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「不便益」認定の3つの条件とアフォーダンスの考え方

不便益システムデザインの魅力と可能性(4)不便益を理論的に考察する

川上浩司
京都先端科学大学教授
情報・テキスト
さまざまな分野で用いられている不便益デザイン。しかし、不便であってなおかつ益があればそれは直ちに不便益とみなせるのだろうか。不便益として認定するためには、3つの条件を満たす必要があるという。さらに、不便益における益の性質を考える際には、「アフォーダンス」という概念は参考になる。(全7話中第4話)
≪全文≫

●不便益認定条件は3つある


 このように、不便をあえてデザインに取り入れた例はたくさんあります。ここまで集めたものを分析、体系化してみました。

 不便益であることの認定条件として、この3つがあると思います。

 一つ目の条件は、不便だからこそその益が得られるというものです。「手間がかかり、頭を使う」からこそ得られるものであれば、それは不便益です。不便にしなくても得られる益だったら、それはそのまま便利にしておいてください。ここでは、「不便が不可欠だから」ということが大切です。

 二つ目の条件は、益も不便も、あなたのものであるということです。「あなたの不便が私の益」では最悪です。ある情報通信メーカー系の方が、「わが社の料金形態は非常に複雑にしてあります。これはユーザー様には不便かもしれませんが、ユーザー様が最安の、一番自分にフィットしたコースを選べなくて無駄に高いコースを選ばれるから、わが社はちょっと儲かっています。これ、不便益ですか?」と自嘲気味に冗談っぽく言いました。当然それはダメです。「あなたの不便が私の益」は最悪です。益と不便を被るのは同じ人ではないといけません。これも条件です。

 それから三つ目の条件は、益がそのマンマではないということです。ある人から「腹筋運動はしんどいから不便だけれども、腹筋が鍛えられるという益がある。これは不便益ですか?」と聞かれましたが、それは違います。それは、「そのマンマ」です。


●「不便益における益」と他の益との関係


 さらに先ほどお話した事例から、こうした3つの認定条件を踏まえて、それぞれの不便益において、どのような益がどのような益に関連するかという、益と益の間の関連図を作ってみました。

 ある益が存在することが原因で、ある他の益が結果として得られるという因果関係や、一方の益が他方の益に寄与しているという寄与関係が矢印で示されています。この図は整理したというにはグチャグチャしすぎですが、一つ一つまた説明すると繰り返しになってしまうので、ここではざっくりと説明します。

 この関連図の左半分に書いてあることとかなりよく似た説があります。

 この説は、ヒューマンファクターという分野で知られている30年ほど前に提唱されたものです。それによれば、人がシステムを信頼するには4つの要件があるといいます。

 この要件を満たしていると、人は人工システムを信頼するというのです。一つ目の要件は、「自然界を支配する法則や社会の秩序に合致していること」です。先ほどお話しした車に挿してねじる式の鍵の例は、物理法則や物理現象によって、われわれにフィードバックをくれることで不便益が得られていました。これは一つ目の要件に合致しています。

 他方、関連図の右半分とよく似たことを言っている人もいます。

 デザイン界では知らない人はいない、D.A.ノーマンさんという人です。彼は、『誰のためのデザイン?』(原題:The Psychology of Everyday Things)でユーザー中心設計というものを提唱しました。

 これはいわゆるユーザビリティデザインのエポックの1つになっています。それまで、高機能化、機能偏重、できることはコテコテにつけるというデザインだったのが、三十数年前頃からユーザビリティデザイン、すなわち、ユーザーの使い勝手ということで、ユーザーを中心に見てデザインしましょうという動きに変わっていきました。ノーマンさんの考えは、動きが始まったエポックの1つになっており、そのときに使われたのが、「アフォーダンス」という概念です。

 「アフォーダンス」とは、英語のアフォード(afford)する、何かを提供するとか供給するという動詞を無理やり名詞にしたものです。これは生態心理学者のジェームズ.J.ギブソンさんという方が当時造りだした名詞です。ノーマンさんはその「アフォーダンス」という言葉を使って、ユーザビリティデザインを説明しました。


●エモーショナルデザインとアフォーダンス


 なかなか難しい概念ですが、それを私なりに解釈した例がいくつかありますので紹介します。1990年当時、30年前に私の息子が使っていた水筒の例です。

 この水筒は中にお茶が入っているのですが、これを人はまずどうしたくなるでしょうか。もう赤いボタンを押す、の一択です。ノーマンさんが言うには、この水筒は私たちに「この赤いボタンを押せ」とアフォードしているといいます。つまりこの水筒にはアフォー...
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