社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.11.08

近視進行抑制に効くバイオレットライトとは?

今、世界中で近視の子どもが増えている

 ひと頃の海外での日本人観光客のイメージは、「カメラを首から下げていて、メガネをかけている」というものでした。今は、カメラの代わりにスマホ、メガネではなくコンタクトレンズ、と様変わりしましたが、日本人に近視の人が多いという状況は変わっていません。また、そのほとんどが子どものうちから近視になっているようです。

 実は近年、世界中で爆発的といってもいい勢いで近視の子どもが増えているのです。特に日本を含む東アジアでその傾向は顕著だと言われています。ここで「たかが近視」とあなどってはいけません。なぜなら、強度近視は失明の原因の第5位に位置するほど、危険度の高いものだからです。

 このような状況をふまえ、慶應義塾大学医学部眼科学教室教授の坪田一男氏は、近視はれっきとした「病気」であるととらえ、早めに対処することが大事だと注意を促しています。坪田氏の著書『あなたのこども、そのままだと近視になります。』を参考に、近視の原因及び確かなエビデンスのある治療・改善方法についてご紹介しましょう。

注意すべき「軸眼長の伸展」

 近視とは、「網膜よりも前方で像が結ばれてしまい、遠くのものにピントが合わない状態」と定義されます。近視の主な原因は2つあり、1つ目は水晶体が伸び縮みしにくくなりピントが近くに固定されてしまうことにあります。これによって起きるのが屈折性近視(よく「仮性近視」と呼ばれるもの)で、目のストレッチや点眼薬などで改善することができます。やっかいなのは2つ目の原因で、「眼軸長」と呼ばれる眼球の長さの伸展によって起こる「軸性近視」です。

 この眼軸長は体の成長とともに伸びるため、小学生から高校生の成長期には不可避の現象であり、成長に伴う適正な伸展ならさほど問題はありません。また、成長期に眼軸長が長くなって軽度の近視になっても、早めに眼科を受診して検査や治療を続ければ近視の進行を抑えることができます。

 成長期に近視に気がついたら放置しないというのが何より大切です。さらに坪田氏の研究チームは、眼軸長の伸展を抑え「近視抑制に明らかに重要だと言えるのは、屋外活動だけ」であるという確証を得るに至りました。もちろん、両親が近視であるといった遺伝的因子も近視の発症・進行に影響するのですが、それよりも屋外での活動や運動の時間の多寡の方が、圧倒的に影響が大きいことが分かったのです。外で遊ぶ時間が1週間で5時間以内の子どもと10時間以上の子どもを比較した場合、たとえ両親がともに近視であっても屋外活動の多い(この場合、10時間以上の)子どもは近視進行の割合がぐっと少ないのだそうです。

近視進行抑制に「バイオレットライト」が効く

 さらに坪田氏の研究が画期的だったのは、屋外活動の効果の要因が特定の「光」にあることを究明したことです。実は、眼軸長の伸展にはある種の光が大きく影響しているらしいことは、欧米でもいくつかの研究で判明していたのですが、今までの各研究ではそれがどんな光なのかまでは明らかにされていませんでした。そこで、坪田氏のチームは研究を重ね、それが「バイオレットライト(紫光)」であることをつきとめたのです。

 可視光線は波長の長い赤外線から短い紫外線まで何段階かに分かれていますが、バイオレットライトは紫外線より少し長い波長360~380nm(ナノメートル)程度の光です。このバイオレットライトが目に入ると眼軸長の伸びが抑えられため、「バイオレットライトには近視抑制効果があると考えられる」と、坪田氏は述べています。また、バイオレットライトを当てると、近視を抑制する遺伝子EGR1が増えることが実験結果から明らかになったとも伝えています。

 紫外線は目だけではなくいろいろと健康への影響が指摘されているため、一般的には「UV400」を基準に波長400nm以下はすべて紫外線としてカットするのがよいとされているのが現状です。しかし、坪田氏は380nm前後のバイオレットライトが近視抑制には効果絶大なのだと言います。近視予防策としてはこのバイオレットライトを取り入れるために「屋外活動をする」のが何より有効であり、できれば「1日2時間程度の屋外活動、運動」を坪田氏は推奨しています。

適切な紫外線対策をしよう

 もちろん、紫外線の悪影響は考慮すべきですが、行き過ぎた紫外線対策で子どもをほとんど外に出さないというのは避けるべきでしょう。直射日光を浴びるということではなく、日陰で過ごしたり帽子をかぶったりすればよいということです。今のところ、サングラスやその他の紫外線対策グッズは400nm以下のUVをすべてカットするものが主流ですが、坪田氏は現在、360nm以下の光はカットしつつ、380nmの光は透過しきちんとバイオレットライトを取り入れることのできるメガネやガラスを開発中とのことです。

 真に目に優しい製品、素材が広く出回ることを待つとして、子どもたちの目の健康を守るためにも正しいUVケアの知識を持ちたいですね。

<参考文献>
『あなたのこども、そのままだと近視になります。』(坪田一男著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)
https://www.d21.co.jp/shop/isbn9784799320419

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

日本の外交には「インテリジェンス」が足りない

日本の外交には「インテリジェンス」が足りない

インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動

国家が的確な情報を素早く見つけ行動するためには、インテリジェンスが欠かせない。日本の外交がかくも交渉下手なのは、インテリジェンスに対する意識の低さが原因だ。日本人の苦手なインテリジェンスの重要性について、また日...
収録日:2017/11/14
追加日:2018/05/07
中西輝政
京都大学名誉教授 歴史学者 国際政治学者
2

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割

豊臣と羽柴…二つの名前で語られる秀吉と秀長だが、その違いは何なのか。また、これまで秀長には秀吉の「補佐役」というイメージがあったが、史実ではどうなのか。実はこれまで伝えられてきた羽柴(豊臣)兄弟のエピソードにはか...
収録日:2025/10/20
追加日:2025/12/18
黒田基樹
駿河台大学法学部教授 日本史学博士
3

葛飾北斎と応為の見事な「画狂人生」を絵と解説で辿る

葛飾北斎と応為の見事な「画狂人生」を絵と解説で辿る

編集部ラジオ2025(31)絵で語る葛飾北斎と応為

葛飾北斎と応為という「画狂親娘」の人生と作品について、堀口茉純先生にそれぞれの絵をふんだんに示しながら教えていただいた講義を、今回の編集部ラジオで紹介しました。

葛飾北斎といえば知らぬ人はいない江戸の絵...
収録日:2025/12/04
追加日:2025/12/18
4

親娘で進歩させた芸術…葛飾応為の絵の特徴と北斎との比較

親娘で進歩させた芸術…葛飾応為の絵の特徴と北斎との比較

葛飾北斎と応為~その生涯と作品(4)葛飾応為の芸術と人生

葛飾北斎の娘であるお栄は、「応為」という画号で独自の絵画表現を切り拓いた。北斎とは異なる、女性ならではの描き方は、特に身体表現に現れ、西洋画の陰影表現の色濃い影響を感じさせる。積極的に新たな画法を吸収し、後世の...
収録日:2025/10/29
追加日:2025/12/13
堀口茉純
歴史作家 江戸風俗研究家
5

ルソーの「コスモポリタニズム批判」…分権的連邦国家構想

ルソーの「コスモポリタニズム批判」…分権的連邦国家構想

平和の追求~哲学者たちの構想(4)ルソーが考える平和と自由

かのジャン=ジャック・ルソーも平和問題を考えた一人である。個人の「自由意志」を尊重するルソーは、市民が直接参加して自分の意思を反映できる小さな単位を基本としつつ、国家間紛争を解決する手段を考えた。「自由の追求」に...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/16
川出良枝
東京大学名誉教授 放送大学教養学部教授