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ジョン・ウェスレーが提示した「寄付」という方法の背景

グローバル化時代の資本主義の精神(2)世俗倫理と資本主義の精神

中島隆博
東京大学東洋文化研究所長・教授
情報・テキスト
ジョン・ウェスレー
今、ポスト世俗化の時代と言われているが、世俗化には二つの意味があると話す中島隆博氏。典型的なのは、フランス・カトリックとドイツ・プロテスタントだという。そこで、今回はこの二つの違いから、近代の世俗倫理と資本主義の精神について考察する。(2014年11月7日開催日本ビジネス協会インタラクティブセミナー講演より、全6話中第2話目)
時間:10:07
収録日:2014/11/07
追加日:2015/05/18
タグ:
≪全文≫

●世俗化には、フランス・カトリックとドイツ・プロテスタントの違いがある


 先ほど、世俗化と申し上げました。一つは、神を個人の内面において検証していく、つまり、神に向かっていく宗教的な展開がありました。そうすると、神の問題は、教会や社会ではなく、自分の信仰の問題になっていきます。これも一つの世俗化なのです。

 もう一つは、今まで社会を支配していた宗教的な規範がありましたが、その代わりに、今度は、非常に近代化された宗教を内面に持った個人の道徳という形で、世俗内倫理が成立をしていきます。こういう二つの意味での世俗化があります。

 典型的なのは、フランス・カトリックとドイツ・プロテスタントで、この二つに世俗化の違いがあります。


●フランスでは、ライシテという原理が確立し、公的空間から宗教が消えていった


 例えば、非常に分かりやすく言うと、フランスは世俗化のことをライシテと言います。ライックという形容詞も使ったりするのですが、面白いですね。1905年にライシテ法ができます。これは、マックス・ウェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を書いたまさにその年で、日露戦争の直後です。こういう時に、フランスでは、ライシテという原理が確立していきます。ですから、完全にフランスの公的空間からは、宗教が消えていきました。

 例えば、バラク・オバマがアメリカ大統領になった時に、宣誓式をしましたね。あそこで何をしていましたか? 何かに手を置いていましたね。何に手を置いていましたか? 聖書ですよね。誰の聖書でしたか? あれは、リンカーンの聖書なのです。オバマは、実は、自分はリンカーンの継承者であるという非常に象徴的な行為を、あそこでやったのです。つまり、南北に分かれていたアメリカを統一したリンカーンに、自らを重ねていきました。でも、こんなことをフランス大統領がやったら、大変なことになりますね。ライシテに違反しています。政教分離に完全に違反する行為です。ですから、フランスは非常に厳しいのです。

 皆さんがご存知のように、イスラムの女性たちがまとうスカーフがありますよね。ブルカというスカーフは、もっと長いです。あれを禁止する法案が、フランスで通りました。このレジュメにその歴史的な年表を書いておきましたが、ベルギー、フランスは、そういうことをやります。これは、1905年にできたライシテ法の一つの帰結なのですね。

 もちろん人によっては、例えば、中央大学の三浦信孝先生のように、「いや、いや、やはりこのブルカの禁止はやりすぎなのではないか。フランスの共和国の伝統の中には、そういう、排他的なものはほとんどなかったはずだ。そこには寛容の原理もあったはずだろうし、多様性を尊重するものもあったはずだろう」というような反対意見をお話になる方もいらっしゃいます。しかし、フランスのライシテは、そういう意味では非常に厳しい原理であることがお分かりいただけるかと思います。


●ドイツでは、ウェーバーが世俗内禁欲という倫理を挙げ、神からの救済獲得のため「天職」としての職業労働を説いた


 それに対して、ドイツはどうだったかというと、ドイツの世俗化は、世俗内倫理が確立する過程だと言われています。フランスでライシテ法が施行されたのと同じ年に、ウェーバーはこの本を書いたのです。

 面白いのは、ここでウェーバーが世俗内禁欲という倫理の具体例として挙げているのはベンジャミン・フランクリンで、実はアメリカのプロテスタンティズムだったことです。どんな例を挙げているかというと、こんな例でした。

 「時は金なりということを忘れてはならない。自分の労働で1日に10シリングを稼ぐことができる者が、半日出歩いたり、何もせずに怠けていたら、その気晴らしや怠惰のためには6ペンスしか使わなかったとしても、それで出費がすべてだと考えるべきではない。実際にはさらに5シリング使った、というよりも、捨てたのである」

 ウェーバーは、世俗内禁欲という倫理とはこういうことだと言うのです。すごいですよね。気晴らしや怠惰をやっては駄目なのだ、働き続けなさい、と言うのです。時は金なりとは、恐ろしいですね。ウェーバーは、これを例として持ち出していました。

 どういうことがその背景にあるかというと、このレジュメに書いたのですが、“Beruf”、つまり「天職」のことです。天職という言葉は、皆さんどこかでお聞きになったことがあるかと思うのですが、これは、ドイツ語のBerufの翻訳語として、日本にも一挙に浸透した言葉です。英語では、“Calling”という言葉ですね。非常に宗教的な言葉です。「呼びかけられている」ということですね。「それがあなたの仕事だ」と言うのです。

 面白いのは、ウェーバーか...
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