ランキングでは見えてこない東大の強み
さまざまな指標で大学の順位付けをする世界大学ランキングの一つ、イギリスの大学評価機関クアクアレリ・シモンズ社による「QS世界大学ランキング」が、2018年6月7日に発表されました。トップ10のうち、マサチューセッツ工科大学(MIT)、スタンフォード大学、ハーバード大学などアメリカの大学が5校、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学といったイギリスの4校がランクイン。日本の大学は東京大学が最高位で23位です。
しかし、米国トップ校の実態をほとんど知らずに、多分にイメージやあこがれで「アイビーリーグへ」という高校生が多い、と「アイビーリーグ・ファンタージ」の風潮に釘をさすのが東京大学東洋文化研究所教授の佐藤仁氏です。佐藤氏は、東京大学大学院で博士号を取得、ハーバード大に学び、東大だけでなくプリンストン大でも教鞭をとってきたという、いわば日米のトップ校双方の実態を内側から知り尽くした人物なのです。
ただしこれは、「教員一人当たりの学生数」や「博士号取得者数」、「留学生の数」と項目を並べて、項目ごとに「これはプリンストンが勝ち、この項目は東大が白星」と星取表のように比べたのではありません。大学の真価とは一体性を持って論じなければならず、ある面のメリットが別の面の弱点の裏返しだったりもするからです。佐藤氏は大学の機能や属性、さまざまな特徴を総合的に見て、全体として「東大、いいじゃないか」と評価を下しているのです。
東大の強みの二つめに、教員と学生の距離の近さが挙げられます。大学ランキングでは教員一人当たりの学生数比率が評価対象となり、学生数の割合が小さいほど「きめ細かな教育が行われている」という見方になります。この数字だけ見れば、東大の比率は米国トップ校に劣っているのですが、実はそこがランキングの盲点。アメリカでは教員の負担削減のために、研究員が授業を代行するケースも多く、有名教授に直接指導してもらうことを夢見て入学したのにがっかり、といったことも間々あるのです。一方、日本の大学では教授による講義が当然のことですし、またゼミの合宿やコンパといった機会を利用して、教員と学生が近しいコミュニケーションをとるという光景もよく見られます。
ちなみに、このようなカリキュラムだけでなく、学生個々人をみてもなんだかプリンストンより東大生の方がバラエティに富んでいるようだ、と佐藤氏は言います。米国トップ校を目指す若者は、優秀な学力と「卓越性」を意識するあまり、バランスのとれたオールラウンド・プレイヤーになりがち。対する東大生は、筆記試験を潜り抜けてきた学力を備えている一方で、かなり個性的な人も多いとか。
日本の大学にも改善点は多々ありますが、その改革のためには欧米方式の模倣よりも独自の強みを生かすことを意識するべきではないでしょうか。学生も大学側もアイビーリーグ・ファンタジーから脱する時期に来ているのかもしれません。
「第一志望はアイビーリーグ」の高校生が増えている
最近の日本の一流進学高校では、グローバル人材たらんと、プリンストンやハーバードといった米国トップ校、いわゆる「アイビーリーグ」を進学の第一志望にする学生が増えているそうです。このランキング評価が多少ならずとも影響しているのかもしれません。しかし、米国トップ校の実態をほとんど知らずに、多分にイメージやあこがれで「アイビーリーグへ」という高校生が多い、と「アイビーリーグ・ファンタージ」の風潮に釘をさすのが東京大学東洋文化研究所教授の佐藤仁氏です。佐藤氏は、東京大学大学院で博士号を取得、ハーバード大に学び、東大だけでなくプリンストン大でも教鞭をとってきたという、いわば日米のトップ校双方の実態を内側から知り尽くした人物なのです。
東大vsアイビーリーグは「6勝4敗」で東大の勝ち
その佐藤氏が、学生としても教員としても実際に体験した内側からの視座で、アイビーリーグの名門プリンストン大学と日本のトップ校の象徴的存在・東大を比較して論じているのが『教えてみた「米国トップ校」』(角川新書)。この中で佐藤氏は「6勝4敗で東大の勝ち」としています。ただしこれは、「教員一人当たりの学生数」や「博士号取得者数」、「留学生の数」と項目を並べて、項目ごとに「これはプリンストンが勝ち、この項目は東大が白星」と星取表のように比べたのではありません。大学の真価とは一体性を持って論じなければならず、ある面のメリットが別の面の弱点の裏返しだったりもするからです。佐藤氏は大学の機能や属性、さまざまな特徴を総合的に見て、全体として「東大、いいじゃないか」と評価を下しているのです。
こんなところが東大の強み
その東大の強みと思われる点を具体的に挙げてみると、第一に低コストであること。入学金及び4年間の授業料の総額は250万円弱で、これにアパート代や生活費を足しても4年でざっと1200~1300万円。寮などを利用できればもっとコストは抑えられるでしょう。対するアメリカの場合、年間授業料は約500万円(注:1ドル110円換算)が相場とされています。生活費等を考慮すると4年で2800万円は必要となる計算です。スター教授の招へいや多数の事務職員雇用の経費等々、この高コストにはさまざまな要因が反映されているのです。東大の強みの二つめに、教員と学生の距離の近さが挙げられます。大学ランキングでは教員一人当たりの学生数比率が評価対象となり、学生数の割合が小さいほど「きめ細かな教育が行われている」という見方になります。この数字だけ見れば、東大の比率は米国トップ校に劣っているのですが、実はそこがランキングの盲点。アメリカでは教員の負担削減のために、研究員が授業を代行するケースも多く、有名教授に直接指導してもらうことを夢見て入学したのにがっかり、といったことも間々あるのです。一方、日本の大学では教授による講義が当然のことですし、またゼミの合宿やコンパといった機会を利用して、教員と学生が近しいコミュニケーションをとるという光景もよく見られます。
さまざまな面で多様性に富む東大
さらに、東大の強みとして佐藤氏は「多様性」を挙げます。海外からの留学生受け入れの幅が広いのもその理由ですが、実は少人数・小規模の講義が多数あるというのも、多様性の一つの表れなのです。東大では履修学生が少なくてもタイ語、ベトナム語、トルコ語といった外国語の授業が実施されますが、プリンストン大学では2017年5月に「履修者5人以下の授業は開講禁止」というお達しが出て、多くの外国語授業がなくなってしまいました。ちなみに、このようなカリキュラムだけでなく、学生個々人をみてもなんだかプリンストンより東大生の方がバラエティに富んでいるようだ、と佐藤氏は言います。米国トップ校を目指す若者は、優秀な学力と「卓越性」を意識するあまり、バランスのとれたオールラウンド・プレイヤーになりがち。対する東大生は、筆記試験を潜り抜けてきた学力を備えている一方で、かなり個性的な人も多いとか。
大学本来の意味が今、問われている
最初に述べたように、この日米トップ校比較は単なるデータ比較による星取り合戦ではなく、双方の強み、弱みを論じています。しかし、総じて米国トップ校は商業的要素を取り入れて会社化、あるいは職業訓練校化の傾向にあると佐藤氏は指摘しています。学生もその競争枠からはみ出さないように与えられた目的をそつなくこなす「優秀な羊」が多いと言われている状態です。日本の大学にも改善点は多々ありますが、その改革のためには欧米方式の模倣よりも独自の強みを生かすことを意識するべきではないでしょうか。学生も大学側もアイビーリーグ・ファンタジーから脱する時期に来ているのかもしれません。