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『ロボットはなぜ生き物に似てしまうのか』と「ロボットの夢」
「擬似人間を作りたい!」から始まったロボットの歴史
地球上に生物が誕生したのはおよそ38億年前。その後、10億年前に多細胞生物が誕生し、2.5億年前に恐竜時代が始まりました。そして、ヒトの祖先が生まれたのは、30万年ほど前のことです。生き物やヒトの長い歴史に対して、ロボットの歴史はいつごろ始まったのでしょうか。ロボットの元祖の一つとして、17世紀から19世紀にかけ世界で「からくり人形」が作られるようになったそうですが、その後、わずか200年ほどで「ASIMO」や「Pepper」などのヒューマノイド型ロボットや、「AIBO」といったペット型ロボットが登場し、その進化はさらに進んでいます。
このように、浅い歴史ながら速い進化を遂げているロボットですが、そもそも「ロボットの始まりは、ヒトをまねること、つまり“擬似人間”を作ることが目的」でした。そう伝えているのは、東京工業大学工学院機械系・鈴森康一教授の著書『ロボットはなぜ生き物に似てしまうのか』(講談社)。つまり、「擬似人間を作りたい!」という欲求が現代のロボットを生み出したといえるのではないでしょうか。
なぜか生き物に「似てしまう」
鈴森教授は、ロボットを特徴づけるものとして、前掲書のなかで二つの機能を挙げています。それは「動き」と「知能」です。動きを司るモーターの出現は19世紀中期、知能を司るコンピュータの出現は20世紀中期のこと。1961年、この2つの技術が結びつき、世界初の産業用ロボットが登場しました。しかし、非常に興味深いのは、そうして生まれたロボットが設計者の意図にかかわらず、なぜか生き物に「似てしまう」ことです。『ロボットはなぜ生き物に似てしまうのか』は、まさにその謎に迫る一冊なのです。結論からいえば、ロボットが生き物に似てしまう理由は「力学的法則」と「幾何学的法則」のためです。前者の「力学」とは、「物体に働く力と運動との関係を論じる物理学部門」のこと(「ブリタニカ国際大百科事典」より)。力学的に考えると、人間を含めた生き物もロボットも同じ「物体」なので、その影響を逃れることは決してできないのです。形が似てしまうのは当然ともいえます。力学ルールは、形だけでなく動きにも影響を及ぼします。たとえば、象とショベルカーが、実は「似てしまっている」のも「力学的法則」のためだそうです。
後者の「幾何学的法則」は、「可動範囲」を決定します。「アームの各部の長さ、用いる関節の種類とその配置、これらによってロボットアームの動作範囲や速度といった主要な性能が決まってくる。それを支配しているのが幾何学的法則」なのです。同書には、幾何学的制約による一例として、2足歩行ロボットとテニスプレーヤーの中腰姿勢が似てしまったというエピソードが紹介されています。
神様の設計を超えて「ロボットの夢」を追いかける
本書において、鈴森教授はロボットと生き物を比較しながら「なぜロボットは握手が苦手なのか」「なぜ動物の筋肉にはムダが多いのか」「なぜロボットはキャッチボールができないのか」「なぜロボットには自然治癒、自己複製が困難なのか」と問いかけながら、自然界の精巧な創造力を解き明かしていきます。そして、ついには「なぜ人間には2本の腕しかないのか」という非常に素朴で根元的な問いに行きつきます。言い換えれば、「なぜ神様は人間の腕を3本以上に増やせるように設計しなかったのか」という問いです。こちらも結論をいうと、ヒトを含めた生き物たちは進化の過程で「マイナーチェンジ」しかできないように設計されているからだそうです。その点、ロボットの進化は違います。生き物が従属する進化系統を乗り越える「フルモデルチェンジ」を行うことできます。ロボット設計者は、「想像力と知恵の使い方次第で、神様の設計を超えることが十分に可能」なのです。
本書はロボットの進化について言及していますが、自然への感銘と畏怖の念に満ちています。しかしながら、鈴森教授は、事実として自然にもロボット工学にも限界があることを認知し、そのうえでロボット工学にどのような夢があるのかを論じているのです。生き物やヒトの長い歴史に比べると、まだまだ歴史の短いロボットですが、「ロボットの夢」に限界はないと思います。これからも鈴森教授たちの夢を見守り続けていきたいですね。
<参考文献>
・『ロボットはなぜ生き物に似てしまうのか』(鈴森康一著、講談社)
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062577687
<関連サイト>
・鈴森・遠藤研究室(東京工業大学 工学院)
http://www-robot.mes.titech.ac.jp/home.html
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