テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.10.01

日本で最も「混雑率の高い」路線とは?

 オフピーク通勤が推奨される昨今、主要都市の電車の混雑具合はどのようになっているのでしょうか。国土交通省は2018年7月、通勤通学時間帯の都市鉄道の混雑率について、調査結果を発表しました。公表されたデータをもとに、特に混んでいる路線と、混雑率が高まった理由について考察します。

「混雑率」とは?

 混雑率は「輸送人数(利用者数)の輸送力に対する割合」で表されます。輸送力とは、その区間のダイヤで運行されている全列車の定員の合計ではじきだされた数値です。

 たとえばある朝のピーク時間帯(1時間)に、X駅~Y駅を走る6両編成の電車が14本あるとします。電車1本の定員が140人とすると、輸送力は6両×14本×140人=11,760人となります。この1時間の輸送力11,760人に対し、13,000人が電車を利用したとすると、13,000人÷11,760人×100≒110となり、混雑率110%と導き出されます。

 つまり混雑率とは輸送人員÷輸送力、「ピーク時間帯1時間の平均値」で表されるのです。

 国は主要31区間の平均混雑率を150%以下(「広げて楽に新聞を読める」程度)に、ピーク時における個別路線の混雑率を180%以下(「折りたたむなど無理をすれば新聞を読める」程度)にすることを目標としています。

混雑率180%超の路線、最混雑率区間ワースト5

 国土交通省のまとめた混雑率のデータを見ると、混雑率の高かった区間(朝7~8時代)ワースト1位は、東京メトロ東西線(木場~門前仲町)の199%。次いでJR総武線各駅停車(錦糸町~両国)で197%、3位がJR横須賀線(武蔵小杉~西大井)の196%でした。

【最混雑区間ワースト5】
1位:東京メトロ東西線(木場~門前仲町)199%(0)
2位:JR総武線 各駅停車(錦糸町~両国)197%(-1%)
3位:JR横須賀線(武蔵小杉~西大井)196%(+5%)
4位:JR南部線(武蔵中原~武蔵小杉)189%(-1%)
5位:JR東海道線(川崎~品川)187%(+3%)
同5位:日暮里・舎人ライナー(赤土小学校前~西日暮里)187%(-1%)
※()内は前年比

 また、国土交通省は東京圏、大阪圏、名古屋圏それぞれの電車の混雑率も発表しています。

【三大都市圏主要区間の平均混雑率】
東京圏:163%
大阪圏:125%
名古屋圏:131%

 日本の人口が集中している東京圏は163%と、断トツの混雑率。またさきほどのワースト5はすべて東京圏の路線となっているうえ、東京圏以外で150%を越す区間は福岡県の西日本鉄道貝塚線(名島~貝塚)のみだということです。

混雑率の増減が顕著だった2つの区間

 今回の調査で、混雑率の増減が特に目立った路線が2つあります。
 ひとつは小田急小田原線(世田谷代田~下北沢)。前年の混雑率は192%とこれまで混雑率が非常に高いことで知られた区間でしたが、今回、同区間の混雑率は151%。なんと前年比で41%の減少になったのです。2018年3月、朝のラッシュ時の列車本数を増加させた「複々線化」が功を奏したと思われます。

 一方、その小田急線と入れ替わるように混雑率の高い区間として名前が挙がったのは、第3位のJR横須賀線(武蔵小杉~西大井)。前年比で5%も上昇しています。これは4位のJR南部線にも含まれている、武蔵小杉駅の利用者数が増加したことが要因だされています。

 2010年3月に武蔵小杉駅に横須賀線のホームが設置されて以来、武蔵小杉駅周辺にタワーマンションが次々と建てられるほど都市開発が進み、ファミリー層を中心に移住する人が増えました。それにともない通勤客数も急増。2010年度のJR武蔵小杉駅の1日平均乗車人数が9万9617人だったのが、2017年には12万9637人にまで増加しました。今や朝のラッシュ時間は駅の改札内に入るだけで数十分は並ぶという混雑ぶりを見せています。

混雑率の落とし穴

 混雑率の計算方法は上記の通りですが、これには「実態がともなっていない」という指摘もあります。

 それは朝のピーク時間帯に実際にダイヤ通りに動いている列車が少ないことや、同じ路線でも「急行」や「各駅停車」が交互に走っている場合、「急行」や「各駅停車」で混雑率に差があるにも関わらず、それをまとめた平均値で出してしまっていることなどが理由に挙げられています。

 また、たとえ乗車率が150%程度の車両でも出口や乗り換え階段が近い号車に利用客が集中して混雑率が高まるなど、号車によって混雑率が変わるというケースもあります。

 小田急線の複々線化をはじめ、大手鉄道会社は混雑緩和のためにさまざまな手を打ってきましたが、大規模なテコ入れはこの先は現実的に厳しいと予測されています。今後オフピーク通勤を目指すなら、混雑率の数値だけでなく、その路線の事情を含めた多角的な視点から対策する必要があるでしょう。

<参考サイト>
・国土交通省:東京圏で混雑率180%超の路線が12路線から11路線へ
http://www.mlit.go.jp/report/press/tetsudo04_hh_000068.html
・東洋経済ONLINE:首都圏83区間「鉄道混雑率」最新ランキング
https://toyokeizai.net/articles/-/230136
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

グローバル主義が全ての元凶…トランプ政権がめざすのは?

グローバル主義が全ての元凶…トランプ政権がめざすのは?

米国システムの逆襲~解放の日と新世界秩序(1)米国システム「解放の日」

第二次トランプ政権は、その関税政策を発動させた日、4月2日を「解放の日」と称した。そこには、アメリカが各国の面倒を見るという第二次世界大戦以降の構図が、アメリカに損害をもたらしているという問題意識がある。「解放の...
収録日:2025/04/25
追加日:2025/05/20
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
2

「哲学・歴史」と「実証研究」の両立で広い視野をつかむ

「哲学・歴史」と「実証研究」の両立で広い視野をつかむ

デモクラシーの基盤とは何か(3)政治と経済を架橋するもの

「政治経済」と一口にいっても、両者を結びつけて思考することは簡単ではない。政治と経済を架橋するためには、その土台にある歴史や哲学、また実証的なデータを同時に検討する必要がある。これからの公共性を考えるための多角...
収録日:2024/09/11
追加日:2025/05/23
3

トランプ政治と民主主義の危機…カント哲学から考える

トランプ政治と民主主義の危機…カント哲学から考える

編集部ラジオ2025(9)デモクラシーの危機と「哲学」

いま、世界各国で「デモクラシーの危機」が高まっています。これまでの常識を超えたドラスティックな政策を次々と打ち出す第2次トランプ政権はもちろん、欧州各国の政治状況もポピュリズム的な面を強くしています。また、ロシア...
収録日:2025/04/03
追加日:2025/05/22
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
4

日本のインテリジェンスは大丈夫か…行政機関の対応に愕然

日本のインテリジェンスは大丈夫か…行政機関の対応に愕然

医療から考える国家安全保障上の脅威(4)国家インテリジェンスの課題

「日本のインテリジェンスは大丈夫なのか」という声が海外から聞かれるという。例えば北朝鮮のミサイルに搭載されている化学剤について、「エイジング」と呼ばれる拮抗薬投与までの制限時間の観点からはまったく見当違いの神経...
収録日:2024/09/20
追加日:2025/05/22
山口芳裕
杏林大学医学部教授
5

ブレーキなき極右ポピュリズム…文化戦争を重視し経済軽視

ブレーキなき極右ポピュリズム…文化戦争を重視し経済軽視

第2次トランプ政権の危険性と本質(1)実は「経済重視」ではない?

「第二次トランプ政権は、第一次政権とは全く別の政権である」――そう見たほうが良いのだと、柿埜氏は語る。ついつい「第1次は経済重視の政権だった」と考えてしまいがちだが、実は第2次政権では「経済」の優先順位は低いのだと...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/05/10
柿埜真吾
経済学者