ムハンマドを知る
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逸話が教えるムハンマドの寛大さ、おおらかさ
ムハンマドを知る(3)人間の卑小さを見抜いた偉大さ
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
ムハンマドの性質は、宗教者性と政治家性を兼ね備えたものだったと、歴史学者・山内昌之氏は解釈する。今回は、「ハディース」の伝承により、些細な罪や卑小な人物への遇し方から浮かぶムハンマドの実像に迫る。(全6話中第3話目)
時間:6分41秒
収録日:2015年5月28日
追加日:2015年6月25日
≪全文≫

●共に礼拝して過ちは許されたとした預言者


 皆さん、こんにちは。

 今日は、引き続きムハンマドという人物の多彩な才能を取り上げ、そこに共通して見られる彼の人間的な個性などについて、触れてみたいと思います。

 ムハンマドは本質的に宗教者ですから、彼にはもちろん宗教者としてふさわしい振る舞いの逸話がたくさん伝えられています。

 あるとき、一人の男がやってきました。この人物は、「自分は過失を犯したので、それについて告白し、罰を乞いたい」と申しました。すると、ムハンマドは男に何も尋ねませんでした。やがて礼拝の時刻になりました。ムハンマドは男と一緒に礼拝し、それが終わると、過ちについて「神の書」に従って罰するようにと求めた男に再び対面します。「神の書」とは、もちろん「クルアーン」のことです。

 「ハディース」の中では、男がいかなる罪を犯したのかは、触れられていません。「ハディース」に残されているのは、次のような話です。

 ムハンマドは「お前はわれわれと一緒に祈り、神に対して礼拝したではないか」と言ったので、その男は「はい」と答えました。すると預言者は、「アッラーはすでにお前の過ちを許された」と述べました。これを「お前の罰は免除された」と表現する伝承もあります。


●ラマダーン月に妻と交わった男に与えた罰


 大変興味深いのは、罰に当たらない軽い罪や過ちを犯した場合、それを宗教指導者(イマーム)に告げ、意見を求める者は、悔い改めるならば罰せられないというのが、ムハンマドの考えの中心にあったことです。実際にそうした人物をムハンマドが罰したことはありませんでした。

 例えば、結婚している男がラマダーン月に妻と交わるのは違法とされているのですが、そうした男についても罰しなかったという伝承も伝わっています。ある男が、ラマダーン月において妻と交わりを持ったことをあえて告げますと、ムハンマドは、「お前には奴隷がいるか」と問いました。奴隷所有の有無を問うのは、つまり金持ちかどうかという意味です。あるいは、「お前は2カ月間の断食を決心できるか」とも尋ねました。

 男の答えは、「自分は財産が乏しく、奴隷もいません。その上2カ月の断食をするほどの意志力もありません」というものでした。イスラム教徒にもいろいろなタイプが居ます。ひと月の断食だけでも大変なのですが、ラマダーン...

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