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DATE/ 2018.10.05

親の収入や学歴が高いほど生徒の学力が高い?

 いま、世界でも日本でも経済格差がどんどん広がっています。それだけではなく、経済格差が教育格差につながり、親の経済力が子どもの将来を決定しうるという負のスパイラルの危険を指摘する経済学者や社会学者の声が少なくありません。

 実際のところ、親のステータスがどれほど教育に影響を与えるのか。その実態に迫ります。

文科省の危機感

 親のステータスと教育の関係性に対する指摘は、経済学者や社会学者といった学者や研究者などの個人的な見解にとどまりません。実は、これについて文科省も強い危機感を示しています。

 文科省のHPには「学力格差にどう立ち向かうか」という記事があり、そこでは「社会経済的に恵まれない状況にいる児童・生徒の学力を底上げするためにはどのような方策が有効であるか」「学習塾に通っておらず、学習を主に学校教育に依存している児童・生徒の学力を保証するためにはどのような方策が有効であるか」などが語られています。ただし、「次年度以降の調査に期待をしたい」と結ばれており、明確な結論は示していません。

ほんとうに経済格差は子どもの学力に影響する?

 2010年、文科省は、幼稚園を卒園した子どもは保育所を卒園した子どもよりも成績が高いことを発表しています。この発表を受けて、発達心理学が専門の内田伸子さんは、「学力格差は経済格差を反映するか」について調査しています。

 結論としては「子どもの学力格差の原因は経済格差ではなく大人の養育や保育の仕方が媒介要因である」として、必ずしも経済格差が教育格差に直結するわけではないとしています。それよりも「子どもの主体性を大事にする育て方や保育の仕方」の問題であるということです。

子どもの学力と親の学歴

 ベネッセ教育総合研究所は、子どもの学力を規定する親の「富」と「願望」という記事で、お茶の水女子大学21世紀COEプログラムの調査を掲載しています。

 それによると、関東地方の小学6年生の算数学力が次の3つの要因によって規定されていることがわかりました。「学校外教育費支出」(学習塾、稽古ごと、通信教育などに支出する教育費など調査対象となった子ども1人の1か月支出額)、「保護者学歴期待」(どの段階までの学歴を子どもに期待するか)、「世帯所得」(家族全体の税込み年収)です。

 「学校外教育費支出」「家計水準」が高いほど高学力だったそうです。具体的には、「学校外教育費支出」が月額1万円未満の家庭では算数学力平均値は「44点」、1~3万円では「約50点」、3~5万円では「約66点」、5万円以上は「約78点」というふうにとてもわかりやすい結果となっています。

 また、「年収700万円未満」の家庭の場合、平均値は「40点前後」であり、「年収1000万円以上」の場合は「60点」を超えています。さらに、「受験塾へ通っていない子ども」より「受験塾へ通っている子ども」のほうがあきらかに学力は高いようです。

 親の学歴も影響しており、親が「非大卒」よりも「大学卒」の方が、学力が高い傾向があることが示されています。

 もちろん、内田伸子さんの指摘の通り、子どもの学力と親の学歴や収入は絶対的ではありません。それはベネッセ研究所の記事でも指摘されていることです。ただし、無関係であると断言することはできないでしょう。

 国はすでに危機感をもっているようですが、格差社会の現実を見つめ、適切なかたちで少しずつでも良い方向に社会を変えていってほしいものです。生まれてくる家庭は誰にも選べない中で、努力しても報われないことほど、つらいことはありません。

<参考サイト>
・文科省:学力格差にどう立ち向かうか
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/sonota/08013006/003/014.htm
・「子どもの貧困と学力格差 ─貧困は超えられるか?」内田伸子
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/22/10/22_10_24/_pdf
・ベネッセ教育総合研究所:学力格差と「ペアレントクラシー」の問題
https://berd.benesse.jp/berd/center/open/berd/backnumber/2007_08/fea_mimizuka_01.html
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授