●「第3の肉」登場の背景にある4つの課題
―― 今、先生の研究の位置づけをお聞きしてまいりましたので、いよいよ具体的に研究がなぜ必要かというところから、どういう課題があるのかというところまでいろいろお話を伺ってまいりたいと思います。
竹内 培養肉や代替肉も含めて、いわゆる「第3のお肉」のようなものが登場した背景は4つあると僕は思っています。1つは人口増加に伴うタンパク質不足(食糧難)。もう1つは環境負荷。3つ目は安全性。そして最後が動物福祉の問題だと思っています。
例えば、タンパク質不足の話にいきますと、あと30年後、だいたい2050年くらいに人口は100億人くらいになるので、今より30億人くらい増えてきて、いわゆる新興国がどんどんリッチになっていくと考えられています。新興国がリッチになってくると、だんだんとお肉を(もっと)食べるようになるというデータもあります。そうすると、今よりも増えた人口の分だけお肉の供給を増やさなければいけないという状況になるのです。
お肉の供給を増やすということは、今、唯一できるのが畜産の拡大になるわけです。ただ畜産の拡大というのは、さまざまな課題を抱えているのが現状で、これ以上増やすことはできないのではないかということで、その1つは環境の問題です。
環境の問題でいきますと、例えば人間が出している温室効果ガスの14.5パーセントくらいが畜産由来だといわれています。これはいろいろ議論がある中でのデータなのですが、畜産(業界)もその状況は理解していて、どんどんそのガスを少なくしていこうという努力ももちろんされているのです。
例えば、メタンガスが畜産から出てくるのが今、問題になっています。そのメタンガスをできるだけ出さないような飼料を開発するということで、未来永劫ずっと出し続けるということはおそらくないと思うのですが、現状ではそのくらいの割合を畜産が占めています。
あと、例えば1キロのお肉を作るのに水は1.5万リットルから2万リットルくらい使われているといわれています。また、その1キロを育てるための餌は11キロから25キロくらい使われています。その餌に使われるのが、大豆やトウモロコシのような穀物です。これは人間が食べてもいいようなものを飼料として使っているということで、その効率性をもっと上げられないだろうかという議論につながっています。
次に排泄物です。これはいろいろなメタンの発生源になっており、エネルギーとしてももちろん使われているのですが、だいたい100キロくらい出ています。
ということで、1キロのお肉を作るためにいろいろなエネルギーが使われているというのが現状であったりします。これをいかにセーブしていくかということが1つの課題になってきています。
3つ目は安全性の問題で、例えば家畜を人の社会の中で飼うということになると、動物と人間が共存することになりますので、人獣共通感染症との戦いでもあるわけです。
例えば鳥インフルエンザとか、最近ですと豚熱ということをよく聞いたりすると思います。1度その農場で数頭の家畜がその感染症にかかると、農場にいる全動物を殺処分にしなければいけません。この間、豚熱が5万6000頭くらい農場にいたのですが、2カ月間かけて殺処分していかなければいけないというニュースがありました。これは経済的にも負担ですし、心理的にもものすごい負担で、いろいろな議論を今、巻き起こしているという状況です。
細菌由来の感染症を防ぐためには抗生物質が有効なのですが、例えば米国で使われている抗生物質の約8割は、人間ではなく家畜に打たれているという状況が報告されています。
―― 8割も、ですか。
竹内 そうです。家畜に抗生物質を打てば感染症は一応防げるわけなのですが、細菌、バクテリアのほうもどんどん進化していきます。そうしますと、いわゆる抗生物質耐性菌がどんどん生まれてくるというのが、実は問題になってきています。つまり、抗生物質を打てば打つほど、抗生物質耐性菌が出てきてしまうというイタチごっこが続くわけです。
そういった抗生物質耐性菌が食品、環境、あるいは僕らが直接接することによって人間に感染してしまうというような状況が起こったときに、抗生物質はもう効きませんので、最悪の場合はパンデミックが起こってしまいます。そこで、抗生物質自体をなるべく控えていきましょうというような話は聞いたことがあると思いますが、今、家畜にはそれがたくさん打たれているという状況です。
あとは、同じ安全でも、いわゆる安全保障の問題もあります。今、社会情勢のいろいろな変化の中で物品が高騰していると...