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日本資本主義の父・渋沢栄一が『論語と算盤』で説いた道徳

グローバル化時代の資本主義の精神(4)日本の近代資本主義~渋沢栄一から福澤諭吉まで

中島隆博
東京大学東洋文化研究所長・教授
概要・テキスト
渋沢栄一
日本の近代資本主義の精神にも日本版プロテスタンティズムと言える系譜がある。「道徳」「勤勉」をキーワードに、あるいは、陽明学を受容、時に否定しつつ時代を築いた日本の近代資本主義。渋沢栄一、井上哲次郎、内村鑑三、福澤諭吉の思想を中島隆博氏が解説する。(2014年11月7日開催日本ビジネス協会インタラクティブセミナー講演より、全6話中第4話目)
時間:17:03
収録日:2014/11/07
追加日:2015/05/28
≪全文≫

●『論語と算盤』で立てた渋沢栄一の道徳経済合一説


 少し日本の近代を振り返ってみたいと思います。

 渋沢栄一は、当然、皆さんご存知ですよね。ただ、渋沢の著書をお読みになったことはありますか。一番有名なのは『論語と算盤』ですが、タイトルがおかしいでしょう。しかし、まさに渋沢は、そこでマックス・ウェーバー的な「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を反復しようとしました。日本でもできるはずだと考え、「道徳経済合一説」を立てるのです。

 『論語と算盤』は1916年が発刊されたのですが、その前から渋沢はこの議論をしているのです。冒頭で少し不思議なことを言っています。

 「一日、学者の三島毅(中州)先生が、私の家へ来られた。自分が年賀状にもらった絵を見せた。そこには論語と算盤の絵が描いてあった。それを見て、面白いと言われた三島先生は、『私は、論語読みだ。お前は算盤の方だ。算盤を持っている人間が論語を論じる以上は、自分も算盤のことをやってみよう。論語と算盤をなるべく密着するように努めよう』と話された。」


●「正しい道理の富」を説いた近代資本主義の父・渋沢栄一


 そして、こう言っています。

 「富を成す根源は、仁義道徳、正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することはできない。」

 これが日本の近代資本主義の父と言われている渋沢の考えです。

 三島中州をご存知の方は、おそらく多くないかと思いますが、二松學舎(現在の二松學舎大学)をつくった人で、東宮(後の大正天皇)侍講を務められました。彼はフランスに詳しく非常に近代的な人でしたが、同時に論語や陽明学を近代的に読み直す作業を延々とした人です。非常に面白い人物で、キーパーソンです。夏目漱石も、若い時に三島に習っていますし、中江兆民も習っています。その三島と渋沢は、気が合ったのですね。


●エピソードを通し、繰り返し語った「勤勉という道徳」


 渋沢は、作り話ではないかと疑いたくなるようなエピソードをわざわざ紹介します。自分の父親にいろいろな説教をされるのですが、その中にこういう話があったそうです。

 「自分の実家の近所に勤勉な爺さんが住んでおり、その爺さんがこう言った。『俺は勉強して自分のことを聖齊(せいせい)していくほど面白いことはありませんから、俺は働くことを何より幸福に感じております。...
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