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DATE/ 2019.07.18

「プリウス」がネットで叩かれる理由

 交通事故関連のニュースは連日のように大きく取り上げられています。特に問題となっているのが高齢ドライバーの事故です。2018年のデータによると、75歳以上のドライバーが全ドライバーに占める割合は14.8%と過去最高であり、ブレーキやアクセルの踏み間違いなどの「操作不適」による事故は全事故の30%に達しています。

 大きな事故が起きるとさまざまな憶測が飛び交います。この憶測の中に「トヨタプリウスは危険な車だ」というものがあります。これは事実なのでしょうか。いくつかの側面から詳しく検討してみましょう。誤解のないよう結論からさきに言うと、プリウスが危険ということの根拠はありません。

ネット上での声

 2016年に福岡市の病院にタクシーが突入し死傷者が出た事故、2017年に吉祥寺駅前で85歳が運転する自動車が暴走して歩行者を跳ねた事故、また2019年には池袋での暴走事故、と立て続けに毎年大きな事故がありました。これらの事故を起こしたクルマはプリウスです。

 こういった事例を中心に、プリウスは危険という内容がSNSでさまざまに拡散されています。「#プリウスミサイル」といったハッシュタグで話が拡散されたり、「#今日のプリウス」といったハッシュタグで、街で見かけた非常識なプリウスを晒されたりといった動きもあるようです。また、少し真面目なところでは、実際にシフトレバーの画像とともに、操作が分かりづらいという指摘も見受けられます。

プリウスの不具合・リコール

 トヨタのリコール情報を見ると、確かに2018年(平成30年)10月に、プリウスは国土交通省にリコールを届け出ています。これは一部の部品に損傷などが起こると警告灯が点灯し、ハイブリッドシステムが停止して走行不能になる恐れがある、というものです。これによって125万台がリコール対象となっています。また、これ以前の2016年10月にも、駐車ブレーキが作動できなくなるおそれがあるとして、21万台あまりがリコール対象となっています。

 ただし、これらの不具合による事故は確認されていません。また、暴走につながるような深刻な問題も確認されていません。確かにリコール台数という点ではプリウスは多いですが、それはプリウスの販売台数が多いからです。リコール台数が多いから危険とは言えません。こう考えると、問題はクルマの欠陥ではないはずです。

 一方、やはりプリウスは危険なのではないか、と思わせるデータもあります。2016年のイギリスでの事故率(1万台あたりの事故率)ではプリウスが1位です。この点については、特に購入する層や母数の違いなど、日本とは異なる条件や事情がありそうです。この結果をうけてそのままプリウスそのものが危険だと断言するには、もう少し詳細な検討が必要です。

保険料率から考えるとプリウスに問題はない

 日本国内でのプリウスの安全性を知るには保険料率を見てみるといいかも知れません。保険には1から9のクラス分けがあり、数字が大きいと事故リスクが高いと考えられます。これは過去の保険の利用や支払いによって算出されるものです。プリウス(ZVW50型)は「対人賠償責任保険:4」「対物賠償責任保険:5」「搭乗者傷害保険:4」「車両保険:5」となっています。クルマ情報サイトCarviewによると、これはほぼ平均的で、どちらかというとやや低めの数字とのこと。ただし、先代プリウス(ZVW30型やNHW20型)では対人事故でのリスクは、ZVW50型に比べて高めとなっています。

 保険料率は、自動車自体のリスクというよりも、事故を起こしやすいドライバーが好むクルマでより高くなります。このことから考えても、プリウスに乗っているドライバーに関しても、特別リスクが高いという評価は下されていないことが分かります。

団塊の世代のクルマとしての「プリウス」

 クルマは家族のライフステージによって変化します。家族が独立したシニア層が買うクルマとしてプリウスは最も需要があります。子育てを終え、ダウンサイジングしたクルマを買おうと思ったときに、恥ずかしくないクルマというところで好まれてきたと言えるでしょう。

 プリウスが量産され始めたのは1997年です。この当時、1947年生まれの人(団塊の世代)は50歳。1972年に25歳で子供を生んでいたとすれば、その子どもたち(団塊ジュニア)は1997年に25歳、ちょうど独立して家族を築きだす頃と考えていいでしょう。この10年後の2007年には、団塊の世代は60代に入りだします。この頃、定年退職すると退職金でクルマを買い換える人たちも増え、プリウスは2007年以降から大量に世の中に出回ったと考えていいのではないでしょうか。

 実際にプリウスは2009年に20万8876台を販売し、新車販売台数トップになります。2010年の売上台数は31万台以上に達し、2位のホンダ「フィット」に10万台以上の差をつけています。2011年は震災の影響で販売台数は25万台程度に落ちますが、その後、2012年には再び31万台以上が売れています。ちなみに、2018年では販売台数は3位へ後退しています。

高齢者のクルマというアイコン

 こうしてプリウスは現在では、落ち着いたシニア向けのクルマのようなイメージとして定着しているようです。価格も250万円程度と決して安くはありません。歳を重ねた世代がそれなりのゆとりをもって乗るクルマとなっています。いわば、プリウスは現代において悠々自適な生活をおくる団塊の世代のアイコンのような立ち位置にいます。

 「#プリウスミサイル」「#今日のプリウス」といった「プリウスバッシング」は、なかなか未来が見通せない比較的若い世代の、憂さ晴らし的揶揄という側面も強いのかも知れません。SNSはそういった人の怒りや感情的反発をより拡散させたり、連鎖させたりするような要素が強いように思えます。だからこそ、私たちは冷静にならなければなりません。ここまで見てきたとおり、「プリウスが悪い」という話の片付け方には根拠はありません。今後も、高齢ドライバー全般に対する安全確保のための制度改革と意識改革、また技術開発も含めた総合的なアプローチが何よりも重要であることは変わりません。

<参考サイト>
・トヨタ、プリウスなど124万台リコール 制御に不具合|朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASLB54JQLLB5UTIL01Y.html
・イギリスの保険サービス会社が車名別の事故率を調査、トップはプリウスだった|Carview
https://carview.yahoo.co.jp/news/market/20190613-10418679-carview/
・AUTO ACCIDENTS|Gocompare.com Limited
https://www.gocompare.com/car-insurance/auto-accidents/
(10MTV編集部)

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