社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.07.14

伝説の麻雀士に学ぶ「流れをつかむ技術」

 「流れ」をつかむことこそが、勝負の運命を決める核心なのである。そう語るのは、麻雀の裏プロとして引退までの20年間無敗の強さを誇った伝説の雀士・桜井章一さん。桜井さんは、「雀鬼」(じゃんき)の異名を持ち、小説や映画のモデルとしても描かれています。

 『流れをつかむ技術』(桜井章一著、集英社)は、桜井さんが厳しい勝負の世界で培ってきた「流れのつかみ方」について、実体験を交えつつ詳しく伝えています。

 「流れをつかむ」とはどういう感覚なのか。桜井さんは次のように語っています。「うまく流れを捉えられたときは、あたかも勝負の場全体を自分の掌中に収め、コントロールしているかのような気分になった」。

夢や願望は「つかむ」のではなく「触れる」

「流れ」をつかむためには、「流れに身をまかせる感覚」が大切なのだそうです。一言でいうと、強く求めすぎないこと。「何事も力んで求めようとする人は、仕事においても生き方においても流れをつかみ損ね、失敗を重ねていくだろう」と述べています。

 「求めながらも、次の瞬間にはそれを忘れたように力を抜く」。また、「人間であれば誰でも期待や願望を抱くのは当たり前だが、それは一瞬軽く触れる程度にとどめておいたほうがいい」と語っています。夢や願望は「つかむ」のではなく、この「触れる」という意識が大事なのだそうです。

負けのほとんどは自滅である

 「成功したい」「有名になりたい」「お金が欲しい」といった「結果をつかむこと」を考えすぎると、感情の流れが乱れ、無駄に身体が力んでしまい、逆に勝負の「流れをつかむこと」ができなくなってしまうと桜井さんは書いています。真剣勝負に負けるとき、たいていはこうした自分の欲望に囚われて「自滅」していることが多いそうです。

 だからこそ、「結果」より「過程」、「人の評価」より「自分の価値観」、「奪う」より「与える」ことを尊重することを桜井さんは勧めています。

人生のコツは「一口いただく」

 力に頼るのではなく、力をいかに抜くか。先ほどの「触れる」と通じることだと思いますが、無駄な力みを身体から抜くには、「一口いただく」くらいの感覚がちょうど良いのだそうです。

 ふと「笑っている」とき、人は身体の無駄な力が抜けていて、「一口いただく」状態にかなり近いと述べています。

 しかし、この「一口いただく」感覚を身につけるのはかなり難しいらしく、桜井さんが主宰する「雀鬼会」(じゃんきかい)にも体得できたと思える道場生はまだ一人もいないそうです。ちなみにですが、サイバーエージェントの藤田晋社長も雀鬼会の道場生でした。藤田社長も「流れをつかむ技術」を直に学んだのでしょう。

 桜井さんの生き方をそのまま真似することはそう簡単なことではないと思います。桜井さんは「流れをつかむ」天才です。けれども、私たちでも、ほんのちょっとずつであれば、「流れをつかむ技術」を培い、実践いくこともできるでしょう。

 現代人はあまりに欲望が強く、あまりに忙しすぎるという桜井さんの指摘は、たしかにその通りだと思います。そして、欲望のために苦しみ、いわば「自滅」しています。それを少しでも和らげることができれば、良い「流れ」を作り出すこときっかけになるかもしれません。

 何事においても「お腹いっぱいにガツガツ食べる」のではなく、「一口いただく」。まず手始めに、「一口いただく」を念頭に行動してみてはいかがでしょうか。

<参考文献・参考サイト>
・『流れをつかむ技術』(桜井章一著、集英社)
・サイバー・藤田晋社長、巨万の富に隠された「過去の秘密」
http://biz-journal.jp/2016/05/post_15277.html
・雀鬼会
http://www.jankiryu.com
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム

初めて会った人なのになぜか好意を抱いてしまうことがある。だが、なぜそうした衝動が生じるのかは疑問である。デカルトが友人シャニュに宛てた「愛についての書簡」から話を起こし、愛をめぐる精神と身体の関係について論じる...
収録日:2018/09/27
追加日:2019/03/31
津崎良典
筑波大学人文社会系 教授
2

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解

アメリカの大転換はトランプ政権以前に起こっていた。1980~1990年代、情報機器と金融手法の発達、それに伴う法問題の煩雑化により、アメリカは「ラストベルト化」に向かう変貌を果たしていた。そこにトランプの誤解の背景があ...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/11
3

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如

現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
4

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制

「バイアスがかかる」と聞くと、つい「ないほうが望ましい」という印象を抱いてしまうが、実は人間が生きていく上でバイアスは必要不可欠な存在である。それを今井氏は「マイワールドバイアス」と呼んでいるが、いったいどうい...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/09
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転

カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転

戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造

2025年9月、アメリカのトランプ政権は、国防総省を「戦争省」へ名称を変更した。それは内戦の構造を根本的に反転させる、大きな変化を象徴する出来事だった。政府から国民に対して行われるトップダウンの内戦とはなにか。ゲリラ...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/11/05
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー