テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.07.12

海外からの観光客も多い日本の「猫島」とは?

 今も昔も人びとから圧倒的な人気を集める猫。そんな猫が集まる島は「猫島」と呼ばれ、猫好きにはたまらないスポットとなっています。日本の各地にも点在する猫島が、いま海外からの観光客からも人気を集めているのをご存知ですか?

きっかけはCNNのニュース記事

 日本の猫島が注目されるきっかけとなったのは、2013年にアメリカCNNが世界の5大猫スポットを紹介した記事。イタリア・ローマのアルジェンティーナ神殿跡、台湾の猴トン(ほうとん)、トルコのカルカン、アメリカ・フロリダのキーウェストにあるヘミングウェイ博物館と並び、宮城県石巻市にある田代島という小さな島がそのひとつに選ばれたのです。

 田代島は130匹以上もの猫が暮らし、その数島民より多いともいわれる小さな島です。島内に猫神様をまつる猫神社があるほど、猫を大切にする風習があり、犬を飼うことは禁止されています。まさに猫の楽園といえるこの島がCNNのニュースで紹介されたことによって、日本の猫島に国内外の観光客の人気を集めるようになったのです。

 また、同記事ではこの他にも福岡県の相島も猫島であると紹介されています。相島は、猫好きで知られるイギリスのシンガーソングライター、エド・シーラン本人に宛てて、彼の楽曲「シェイプ・オブ・ユー / Shape of you」をBGMに相島の猫をミュージックビデオ風に撮影したビデオレターを発信したことも話題に。この動画の再生回数は18万回を超え、エド・シーラン本人からもFacebookで「相島へ訪れてみたい」とのコメントが寄せられていて、日本の猫島に注目が集まるひとつの要因となっています。

人気の一方で深刻な問題も

 猫が不自由なく過ごせる楽園のような場所と想像される猫島ですが、決してそんなことはありません。事実、猫島と呼ばれる島はさまざまな問題に頭を悩ませているのです。

 ひとつは猫が生きる環境としての問題です。近親交配によって体に不自由がある猫が生まれること、猫の数が増えたせいでエサにありつけずに餓死してしまうこと、共食いしてしまうことは珍しいことではありません。また、島の人口減少、高齢化が進む中、いつまで猫の管理ができるか不安の声も上がっています。

 世界有数の猫スポットであるイタリア・ローマのアルジェンティーナ神殿跡には猫シェルターがあり、ここにいる猫たちは去勢・不妊手術を受けてワクチンも接種することができるのです。日本でまったく同じことができるわけではありませんが、猫島として有名な愛媛県の青島や香川県の男木島でも、島にいる猫への不妊・去勢手術を実施したことが話題になりました。猫が生きていく環境を整備するのも、猫島が抱える大きな問題になっているのです。

 もうひとつは、観光客のマナーの問題です。観光客が増えたことによるゴミのポイ捨ての増加、島民の敷地への無断侵入、勝手なエサやりなどの観光客の無責任な行動が、島民の生活を脅かす問題になっているのです。猫島は島民と猫が共存して暮らしている場所。最低限のマナーを守ることが求められています。

外国人観光客への対応にも追われる

 また、海外から「夢のような場所だ」「いつか行ってみたい」と反応があるように、猫島には多くの海外からの観光客も訪れています。日本が注目を浴びるのは喜ばしいことですが、上記のような問題を海外の人にどうやって伝えていくのかも、猫島が抱える問題のひとつといえるでしょう。

 猫島は猫カフェや動物園ではありません。観光客はそのことをしっかり忘れずに、島民と猫が共存する場所にお邪魔するという気持ちで猫島を訪れる必要があるのかもしれません。

<参考サイト>
・5 places where cats outshine tourist attractions│CNN
https://edition.cnn.com/travel/article/where-cats-outshine-sights/index.html
・拝啓エド・シーラン様 「シェイプ・オブ・ユー」
https://www.youtube.com/watch?v=jvELIshLFQo
人口6人、猫200頭以上!瀬戸内の猫島「青島」全頭に無料で不妊手術を行いました。|どうぶつ基金
https://www.doubutukikin.or.jp/activitynews/%E4%BA%BA%E5%8F%A3%EF%BC%96%E4%BA%BA%E3%80%81%E7%8C%AB200%E9%A0%AD%E4%BB%A5%E4%B8%8A%EF%BC%81%E7%80%AC%E6%88%B8%E5%86%85%E3%81%AE%E7%8C%AB%E5%B3%B6%E3%80%8C%E9%9D%92%E5%B3%B6%E3%80%8D%E5%85%A8/
・愛され猫がいっぱいの古代ローマ遺跡!イタリア「アルジェンティーナ神殿跡」
https://www.travel.co.jp/guide/article/23184/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か

地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か

海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ

海底はどうやってできるのか。なぜ火山ができるのか。プレートが動くのは地球だけなのか。またそれはどうしてか。ではプレートは海底の動きの全てを説明できるのか。地球史規模の海底の動きについて、海底調査の実態から最新の...
収録日:2020/10/22
追加日:2021/05/02
沖野郷子
東京大学大気海洋研究所教授 理学博士
2

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率

日本の政治史を見る上で地理的条件は外せない。「島国」という、外圧から離れて安心をもたらす環境と、「山がち」という大きな権力が生まれにくく拡張しにくい風土である。特に日本の国土は韓国やバルカン半島よりも高い割合の...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/15
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
3

「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味

「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味

未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査

現在の宇宙開発は「国際月探査」を合言葉に掲げている。だが月は人類の移住先にも適さず、探査にさほどメリットがない。にもかかわらずなぜ「月探査」が目標として掲げられているのか。それは冷戦後、宇宙開発の目標を失った各...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/16
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
4

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本

組織のまとめ役として、どのように接すれば部下やメンバーの成長をサポートできるか。多くの人が直面するその課題に対して、「経験学習」に着目したアプローチが有効だと松尾氏はいう。では経験学習とは何か。個人、そして集団...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/10
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授
5

トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ

トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ

トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン

アメリカのトランプ大統領は、2025年5月に訪れたサウジアラビアでの演説で「トランプ・ドクトリン」を表明した。それは外交政策の指針を民主主義の牽引からビジネスファーストへと転換することを意味していた。中東歴訪において...
収録日:2025/08/04
追加日:2025/09/13
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー