、マティス氏が辞任してしまうと、トランプ氏が独走するようなことがある。北朝鮮との問題などで、ボルトン氏が辞めた後にそのあたりのことをばらしてしまっていますし、他の回顧録や回想録を見ても、どうもトランプ氏は思いつきしかないのではないかと感じられます。
ただ、トランプ派の...