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「エネルギー危機」問題につきまとう理想と現実のジレンマ

「危機の時代」の気候変動(6)エネルギーの安定供給のために

小原雅博
東京大学名誉教授
情報・テキスト
各国が化石燃料から再生可能エネルギーに移行する中で立ちはだかるのは、電力の安定供給をどのように担保するかという問題である。特にエネルギー価格の高騰など世界が危機に瀕した時に、その問題は顕わになる。再生可能エネルギーへの移行期をどう乗り切るかについて、注視すべき点を見ていく。(全6話中6話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:15:56
収録日:2022/02/16
追加日:2022/05/12
≪全文≫

●「電力供給の安定性」という難題


―― では順次、質問をしていきたいと思います。まず前提として、今回のシリーズ講座の冒頭でお話しいただいたように、各国の科学者が研究をした結果、現状においては気温上昇を1.5度以内に収めなければならず、そこに至るまでの削減量なども算出されたということですね。

小原 はい。そういうことです。

―― それがまさに「総論賛成」の総論部分になってくるということですが、最後にお話しくださったように、実際それをどうやって実現していくかというところで、かなり難しい問題が出てきているということですね。

小原 はい。特に今、世界が直面しているのがエネルギー価格の高騰です。特に化石燃料においてです。これは、やはり一気に再生可能エネルギーに転換しようとする中で生じている問題だと思います。先ほど言ったように、再生可能エネルギーは供給が不安定です。不安定な局面になったときに、どうやって電力供給を安定させるのかという非常に難しい問題に今、世界は直面しているのです。

 したがって、移行期(再生可能エネルギーに完全に移行するまでの間)をどうつないでいくのか。その間に起きるエネルギー危機にどう対応していくのか。これらを考えると、経済の問題あるいは地政学の問題などが関係してきます。そういう意味で難しいところがあります。

 だけど、その問題を乗り越えながら、なんとか気温上昇を1.5度以内に抑えていかなければいけません。今、全ての政治的な目標が達成されたとしても、科学者からすれば、1.5度以内に抑えるのは絶望的だといわれています。従って、この大きな目標を達成し、人類の危機に打ち勝つためには、もっともっと努力をしなければいけません。

 そこには技術革新が必要ですし、途上国支援が必要です。そしていろいろな制度づくりも必要です。J-クレジット制度など排出権取引あるいは税制も含めて、国家の役割も重要になってくると思います。


●技術革新と化石燃料市場とのバランスがカギ


―― そうしますと、今後のエネルギー政策、ないしは産業政策を考えるときに当然、資源価格がどうなるのかが重要となります。そこで、ぜひ長期的な見通しをお聞きしたいのですが、小原先生は今後の資源価格についてはどうお考えですか。

小原 第2話で「parity」の話をしましたが、やはり技術革新の果たす役割が非常に大きいと思います。例えば水素にしても、技術革新によって水素の生産コストが下がって「parity」になっていけば、これまでの化石燃料依存から十分抜け出せます。

 化石燃料のエネルギー価格の上昇は、当然ながら市場(需給)で決まってきます。需要が急に増えた場合にそうなる。再生可能エネルギーに移行している流れの中では、化石燃料への投資が今後どんどん減っていくわけです。大きな投資家が化石燃料への投資を控えていっている。だから将来、供給と需要にギャップが出る可能性があります。

 そういったギャップが出ないようにするために、再生可能エネルギーをどんどん増やしていかなければいけない。そのための一つの道が技術革新だろうと思います。

 その技術革新において、日本企業も今、相当いろいろな努力をしています。そうしたものが今後、年を追うにつれてどんどん加速され、そうした市場が広がっていくのでしょう。つまり、「技術革新のスピード」と同時に、「化石燃料の市場」との関係になってくると思います。

 だから今回のようなエネルギー危機が起きた場合、当座は、例えば天然ガスが必要です。そのためには、アメリカもカナダからのパイプラインをバイデン政権は閉じたりしているわけですが、こうしたものも当面は必要になってくるでしょう。

 当面の移行期は、やはりバランスでしょう。このバランスを取るのが、地政学に利用して自国の政治的な目的を達成しようという(例えばロシアのような)国が現れると、なかなかその転換期においては難しい。皆で共通の危機を乗り越えようとする動きとは逆行する政治的な動きが難しい問題を起こしています。ここが最大の悩みでしょう。


●世界各国とのさらなる結束も必要


―― 当然、企業の戦略判断もそうですが、今後化石燃料の価格がどうなるのかを予想して、その上でどう技術革新をしていくかという発想になってくると思います。日本としてはこれまでのような状況が一変して、化石燃料は比較的高値で行くであろうということを見越して、新しい再生可能エネルギーや水素などの技術革新を進めていかなければ、国家戦略としても相当厳しくなるという認識のほうがいいのでしょうか。

小原 これはエネルギー危機が起きたときに皆が感じることだと思います。理想は素晴らしく「再生可能エネルギーでCO2排出を削減して脱酸...
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