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DATE/ 2019.05.02

日本に来るベトナム人が増えている理由

急増するベトナムからの在留外国人

 日本で生活している在留外国人といえば、最近は欧米人も見かけるようになりましたが、やはり東アジア人が多いですよね。特に現在、急増しているのがベトナム人です。2017年の日本在留外国人の国・地域別構成統計では、前年3位のフィリピンを抜いてベトナムが3位に入りました。1位の中国と2位の韓国は前年と変わらない中での躍進です。

 この時点での在留ベトナム人数は約26万2000人で、前年比30%増となりました。法務省の発表では、2017年の在留ベトナム人数は5年前の2012年から5倍に増えたとのこと。中でも東京で生活するベトナム人は多く、同時期の東京都の発表によると23区内在住のベトナム人は2012年から7倍以上に増えたとされます。

 なぜ今、こんなに日本在留のベトナム人が増えているのでしょうか。その理由は、日本政府が推進した政治方針と関係があります。

ベトナム人留学生の増加と制度の抜け道問題

 その政治方針とは、2008年に掲げられた「留学生30万人計画」。教育による国際交流を活発にするため、2020年までに学生全体の10%に当たる30万人の受け入れを目標にしたのです。この計画目標は、2018年に33万7000人を受け入れて達成されました。

 つまり、急増した在留ベトナム人の多くが留学生です。現在、日本で学ぶベトナム人留学生は約8万人で、在留ベトナム人の約4分の1を占めます。

 ベトナムの若者が好んで日本に留学する理由には、イオンなどの日本企業がベトナムにも多く進出しており、親近感を持っていることが上げられます。日本で勉強したのち、そのまま日本でベトナムに進出している企業に就職し、ベトナムの支社に転勤するかたちで帰国するのがひとつの理想なのです。

 ところが、日本の留学制度の隙を突いて「出稼ぎ」を目的にしている留学生もいるようです。日本で学ぶ留学生の労働は基本的に週28時間、長期休暇中は週40時間まで認められています。さらに「研究生」制度を利用すると、週に最低10時間授業に出席すれば留学生として認められるため、1日2時間ほど授業に出てあとはずっとアルバイトしていても問題ないのが実態なのです。

 このため東京福祉大学では、あえて日本で働きたい外国人を研究生扱いで集めて定員を埋めていました。少子化による定員割れに苦しんだ結果の行動です。すると、もともと勉強する気のない「留学生」が退学したり学費を納めず除籍になったりして、1年間で約700人も所在不明になるという問題に発展しました。退学や除籍によって学生でなくなれば、留学生のビザは失効して不法滞在になり、強制退去の対象となります。

 また、今年(2019年)3月28日には日本語学校を装った「杉並外国語学院」の詐欺により、ベトナム人の日本留学希望者66人が合計約7000万円をだまし取られる事件が起きました。夢と希望あふれる留学のはずが、多くの問題も抱えているのです。

日本の現場を支えるベトナム人労働者

 日本の少子化は定員割れする大学だけでなく、労働の現場にも深刻な問題をもたらしています。若者が減る一方の日本では労働人口が不足しており、すでに多くの現場が外国人労働者なしでは立ち行かなくなっているのです。

 そこで政府は、1993年に制度化された外国人技能実習制度を2017年に改正。それまで最長3年間だった実習期間を5年間に延長し、対象職種に介護職を追加するなどして技能実習生の受け入れ体制を拡充しました。本来、技能実習制度は発展途上国の人材に技術を教授する国際貢献のひとつですが、実際には不足する働き手を確保する性格も持っています。

 ここでも留学生同様に増えているのがベトナム人です。2017年にはベトナム人技能実習生の人数が約12万4000人となり、前年より約40%増、5年前と比べると約7倍にも増えました。一方で、かつて技能実習生の中心だった中国人は同じ5年間で約30%減少し、約7万8000人となっています。

 中国人が減少した理由は、中国の経済発展により日本へ出稼ぎに来る人が減ったためと考えられます。そして、この減少分を埋められるのがベトナム人に他なりません。こうしてベトナム人に労働力になってほしい日本と、日本で稼ぎたいベトナム人という需要と供給が合致し、現在の日本ではベトナム人技能実習生が増加したのです。

 ところが、2017年に厚生労働省が約6000件の技能実習生受け入れ先事業者を指導した結果、約70%の事業者が長時間労働や賃金不払い、さらには暴力などの不正を行っていると判明しました。ベトナム人は技能実習生として日本に来るときに借金をしている人がほとんどなので、劣悪な労働環境から逃れるために失踪する人が外国人全体の平均約2.8%よりも多い、約3.6%もいるといいます。

 実は、2018年に出入国管理および難民認定法違反で強制退去となった外国人のうち、最も多かったのはベトナム人で4395人。技能実習生や留学生が不法滞在しているケースがほとんどです。日本を支えてくれているベトナム人を、日本も支えなくてはいけませんよね。そのためには労働環境の改善や無理のない渡航条件の整備など、見直すべき点がまだたくさんあるのです。

<参考サイト>
・産経ニュース 【ビジネス解読】在留外国人の構成に変動! 中韓の次はベトナム人急増の背景
https://www.sankei.com/premium/news/180917/prm1809170001-n1.html
・時事ドットコム 強制退去手続き2割増=最多はベトナム-18年
https://www.jiji.com/sp/article?k=2019032700904&g=soc
・法務省 平成30年末現在における在留外国人数について
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00081.html
・公益財団法人国際研修協力機構 外国人技能実習制度とは
https://www.jitco.or.jp/ja/regulation/
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