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2000年の歴史をうまく利用したムッソリーニの独裁

独裁の世界史~ファシズム編(2)ファッショとローマの栄光

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
概要・テキスト
ローマにあるマンホールの蓋などで確認できるSPQRの文字
ファシズムの語源は、古代ローマの「ファスケス」という権力の象徴である斧の周りに木の棒を束ねたものだという。ムッソリーニの手法にはこの古代ローマを意識したものが多く、第一次大戦の敗戦による多額の賠償で意気沮喪していたイタリア国民を奮い立たせるものがあった。(全7話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:27
収録日:2020/01/30
追加日:2021/03/19
カテゴリー:
≪全文≫

●「機会主義的」政治手法とイタリア社会を引っ張る力


―― ムッソリーニには、共産主義なり社会主義の理想を思想的ベースとして持ちながらも、政治的には「機会主義的」と呼べそうな、いろいろな機会を捉えて上がっていくようなところがありました。前回お聞きした反戦から参戦に転じる動きもそうでした。

 また、彼が権力をつかむきっかけになっていくのが、第一次世界大戦で参戦運動を行い、自分自身も第一次世界大戦に従軍したこと、また、戻ってきてから、かつての兵士だった人たちを糾合して、「イタリア戦闘ファッシ」という団体を作っていくあたりになります。ここから先の動きについて、どのように見ていらっしゃいますか。

本村 ファシズムの動きは、やはり前回言いましたように、帝国主義諸国が相争っている中で、「遅れてきた帝国主義」の国として切り込んでいくということです。それにはやはり一種の強力な権力でイタリア社会を引っ張っていくことが必要だった。

 そのあたりは、彼自身がもともとアナーキストだったからうまく切り替えていけたのではないかと思います。彼にとっては、指導者になって引っ張っていくことができなければ国家なんてどうしようもないわけだから、強力なファシズムというか、古代ローマに通じるようなファシズムに走っていったということです。

 ローマ的な伝統からいきますと、古代ローマの場合は非常事態になると「独裁官」というものが置かれます。平時はコンスルが2名いて交代で行う「同僚制」を取っているのが、非常事態のときには半年だけ、唯一の最高権力として独裁官が許されます。それは、ある意味で非常にうまいシステムではないかなと思うのです。


 結果的にどうなるか分からないけれども、非常事態に一時的に独裁政や独裁官を認めるのは古代ローマのやり方ですが、イタリア人たちはそういうものをローマ史として本当によく知っています。これはもう子どもの頃からいろいろなことを聞かされて育ってきているからです。そういう中で、「独裁も非常事態には悪くない」という考え方がイタリア人の中にはあって、ムッソリーニを許す社会になったのではないかと思います。


●「ローマ進軍」する黒シャツ隊と「ローマの栄光」


―― イタリア自体は、第一次世界大戦ではドイツとは違って戦勝国になります。ドイツの場合は第一次世界大戦で敗戦国になって多額の賠...
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