●やる気や好奇心に関係するホルモンのために大切な生活習慣
―― 最後に、子育てということでいいますと、どうやってやる気を育てるか。これも非常に多くの親御さんが困っていらっしゃることかと思いますが、いかがですか。
黒川 やる気については、ポイントが2つあります。一つは、小さな頃には、実験期があります。2歳から、長ければ7、8歳くらいまで続きます。子どもが自分の脳と外界との関係性を探っているところです。例えば、ミルクのコップを倒す。お母さんがあわてて拭いて新しいミルクのコップを出したら、また倒す。このように「どうなっているの、この子」というときがあるのです。オモチャを投げる。取ってあげても、また投げる、といった具合に。
あれはもちろん意地悪をしているわけではなく、同じことが起こるかどうかの物理実験とまったく一緒で、世の中がどうなっているかということを、自分が世の中に働きかけて知ろうとしているときです。そのときに、あまり叱ったり禁止したりしてしまうと、「世の中はどうなっているの」という好奇心が少し弱ってしまうことがある。2歳から始まる実験期を大人も一緒に楽しんであげて、と私はまず思います。
でも、これはそれほど大きな問題ではありません。人間の好奇心は抑え切れるものではありませんから。ですが、好奇心を出すためのドーパミンやセロトニンというホルモンがあるのですが、これは生活習慣がきちんとしていないと出てこないのです。
例えばセロトニンは、きちんと朝起きて、ご飯を食べて、1日を始める。そのご飯も、甘いだけのご飯は危険で、たんぱく質もきちんと摂らなければいけない。このように、早寝早起きをし、しっかりとした朝ごはんを食べるといった普通の生活習慣の中で、脳内の神経を制御するホルモンがしっかり出てくる。好奇心のホルモンであるドーパミンやセロトニン、それから集中力のホルモンであるノルアドレナリンが、しっかり出てくるわけです。
結局、やる気も好奇心もホルモンが出させてくれるのです。栄養が足りていない、生活習慣が悪いと、ホルモンは出てきません。だから、早寝早起き、そして、たんぱく質やビタミンをしっかりとる、食事に気をつけてあげてほしいなと思います。
それから、コレステロールは体に悪いと思い込んで、成長期の子どもにもコレステロールはあまり食べさせたくないと思っているお母さんがいたりするのですが、脳はコレステロール性です。およそ脳の6割が脂、3割がコレステロールなので、コレステロールが足りないと電気信号が減衰してしまう。やる気の信号がたとえ起きても、それが届かずに落ちてしまう。好奇心も湧かない、集中力もないのに1時間、教室に座って勉強するのはものすごく苦痛です。
なので、ぜひ栄養たっぷりのものをあげてほしい。更年期や熟年世代がダメといわれているものを勝手に適用しない。汗をかく子どもは、やはり塩をとらなければいけないのに、減塩もし過ぎるとアダになります。ぜひ、しっかりと栄養をとらせてあげてください。
●親が子どもの失敗に大らかになることが大事
黒川 それから、親が子どもの失敗に大らかになることですね。失敗は脳神経回路を劇的に書き換えます。失敗して胸が痛い思いをすると、夜寝ているあいだに脳が書き換わって、失敗しにくい回路に変わる。もっと正確にいうと、「ここには電気信号を流さないほうがいいよ」という場所をちゃんとつくれるのです。その結果、電気信号を流していい場所が見えてくるわけですよ。これが「勘」と「つかみ」と「成功」のための回路です。センスがいい、勘がいい、展開力がある、発想力があるという脳は、失敗でつくられていくのです。
ですから、せっかく失敗の回路を消したのに、子どもの失敗に親が子どもよりも恐れて、「あなたはあのときも失敗した、このときも失敗した」とぐずぐず言うと、失敗の回路をもう1回上書きすることになってしまうのです。親があまり、失敗に対して過敏になって先へ手を打つ、失敗されたらガッカリするといったようにしていると、子どもの脳のタフさ、生きる力が弱くなっていく。だから、ぜひ大らかでいてあげてほしいなと思います。
●夜のゲームやスマホが脳や身長に影響を及ぼす
―― 最近のお子さんは、スマホでSNSを友達同士でしたり、ゲームをしたり、どうしても夜更かしになって朝に起きられない。朝に起きられないから、菓子パンでも食べて、学校に出かけていくケースもありますが、これはどうすればいいのでしょうか。
黒川 私は、子どもがゲームをするような年齢になったら、きちんと話し合うべきだと思います。私たち人類は、というよりも、地球上の生物は昼と夜の闇と光の強弱の中で脳を進化させてきているのです。網膜に映った光が、視神経を通して脳下垂体、視床下...