●ドイツの政権交代がEUの外交に与える影響とは
それを申し上げたあとで、世界がどうなっているかについて話します。
まずヨーロッパの状況ですが、EUはもう本当に宗教のようで、なんと2021年から2027年までの中期予算を立てています。EUは団体であって国ではないので、大したお金を持っていないのですが、それでも約220兆円出すのです。そのうちの半分は地球環境とデジタル戦略です。これが成長戦略だとEUの人は本気で信じているのです。これはもうほとんど宗教です。
そのためにEUも稼がなければいけないので、EU排出量取引や国境炭素税、法人新税など、7つも新しい税をつくってそれでやるのだといっています。そして、アメリカはそれについていこうとしています。日本もついていかないと追い出されてしまいます。
EUは、Brexitでイギリスが出たので、他の国にもそれをやられたらかなわないということですが、今怪しいのがポーランドとハンガリーです。EUの規約に反しているので、EUはこれをどうやって懲らしめようか懸命に考えているのですが、大変です。
アンゲラ・メルケル氏がドイツの首相だった時は、ロシアや中国と良い関係を持っていたのですが、今のEUの主要国、特に新しいドイツはそれを認めません。それから、アメリカとの間に隙間風が入ってきました。先ほどから申し上げていますが、アフガニスタンから撤退した時のことが、もうトラウマになっています。そして、AUKUSをつくってEUを太平洋から排除したので頭にきています。
次にドイツの政権交代です。やはりメルケル氏はすごくて、16年間首相やっていました。メルケル氏は別に新しいアイデアはないのですが、調整の名手です。駆け回って、調整して、一番良いところを見つけてくれます。ロシアとも何とか都合をつけていました。メルケル氏は、16年の間に自動車産業グループを連れて、12回も中国に行っています。そのため、中国にとってドイツは友邦に近いのです。かといって、インド太平洋、ヨーロッパと一緒にやるために、フリゲート艦の派遣もやっています。国際関係をよく見ています。
ドイツの新しい政権は、「信号連立」というのですが、SPD(ドイツ社会民主党)の党のカラーが赤です。Die Grunnen(緑の党:編注:Grunnenは実際はドイツ語表記)が緑です。そして、FDP(自由民主党)が黄色です。これが交通信号と一緒なので「信号連立」といっているのですが、この連立の党で協定を結んで、戦略を組んだのは、今回が初めてです。そのため、メルケル氏のようにはいかないでしょう。ドイツの指導力はずいぶん落ちると思います。
●その他のEU関連諸国の現状と今後の行方
それから、フランスはなぜかものすごく右翼化してしまいました。フランスはもともと中道左派と中道右派でバランスを取っていたのですが、最近は左派が全然ダメで、今度の大統領選も4人出てきたら、みんな超右翼でした。
マクロン氏がそれをほっといたら、この4人の中の1人が、マクロン氏より人気が高くなってしまって危ないので、マクロン氏が急に右翼的になってしまいました。
マクロン氏の一番のパートナーはメルケル氏で、メルケル氏がいるからメルケル=マクロン枢軸でヨーロッパを仕切っていました。フランスも影響力がうんと下がるのも目に見えています。
そこへきて、Brexitでイギリスが出ています。イギリスは出れば会費が戻ってくるなど、良いことばかりいっていました。他にも、減税になる、自由が増える、あるいは規制緩和して経済活動が活発になるなどといっていたのですが、これは全部嘘でした。それをいっている張本人がボリス・ジョンソン首相です。
ジョンソン氏はコロナが流行ってきた時に、「これは集団免疫で大丈夫だ」といって何もしなかったら、とんでもない死者が出てしまいました。そして、いきなりロックダウンで都市閉鎖したので、今度は経済がドカーンと落ちてしまいました。ところが、イギリスはワクチンの主要企業を持っているので、ワクチン接種がうんと早く進みました。それで、もう自由にやっていいよと言ったら、今度は消費がドーンと増えて、経済が空前の景気になりました。
ジョンソン氏はそれでプラスになったのですが、嘘をついたりしたので、今ジョンソン氏の評判はものすごく悪いの...