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DATE/ 2018.09.22

外国人にも人気の「地方」の観光地とは?

 外国人がよく行く観光地といえば、日本の最先端カルチャーが集まる東京、典型的な日本の古都である京都や奈良がかつての相場でした。もちろん、今でもたくさんの外国人観光客が訪れていますが、最近はいわゆる“地方”が観光地として人気を呼んでいることをご存知ですか。

 大分県にある、たった7部屋の家族経営の小旅館、愛知県にある国内屈指の古さと狭さの水族館などいくつか例を挙げながら、人気の秘密に迫ります。

たった7部屋、家族経営の小旅館

 大分県由布市にある「旅館山城屋」は、たったの7部屋しかない小旅館。家族経営でスタッフもたったの7人。いま、この旅館が海外の観光客から熱視線を浴びています。昨年、世界的な旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」の日本旅館部門で、名だたる有名旅館をおさえて日本国内の宿泊施設満足度ランキング・日本の旅館部門で、約4万件のうち全国第3位に選ばれました。今年も6位に選ばれています。客室稼働率はほぼ100%を達成しています。

 山城屋代表の二宮謙児さんは、10年以上も前から訪日外国人客の対策に取り組んできました。この長期間続けてきた成果がいま花開いているというわけです。メールでの問い合わせに四カ国語で対応するようにしたり、旅館までのアクセスや浴衣の着方や温泉の入浴方法などをYouTubeに投稿して、動画によって解説するなど、様々な工夫を凝らしています。

 二宮さんの方針は非常に明快です。「最高のおもてなし」は「安心感」、という考え方です。「おもてなしは空港に到着したときから」始まります。旅館までのアクセスを動画で知らせるのは、おもてなしの一環というわけです。

 また、山城屋のユニークなポイントは、従業員のワークライフバランスも充実していること。人材をとても大切にしていることのあらわれでしょう。

「古い」「狭い」水族館の大逆転

 次に紹介するのは愛知県蒲郡市にある「竹島水族館」。1960年ころに開館した国内屈指の「古い」水族館です。ホームページでは「外観は古く、ちょっと入るのをためらうかもしれませんが、中は充実しています!」と、なんだかちょっと頼りないアピールも。

 実はもうひとつ弱点があって、なんと日本で4番目に「狭い」水族館なのです。それについて、HPでは「館内はほのぼのとした雰囲気で、ゆっくり生き物たちを見ることができるアットホームな水族館です」とあります。

 「古い」「狭い」と言ってしまっては良いところなしですが、弱点と思えることをポジティブに、けれども飾ることなく正直に表明しているところに好感が持てます。これもひとつの人気の秘密なのかもしれません。「アットホーム感」は、山城屋の「安心感」と通じるものがあります。

 この竹島水族館、一時は閉館の危機にまで追いやられました。それが2011年のリニューアルをきっかけに大きく持ち直し、いまは絶好調。開館以来の入場客数の記録を更新し続けています。魚を解説するスタッフお手製のポップやスタッフ発案のカピバラショーが人気を集めています。ここにも「アットホーム」が溢れています。

 「週刊女性2018年8月7日号」の取材記事によると「水族館は総じて薄給だが、業績に合わせて、待遇も以前よりアップ。人材育成にも真剣に取り組んでいる」とのこと。人材育成に力を入れている点も旅館山城屋と通じるものがあります。

外国人が熱狂する「何もない田舎」

 最後に紹介するのは飛騨古川をサイクリングする「SATOYAMA EXPERIENCE」というツアーです。世界80ヶ国から毎年数千人の外国人旅行者を集め、「トリップアドバイザー」において参加者の99%が満足のコメントを残しています。

 ユニークなポイントは「なにげない里山の日常」を売りにしている点でしょう。なぜなら、「なにげない里山の日常」は悪く言えば「何もない田舎」になってしまうからです。ツアーの主催者は美ら地球(ちゅらぼし)代表の山田拓さん。近著に『外国人が熱狂するクールな田舎の作り方』があり、そこで成功の秘密を公開しています。山田さんは大学院修了後、コンサルティング会社勤務、その後は500日以上におよぶ世界放浪の経験があり、経営戦略の解説や世界を見る目には説得力があります。

 SATOYAMA EXPERIENCEの成功について山田さんは「5つのhappy」を実現したことを挙げています。その5つとは、山田さん流の表現でいうと「ゲスト」「地元企業」「ひだびと」「ワカモノ」「他地域」です。つまり、お客さん、地元企業、飛騨の地元の人々、山田さんを含めた若者たち、そして、SATOYAMA EXPERIENCEの成功が他地域も勇気づけているということです。

 それから、成功するための大切なポイントとして何度も強調しているのが「やり続ける」こと。これは旅館山城屋にも竹島水族館にも通じることです。山城屋は10年以上も訪日客対策に取り組み、竹島水族館は水族館としては老舗の域に達しています。

 また、山田さんは「最も枯渇している経営資源は人材」と指摘しています。それほど人材が大切だということです。これについても前述のとおり山城屋も竹島水族館もきちんと取り組もうとしています。

「なにげない日常」こそ「宝の山」

 「続ける」とか「スタッフを大切にする」なんてことは、経営するうえで至極当たり前のことですが、最近はこうした当たり前のことが見過ごされているのかもしれません。

 今回紹介した3件はどれもが「なにげない日常」に「宝の山」を見つけて成功している事例でした。この教訓は、私たちの日常生活にも言えることでしょう。身近にいる家族や仲間、身の回りの自然や目の前の機会を大切にすることこそ、ものごとがうまく循環する秘訣なのかもしれません。

<参考文献・参考サイト>
・『外国人が熱狂するクールな田舎の作り方』 (山田拓著、新潮新書)
・『山奥の小さな旅館が連日外国人客で満室になる理由』(二宮謙児著、あさ出版)
・週刊女性PRIME:イルカやペンギンがいなくても大行列、『竹島水族館』人気の秘訣に迫る!
http://www.jprime.jp/articles/-/12919
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授