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「知を活用する」ためには人間のネットワークが必要だ

東大を人と人をつなぐ学びの場に(1)対話と共感

藤井輝夫
東京大学 総長
情報・テキスト
 2021年4月に東京大学第31代総長に就任した藤井輝夫先生に、お話しをうかがう。藤井総長が掲げるのは「対話と共感」である。今、社会が大きな転換期を迎えるなかで、大学は「いろいろなものをつないでいく役割を果たさなければならない」からだ。実際に「知識を活用していく」現場は、基本的に人を介在した環境になる。だからこそ、人とのつながりが重要になるのである。さまざまなネットワークのなかで、実践的な知が創出されていく環境が構築されようとしている。(全4話中第1話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:09:04
収録日:2021/03/17
追加日:2021/04/12
カテゴリー:
≪全文≫

●女性理事を過半数にする東大改革


―― 先生、今日はお忙しいなか、お時間をいただいて、ありがとうございます。

藤井 いいえ。こちらこそ、ありがとうございます。

―― 私が非常に驚いたのは「最初に、女性活用でダイバーシティを実現するぞ」ということで、いきなり理事の半分が女性になりました。まず、このあたりからお聞かせ願えますか。

藤井 ありがとうございます。もともと私には、女性のなかにも非常に優秀で「一緒に仕事ができたらいいな」と思っていた方々がいらっしゃいました。今回、そういうなかでお願いをしたところお引き受けいただけて、あのような布陣になったということです。

―― やはりリソースをたくさん持たれていたことが大きいですね。あと東京大学のなかにいらしているし。

藤井 そうですね。私はもともと学内の生産技術研究所(生研)の出身ですけれども、生研のなかだけではなく、いろいろ全学的な仕事をしていましたので、そこでもともと、いろいろな交流があったということです。

 やはり今、世界の状況を見ても、非常に変化が大きくなっていると感じています。とくに感じているのは、世界のなかのものの考え方の変化です。いろいろな価値観や境遇を持つ人々がいるし、地球の環境もそうですけれども、今までのようなリニアなものではありません。

―― (従来の)延長線上にはないということですね。

藤井 いわゆる経済的な発展の延長線だけでものを考えればいいということではなく、全体としてのいろいろなことに気を配らねばならない。経済や物質的なことだけではなく、文化的・社会的な全体の発展を考えなければいけない時期に差し掛かってきていると思います。


●さまざまな価値観を架橋する「対話と共感」


藤井 それを考えると、大学というのはいろいろなものをつないでいくような役割を果たせる存在だと感じます。ですから、ぜひそういうかたちで東京大学が人類や世界の発展に貢献できるようなことをやっていきたいと思っています。今は、まさにここからそれを始めたいというふうに感じているところです。

―― 「知の構造化」の拠点ですね。

藤井 そうですね(笑)。ある意味、そう言うのかもしれません。「知の構造化」については、昔お聞きしていました。これをベースに、人と人をつないでいく、組織と組織をつないでいく、さまざまな価値観の間をつないでいくといったふうに進めていきたいと思っています。

―― 確かに先生が言われるように、人と人、組織と組織とをつなぐところが一番大事ですね。

藤井 はい。ですから、テーマとしては今「対話と共感」と言っています。もろもろの間をつないでいくために、やはり対話、そしてやろうとしていることへの共感を広げていくことが大事です。

 大学が学外・学内の方々との間の対話を通して共感を広げていくそのなかで、社会全体からもご支援をいただかなければいけない。これは物質的にも精神的にも、支援していただく必要があります。それは学内の人たちともそうですし、たとえば産業界との間でも同じことだと思います。

 そういうことをやっていけば、東京大学としても発展できるし、わが国としても発展につながり、それが世界のためにもなる。そういうことかな、と思っています。


●人間への興味から広がる「知の構造化」


―― 人間に強い、人間に好奇心がある、人間が好きであるというのは、先生のすばらしい持ち味ですね。

藤井 まあ、そうかもしれないですね。

―― やはり麻布高校でバンドを結成され、水泳部に所属された。大学・大学院ではダイビング、ヨットをされていて、人と人とのつながりが非常に強い。

藤井 そうですね。人に興味があるというのは昔からそうでした。たとえば大学院生になって、「研究の道に入ってよかったな」と思ったことは、すばらしい研究をしている方に学会などでお目にかかると、その方に直接質問に行ってディスカッションできることでした。論文にしても、すばらしいものを読むと、「この人はいったいどんな人なのだろう」「こんなに凄い研究をするのは、どんな人なのだろう」と思うわけです。学者同士であれば、その人にコンタクトしてやり取りもできますし、学会で会えば話もできます。研究の道に入ったことは、自分にとってはそういう意味でとてもよかったと思うのです。

―― 人に関心があり、人とのつながりを求めていくというところですね。言葉で「知の構造化」というのと実際にそれを進めていくときとでは、人間に対するベースがあるかないかが非常に大きいですよね。

藤井 それは大きいと思いますね。とくに「知の構造化」ということを考えても、知識を得ていくことは、人間との関わり抜きでも知識は得られます。しかし、実際に「それを使おう」と思うと、やはり必ず...
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