●「中国の夢」に向かって突き進む習近平政権
非常に大きい文脈の中で米中対立は考えたほうがよいのではないかというのが、私が前回まで大きいコンテクストを申し上げてきた理由です。
米中対立ということで、もうご承知の通り、習近平氏は「中国の夢」と言っています。もうすでに2017年の党大会ではっきり「強国」という言葉を頻繁に使うようになってきています。2018年には憲法を改正して、参戦規定も止めてしまいました。ついこの間の中央委員会総会(2021年11月)では、歴史の見方も変えてしまいました。ここには書いていませんが、習近平中心の歴史の見方になったのです。
そこでの基本的な判断は、世界の趨勢は「中国の夢」を実現する好機であるという考え方です。この場合の「中国の夢」は“China Dream”であり、“Chinese Dream”ではありません。つまり、国が偉大になる夢です。中国はこれからも台頭しますが、米国は衰えると思っています。しかし、2040年あるいは2045年頃を見通すと、中国には少子高齢化の未来が待っています。そのため、「中国の夢」を実現する時間、あるいはそのウィンドウは限られています。たかだか20年ほどしかありません。だから、その間に何としても自分がやるというのが習近平氏なのだと思います。
●米中では、ルールメイキングにおける違いがある
歴史的に見たときに、その転機はいつかというと、私はほぼ間違いなく2008年の世界金融危機だと考えています。その後、まだ胡錦濤時代ですが、中国の党と国家は「韜光養晦(とうこうようかい)」から自己主張へと動きました。習近平氏が主席になったらすぐにバラク・オバマ大統領にG2の提案をし、同時に周辺外交ということで、「一帯一路」を言い始めました。
特に地域秩序について私自身が関心を持っていることですが、仮に自分を中心とした秩序を作ろうとすれば、何らかの原理が要ります。これは別に中国とアメリカだけではなくて、かつては日本もそういう秩序を作ろうとしました。そして中国の場合、原理は何かというと、「中国はどんな国よりも大きいのだから、小国は言うことを聞け」ということで、それがどうも中国の基本的な考え方であると私は思います。実はこれは帝国的ルールメイキングのやり方です。
どういうことかというと、帝国として、自分たちで法律を使ってルールを作って、それを周りの国に押しつけていく、これが帝国的ルールメイキングです。それに対応するルールメイキングは何かというと、アメリカがやったりやらなかったりするのですが、多くの国が集まって決める“Multilateral”なルールメイキングです。多くの国といっても、WTOのようになるとまとまりがないので、例えば10カ国、あるいはもっと小さい数です。
私は半導体に関することだったら、4~5カ国でいいと思っています。そのくらいで集まってルールを作ります。当然そのときにはアメリカの言い分が相当通りますが、いっぺんルールができるとアメリカもそれにしばられます。こういうルールのつくり方を、私は「マルチラテラルな」、あるいは「多角的な」ルールメイキングと呼んでいます。中国はこれをやりません。完全に帝国的なルールメイキングで、自分を中心にした勢力圏を作ろうとしています。
●勢力圏の拡大を目指す中国の戦略
では、それをどうやって作っているのでしょうか。まず一つ目に、当然のことながら、一番根本にはナショナリズムがあります。そのため、中国の国民は、中国という国が偉大になるということでお国のために努力します。経済的には「双循環」といわれますが、内需主導で同時に新興国を重視して、国有企業主体で新興国に出ていきます。ここで新興国の、例えばスマート・シティに関わる技術基盤や産業基盤を押さえてしまうのです。
二つ目ですが、新興技術・産業では、ものすごい額のお金を技術に投資し、国内経済に支えられた産業政策や軍民融合をやっています。
三つ目(「一国二制度」)ですが、もう香港は処分していて、これが台湾の将来、あるいは南シナ海の将来を非常に不確定にしています。
四つ目に、米中競合への対応としては基本的に経済的な手段を使ってやっています。例えば東南アジアについては、「一帯一路」でずいぶんお金を出して融資しています。最近の研究を見ると、例えば日本やADB(Asian Developing Bank)など他のワールドバンクも相当融資しています。中国の政府や国有企業が東南アジアの国、あるいはそれ以外の地域の国と、例えばインフラ整備について契約したときには、その契約内容を他国には知らせない、返済については中国を最優先...