●政治と経済は実験室の中では捉えきれない
―― 皆様、こんにちは。本日は曽根泰教先生に「国際変動の中の経済政策」ということでお話を伺います。先生、どうぞよろしくお願いいたします。
曽根 よろしくお願いします。
―― ちょうど先日、国内的な政治の話と経済学といいますか、経済政策の話を伺いましたが、今回は国際変動についてですね。
曽根 経済は真空の中で動いているのではなくて、国内政治のプロセスの中で経済政策が実行されているというお話をしたのですが、今回はそれが世界の荒波、つまり国際的な変動の波をかぶっている政治であり経済であるというお話をしたいと思うのです。
―― ますますいろいろな影響を受けてくると。
曽根 はい。複雑になりすぎるというのが1つの欠点ですが、しかし、実験室の顕微鏡の中で、フラスコの中を見ればいいというものではないということは分かっていただけると思います。
●20世紀の政治と経済~時代の荒波に影響される学説と政策の実際
―― ありがとうございます。では早速お話をいただければと思います。最初はまさに20世紀の政治と経済というところからスタートしますね。
曽根 はい。これは前の世紀ですが、ずいぶんといろいろなことが起きて、その過程の中で経済政策もどんどん変化していったわけです。その代表が第1次世界大戦と第2次世界大戦です。日本人にとっては第2次世界大戦、つまり太平洋戦争の影響とその戦後が重要なのですが、ヨーロッパ人にとってそれは第1次世界大戦と第2次世界大戦の戦間期です。特に第1次世界大戦のショックはかなりあって、イギリスのインテリたちにとっても第1次世界大戦での経験はプラスマイナス、非常に大きかったと思うのです。
さらにいえば、ロシア革命が起きました。それから世界経済でいえば、大恐慌が起きました。その間にドイツからの賠償金の問題などがありますが、大恐慌を乗り越えるにはどうしたらいいかということです。
そしてそれと同時に、どうしたら戦争を食い止めることが可能なのかという努力もあったわけです。国際連合が第2次大戦後にできるわけですが、国際連盟はこの大戦間にできます。アメリカは入っていないとか、これで戦争を予防することができたのかというと、やはりその反省のほうが大きいということです。
そういう意味では、戦争の間にはIMFという国際通貨のシステム(この前お話ししたように戦争の時期にケインズとホワイトでブレトン・ウッズに集まっているわけですが、戦後の体制をそこでつくり出した)とか、あるいは貿易に関してはGATT、今でいうとWTOです。ところが今、WTOが動かない、あるいは国際連合が動かない。ではG7でいくのか。しかし、G7をG8にしたらまずいということで、G7に戻してしまいました。でもG7はあまりにも狭すぎるからG20だと。そうなると、ロシアも中国も入ってくる。そうすると、ものが決まらないというようなことがあります。そういう意味で、破局を防止するシステムを模索中です。
それから、プラスマイナス両面あるのですが、第1次大戦、第2次大戦の頃に比べてグローバル化がものすごく進みました。特に金融は即時の決済ができます。つまり、それぞれの国で発行している通貨よりもマーケットで流れるお金のほうが何倍も大きいのです。
それから通信のシステムです。つまりインターネット、あるいはChatGPTという話題ですが、いろいろな通信手段が発達しました。
さらにいえば、グローバル化は、コロナの問題もあります。この2、3年、みんなコロナ禍で疲弊したのですが、そのことは20世紀にスペイン風邪で経験しています。スペイン風邪で亡くなったインテリの人も結構います。
そういう意味でいうと、われわれは一見安定的な秩序の下に国の政治体制があり、政治体制の中で学問があるように思っているけれど、これだけの荒波にさらされているということを理解したほうがいいのではないかという問題提起なのです。
―― これは時間の波でいっても、相当短い波ですね。数十年単位でコロコロ変わっていくというイメージですね。
曽根 はい。こんなにいっぺんにいろいろなことが起きたのかということです。
曽根 次のページをご覧ください。これは前回の講義でも出した図です。国際変動には国内から及ぼす影響もあるけれど、国際変動の波をかぶっている。つまり、安定的な列車のようにレールの上をずっと動いているのが国内政治だと思っているかもしれませんが、それよりもむしろボートで荒波(の海)に出ていって、そのボート自体が揺れているということです。その中での経済政策、あるいは経済学説であると考えると、その理解はもう少し違ってくるのではないかと思います。
―― こ...