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韓国では全駅設置…日本の鉄道ホームドア事情
韓国・ソウルでは地下鉄の全駅に設置されているといわれているホームドアですが、日本の鉄道ではどうなっているのでしょうか。実は数年前まで整備の動きは少なかったのですが、最近加速しているといわれています。
2017年5月、東急電鉄が東横線・田園都市線・大井町線全駅でのホームドア設置計画を、従来の計画から約1年前倒しの2019年度中に完了させると発表したことを皮切りに、同年6月、東京メトロが東西線のホームドア設置計画を大幅に前倒しして、2025年度までに全路線全駅の整備を完了すると発表しました。続いて、相模鉄道も2022年度までに全駅にホームドアを整備すると発表。そして2018年3月、JR東日本が2032年度をめどに、東京圏在来線の主要路線全駅にホームドアを設置する長期計画を打ち出しました。
この一連の流れを、鉄道ライターで都市交通史研究家の枝久保達也氏は「もはや都市鉄道においてホームドアは標準装備になりつつあると言っても過言ではないだろう」と述べています。
今回は、日本の鉄道ホームドア事情を振り返りつつ考えてみたいと思います。
ではなぜ2001年に、既存路線へのホームドア設置の議論が動き始めたのでしょうか。
その背景を枝久保氏は、1)2000年に「交通バリアフリー法」(正式名称は「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」)が施行され交通弱者対策の機運が高まったこと、2)1980~90年代にホームドアを備えた新線の開業によってホームドアの周知が進んだこと、3)2001年1月にJR山手線新大久保駅でホームから転落した男性を救助しようとして亡くなった日本人男性と韓国人留学生の死亡事故によりホーム転落事故の危険性がより広く認知されたこと、を挙げています。
こうした議論をふまえ、2006年に施行された「バリアフリー新法」(正式名称「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」)で、新設・大規模改良駅には原則としてホームドアの設置が義務付けられ、あわせてホームドア設置工事を対象にした補助金や税制優遇など制度面の改善が行われました。
しかし、当時のホームドア事情は、1)東京メトロが2006~07年にかけて丸ノ内線にホームドアを設置、2)2008年3月にJR東日本が山手線への導入に向けた検証に着手することを発表、の2点を除けばホームドア拡大の動きはほとんど具体化しなかったというのが実情で、2008年末時点でホームドアを設置している駅は全国で424駅にとどまっていました。
枝久保氏によると、まずホームの開口部が固定されるため、ドアの枚数や位置を合致させる必要があること。加えて、1)列車を定位置に停止させるATOやTASCなど運転支援装置を導入するための車両改造、2)停車時間増加に伴う運用数増加に対応するための車両増備、3)ホームドアの荷重に耐えられない古いホームの補強工事、4)ホーム狭隘個所の拡幅工事などが必要となり、一駅あたり数億から数十億もの費用と長期の準備期間を要するケースが多いといいます。そのうえ「利用者増に直接結びつくものではないから、新規開業路線のコスト削減策としての導入事例を除けば、鉄道事業者が及び腰になるのも無理はなかった」と述べています。
しかし、2011年1月のJR山手線目白駅で視覚障害者の男性がホームから転落して死亡する事故が発生。前述した新大久保駅の事故から10年目を目前に発生したこの事故を重く受け止めた国土交通省は、転落事故の根本的で恒久的対策として「ホームドアの整備促進等に関する検討会」を設置しました。そして、検討会が各鉄道事業者のホームドア設置計画を調査し、優先整備駅の考え方・転落防止対策の進め方やその支援策などをとりまとめ、同年8月に国土交通省より、利用者数10万人以上の駅へのホームドアの優先的整備という初めての数値目標を設定しました。
この具体的な数値目標により、それまでホームドアの設置条件を満たす路線・駅に整備を進めてきた状況が逆転し、鉄道事業者は該当する駅に設置可能なホームドアを開発しなければならなくなりました。その結果、ドア枚数や位置の不一致に対応可能なホームドアや、軽量・薄型の筐体の新型ホームドアなど、多様なホームドアが次々に開発されていくことになりました。
さらに2016年8月、銀座線青山一丁目駅で盲導犬をつれた視覚障害者の男性の転落死亡事故が発生したことを受け、東京メトロはホームドア設置計画の大幅前倒しを発表します。枝久保氏は「以降、各社が“安全”と“安心”を旗印に、競ってホームドア設置計画を発表する冒頭の現状につながる」と述べています。
しかし、『東洋経済』記者で鉄道業界にも詳しい大坂直樹氏は、「(国土交通省は)さらに2020年度までに183駅に設置計画があるという。つまり2020年度時点で900を超える駅にホームドアが設置されるわけだ。この数字だけ見ると、ホームドア設置計画は極めて順調に見える。<中略>ところが、JR新宿駅やJR渋谷駅を見てわかるとおり、利用者が多いにもかかわらずホームドアが設置されていない駅も目立つ」と述べています。
ちなみに海外のホームドア事情を見てみると、冒頭に挙げた韓国(ソウル)をはじめ、シンガポール、中国、台湾などで広く導入されているほか、フランス、イギリス、スペイン、ロシア、ブラジルなどの一部の駅などで設置されています。
傾向としては、国内外ともに新線の開通や新駅の設置と同時に導入することや、歴史の浅い路線や駅などの方が規格や仕様が揃っていたり耐久性も高かったりするなどの理由で後付でも導入しやすいことなどから、それらの路線や駅は設置率が高くなっているようです。
ホームドアは直接利益増に結びつかない安全装置であるため、短期的には余計な費用に思えるかもしれません。特に後付で設置する場合費用は高くつくため、鉄道事業者には思い負担と思われます。しかし、ホームドアによる転落死亡事故防止の効果は絶大です。長期的で多様性を尊重する視野にたてば、必要なことがみえてくるように思います。
2017年5月、東急電鉄が東横線・田園都市線・大井町線全駅でのホームドア設置計画を、従来の計画から約1年前倒しの2019年度中に完了させると発表したことを皮切りに、同年6月、東京メトロが東西線のホームドア設置計画を大幅に前倒しして、2025年度までに全路線全駅の整備を完了すると発表しました。続いて、相模鉄道も2022年度までに全駅にホームドアを整備すると発表。そして2018年3月、JR東日本が2032年度をめどに、東京圏在来線の主要路線全駅にホームドアを設置する長期計画を打ち出しました。
この一連の流れを、鉄道ライターで都市交通史研究家の枝久保達也氏は「もはや都市鉄道においてホームドアは標準装備になりつつあると言っても過言ではないだろう」と述べています。
今回は、日本の鉄道ホームドア事情を振り返りつつ考えてみたいと思います。
“交通”にとどまらない新しいバリアフリー
ホームドアが日本で初めて導入されたのは、1974年の東海道新幹線線熱海駅でといわれています。その後、地下鉄や無人運転を行う新交通システムなどで導入がされてきましたが、既存路線については2001年まではホームドア設置の拡大どころか、設置に向けた議論もそれほどされてきませんでした。ではなぜ2001年に、既存路線へのホームドア設置の議論が動き始めたのでしょうか。
その背景を枝久保氏は、1)2000年に「交通バリアフリー法」(正式名称は「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」)が施行され交通弱者対策の機運が高まったこと、2)1980~90年代にホームドアを備えた新線の開業によってホームドアの周知が進んだこと、3)2001年1月にJR山手線新大久保駅でホームから転落した男性を救助しようとして亡くなった日本人男性と韓国人留学生の死亡事故によりホーム転落事故の危険性がより広く認知されたこと、を挙げています。
こうした議論をふまえ、2006年に施行された「バリアフリー新法」(正式名称「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」)で、新設・大規模改良駅には原則としてホームドアの設置が義務付けられ、あわせてホームドア設置工事を対象にした補助金や税制優遇など制度面の改善が行われました。
しかし、当時のホームドア事情は、1)東京メトロが2006~07年にかけて丸ノ内線にホームドアを設置、2)2008年3月にJR東日本が山手線への導入に向けた検証に着手することを発表、の2点を除けばホームドア拡大の動きはほとんど具体化しなかったというのが実情で、2008年末時点でホームドアを設置している駅は全国で424駅にとどまっていました。
ホームドア設置の重たい課題と悲劇の契機
ではなぜホームドア設置は進まなかったのでしょうか。その背景にはホームドア設置のためのさまざまな課題が潜んでいます。枝久保氏によると、まずホームの開口部が固定されるため、ドアの枚数や位置を合致させる必要があること。加えて、1)列車を定位置に停止させるATOやTASCなど運転支援装置を導入するための車両改造、2)停車時間増加に伴う運用数増加に対応するための車両増備、3)ホームドアの荷重に耐えられない古いホームの補強工事、4)ホーム狭隘個所の拡幅工事などが必要となり、一駅あたり数億から数十億もの費用と長期の準備期間を要するケースが多いといいます。そのうえ「利用者増に直接結びつくものではないから、新規開業路線のコスト削減策としての導入事例を除けば、鉄道事業者が及び腰になるのも無理はなかった」と述べています。
しかし、2011年1月のJR山手線目白駅で視覚障害者の男性がホームから転落して死亡する事故が発生。前述した新大久保駅の事故から10年目を目前に発生したこの事故を重く受け止めた国土交通省は、転落事故の根本的で恒久的対策として「ホームドアの整備促進等に関する検討会」を設置しました。そして、検討会が各鉄道事業者のホームドア設置計画を調査し、優先整備駅の考え方・転落防止対策の進め方やその支援策などをとりまとめ、同年8月に国土交通省より、利用者数10万人以上の駅へのホームドアの優先的整備という初めての数値目標を設定しました。
この具体的な数値目標により、それまでホームドアの設置条件を満たす路線・駅に整備を進めてきた状況が逆転し、鉄道事業者は該当する駅に設置可能なホームドアを開発しなければならなくなりました。その結果、ドア枚数や位置の不一致に対応可能なホームドアや、軽量・薄型の筐体の新型ホームドアなど、多様なホームドアが次々に開発されていくことになりました。
さらに2016年8月、銀座線青山一丁目駅で盲導犬をつれた視覚障害者の男性の転落死亡事故が発生したことを受け、東京メトロはホームドア設置計画の大幅前倒しを発表します。枝久保氏は「以降、各社が“安全”と“安心”を旗印に、競ってホームドア設置計画を発表する冒頭の現状につながる」と述べています。
長期的で多様性の視点からみるホームドア
2018年3月末現在で、ホームドアの設置状況は全国725駅に拡大しています。しかし、『東洋経済』記者で鉄道業界にも詳しい大坂直樹氏は、「(国土交通省は)さらに2020年度までに183駅に設置計画があるという。つまり2020年度時点で900を超える駅にホームドアが設置されるわけだ。この数字だけ見ると、ホームドア設置計画は極めて順調に見える。<中略>ところが、JR新宿駅やJR渋谷駅を見てわかるとおり、利用者が多いにもかかわらずホームドアが設置されていない駅も目立つ」と述べています。
ちなみに海外のホームドア事情を見てみると、冒頭に挙げた韓国(ソウル)をはじめ、シンガポール、中国、台湾などで広く導入されているほか、フランス、イギリス、スペイン、ロシア、ブラジルなどの一部の駅などで設置されています。
傾向としては、国内外ともに新線の開通や新駅の設置と同時に導入することや、歴史の浅い路線や駅などの方が規格や仕様が揃っていたり耐久性も高かったりするなどの理由で後付でも導入しやすいことなどから、それらの路線や駅は設置率が高くなっているようです。
ホームドアは直接利益増に結びつかない安全装置であるため、短期的には余計な費用に思えるかもしれません。特に後付で設置する場合費用は高くつくため、鉄道事業者には思い負担と思われます。しかし、ホームドアによる転落死亡事故防止の効果は絶大です。長期的で多様性を尊重する視野にたてば、必要なことがみえてくるように思います。
<参考文献・参考サイト>
・「ホームドア」、『日本大百科全書』(小学館)
・「ホームドア」、『イミダス2018』(集英社)
・「加速するホームドア整備」、『鉄道ジャーナル』2019年4月号(枝久保達也著、鉄道ジャーナル社)
・鉄道:ホームドア整備に関するWG - 国土交通省
http://www.mlit.go.jp/common/001279827.pdf
・鉄道:ホームドアの設置状況(平成30年3月末現在) - 国土交通省
http://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk6_000022.html
・国が画策、運賃「値上げ」で駅ホームドアを設置 | 駅・再開発 | 東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/264856
・「ホームドア」、『日本大百科全書』(小学館)
・「ホームドア」、『イミダス2018』(集英社)
・「加速するホームドア整備」、『鉄道ジャーナル』2019年4月号(枝久保達也著、鉄道ジャーナル社)
・鉄道:ホームドア整備に関するWG - 国土交通省
http://www.mlit.go.jp/common/001279827.pdf
・鉄道:ホームドアの設置状況(平成30年3月末現在) - 国土交通省
http://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk6_000022.html
・国が画策、運賃「値上げ」で駅ホームドアを設置 | 駅・再開発 | 東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/264856
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