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DATE/ 2019.12.03

複雑な「軽減税率」その境界線は?

 「軽減税率」とは、「政策的目的により税負担を軽くするため、標準税率より低い税率を適用すること」をいいます。ただし、現在の日本において一般的に用いられる場合は「消費税」の「軽減税率」を指すことが多い用語です。

 なお、日本経済新聞社編『Q&A軽減税率はやわかり』では、「消費税の軽減税率とは、何のためのどんな仕組みですか?」という問いに対して、「生活必需品などあらかじめ定めた一部の商品に限って消費税率を低くする仕組みです」と答えています。

現行「軽減税率」対象となる品目のおさらい

 2019年10月1日より消費税率10%に引き上げられると同時に、「酒類・外食を除く飲食料品」と「週2回以上発行される新聞(定期購読契約に基づくもの)」を適用対象とした消費税8%の「軽減税率」制度が実施されました。「軽減税率」の対象品目の詳細は、以下の2点になります。

 1)「飲食料品」:酒類・外食を除く飲食料品

 「軽減税率」対象品目となる「飲食料品」の要件は、「食品表示法に規定する食品(酒類を除く)」=「人の飲用または食用に供されるもの」をいいます。具体的には以下の4点になります。

1.米穀や野菜、果実などの農産物、食肉や生乳、食用鳥卵などの畜産物、魚類や貝類、海藻類などの水産物
2.めん類・パン類、菓子類、調味料、飲料等、その他製造又は加工された食品
3.添加物(食品衛生法に規定するもの)
4.一体資産のうち、一定の要件(税抜価額が1万円以下であって、食品の価額の占める割合が3分の2以上の場合)を満たすもの

 ただし、外食やケータリング等は、「軽減税率」の対象品目には含まれません。また、「酒税法」に規定する酒類ならびに、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に規定する、医薬品、医薬部外品、再生医療等製品は、「軽減税率」の対象外となります。

 2)「新聞」:週2回以上発行される新聞(定期購読契約に基づくもの)

 ただし、「新聞」と付けばなんでも対象品目となることはありません。「軽減税率」対象品目となる「新聞」には、「一定の題号を用い、政治・経済・社会・文化等に関する一般社会的事実を掲載する週2回以上発行されるもの(定期購読契約に基づくもの)」という要件があります。

 ちなみに、2019年10月1日より実施されている「軽減税率」の適用期間は、2019年11月現在では未定となっています。

「軽減税率」の境界線・その1:飲食料品の譲渡

 ここからは具体的に、「軽減税率」の境界線を見ていきましょう。まずは、「飲食料品の譲渡」の10の境界線です。

【飲食料品の譲渡の境界線1】食品とペットフードの境界線
農産物・畜産物・水産物の販売:軽減税率8%
家畜の飼料・ペットフードの販売:標準税率10%
解説:「食品」とは、「人の飲用または食用に供されるもの」をいいます。人の飲用または食用に供されるものではないため家畜の飼料やペットフードは、「食品」に該当しないため、「軽減税率」の適用対象となりません。

【飲食料品の譲渡の境界線2】販売と加工の境界線
コーヒーの生豆の販売:軽減税率8%
コーヒーの生豆の加工:標準税率10%
解説:コーヒーの生豆は「食品」に該当するため「軽減税率」の適用対象となります。しかしコーヒーの生豆の“加工”は「役務の提供」に該当するため、「軽減税率」の適用対象となりません。

【飲食料品の譲渡の境界線3】もみと苗木・種子の境界線
もみの販売:軽減税率8%
苗木・種子の販売:標準税率10%
解説:もみは「食品」に該当するため「軽減税率」の適用対象となります(ただし、人の飲用または食用に供されるものではない「種もみ」として販売されるもみは「食品」に該当しないため、「軽減税率」の適用対象となりません)。しかし苗木・種子は「食品」に該当しないため、「軽減税率」の適用対象となりません(ただし、種子であっても、おやつや製菓の材料用など、人の飲用または食用に供されるものとして販売されるかぼちゃの種などは、「食品」に該当するため、「軽減税率」の適用対象となります)。

【飲食料品の譲渡の境界線4】水の境界線
ミネラルウォーター:軽減税率8%
水道水:標準税率10%
解説:ミネラルウォーターなどの飲料水は「食品」に該当するため、「軽減税率」の適用対象となります。他方、水道水は炊事や飲用のための「食品」としての水と、風呂や洗濯といった飲食用以外の生活用水として供給されるものとが混然一体となって提供されているため、例えば水道水をペットボトルに入れて人の飲用に供される「食品」として販売する場合を除き、「軽減税率」の適用対象となりません。

【飲食料品の譲渡の境界線5】氷の境界線
かき氷・飲料用氷:軽減税率8%
ドライアイス・保冷用氷:標準税率10%
解説:かき氷に用いられる氷や飲料に入れて使用される氷といった食用氷は「食品」に該当するため、「軽減税率」の適用対象となります。しかし、ドライアイスや保冷用の氷は人の飲用又は食用に供されるものではなく「食品」に該当しないことから、「軽減税率」の適用対象となりません。

【飲食料品の譲渡の境界線6】酒類の境界線
ノンアルコールビール・甘酒の販売:軽減税率8%
「食品」の原材料となるワインなど酒類の販売:標準税率10%
解説:ノンアルコールビールや甘酒など酒税法に規定する酒類に該当しない飲料は、軽減税率の適用対象である「飲食料品」に該当するため、「軽減税率」の適用対象となります。同様に、「酒類を原料とした菓子の販売」「酒類の原材料となる食品の販売」も、「軽減税率」の適用対象となります。しかし、「食品」の原材料となるワインなどであっても「酒税法」に規定する酒類は、「軽減税率」の適用対象となりません。

【飲食料品の譲渡の境界線7】みりん風とみりん・料理酒の境界線
みりん風調味料:軽減税率8%
みりん・料理酒:標準税率10%
解説:みりん風調味料(アルコール分が1度未満のもの)については、「酒税法」に規定する酒類に該当せず「飲食料品」に該当するため、「軽減税率」の適用対象となります。しかし、「酒税法」に規定するみりんや料理酒は、「軽減税率」の適用対象となりません。

【飲食料品の譲渡の境界線8】健康食品等と医薬品等の境界線
特定保健用食品・栄養機能食品・健康食品・美容食品等:軽減税率8%
栄養ドリンク(医薬部外品):標準税率10%
解説:特定保健用食品・栄養機能食品は「医薬品等」に該当せずに「食品」に該当します。同様に、健康食品・美容食品も「医薬品等」に該当しないものであれば「食品」に該当するため、「軽減税率」の適用対象となります。しかし、「医薬品等」に該当する「医薬部外品」は「食品」に該当しません。そのため、栄養ドリンク(医薬部外品)の販売は、「軽減税率」の適用対象となりません。

【飲食料品の譲渡の境界線9】譲渡方法との役務の提供の境界線
通信販売・自動販売機による飲食料品の販売:軽減税率8%
果物狩り・潮干狩り・釣り堀:標準税率10%
解説:通信販売や自動販売機での販売であっても、販売する商品が「飲食料品」に該当する場合は「飲食料品の譲渡」に該当するため、「軽減税率」の適用対象となります。しかし、果物狩りの入園料は、顧客に果物を収穫させて収穫した果物をその場で飲食させるといった「役務の提供」に該当するため、「軽減税率」の適用対象となりません(潮干狩りや釣り堀等も同様の取扱い)。

【飲食料品の譲渡の境界線10】製造過程等と譲渡に要する送料等の境界線
食品の製造過程で使用する「添加物」の販売:軽減税率8%
飲食料品の譲渡に要する送料:標準税率10%
解説:食品の製造・加工等の過程において添加される「食品衛生法」に規定する「添加物」は「食品」に該当するため、「軽減税率」の適用対象となります(食品添加物の金箔や重曹も同様の取扱い)。しかし、「飲食料品の譲渡」に要する送料であっても「飲食料品の譲渡」の対価ではないため、「軽減税率」の適用対象となりません。ただし、例えば「送料込み商品」の販売など別途送料を求めない場合で、その商品が「飲食料品」に該当するのであれば、「軽減税率」の適用対象となります。

「軽減税率」の境界線・その2:外食の範囲

 さらに、「外食の範囲」の軽減税率8%と標準税率10%の境界線の適用範囲の具体例も見ていきましょう。「ただし、飲食設備や食事の提供方法等によって個別判断が必要な場合もあります。

【外食の範囲の境界線1】軽減税率8%の外食
飲食店のレジ前の菓子等の販売、公園のベンチでの飲食、列車内の移動ワゴンによる飲食料品の販売、旅館・ホテル等の客室に備え付けられた冷蔵庫内の飲料(酒類は除く)の販売、そばの出前や宅配ピザ、社内会議室への飲食料品の配達、配達先での飲食料品の取り分け、学校給食。

【外食の範囲の境界線2】標準税率10%の外食
社員食堂での飲食料品の提供、セルフサービスの飲食店、飲食店で残りを持ち帰る場合、飲食店で提供する缶飲料・ペットボトル飲料、立食形式の飲食店、フードコートでの飲食、列車内の食堂での食事、カラオケボックスでの飲食料品の提供、旅館・ホテル等宿泊施設における飲食料品の提供、バーベキュー施設での飲食等、「ケータリング」や「出張料理」、家事代行、飲食料品の提供に係る委託、学生食堂。

【外食の範囲の境界線3】飲食設備や食事の提供方法等により個別判断が必要な場合
屋台での飲食料品の提供、コンビ二工ンスストアのイートインスペースでの飲食、映画館の売店での飲食料品の販売、有料老人ホームの飲食料品の提供、病院食。

“複雑な境界線の問題”による問題

 いかがでしたでしょうか。「なるほど~」と思った例や「ややこしいな…」と思った例もあったのではないでしょうか。また【外食の範囲の境界線3】で示したように、厳密には「軽減税率」の境界線が複雑であいまいな場合も多々あります。

 他方、実際に「軽減税率」の適用が混在している中小企業において、クレジットカードの決済に時間がかかりすぎたりレジ締めが大変だったりしているといった運用面での問題も挙げられているなど、新たな負担も明らかになってきています。

 さらにはそもそも論として、消費税増税が増収に結びついているのか、複雑な「軽減税率」を取り入れたことによるコストとみあっているのかなど、消費税増税ならびに「軽減税率」における複雑な境界線問題による問題が、今後ますます露呈してくるかもしれません。そのような問題に過度に惑わされないためにも、ぜひ一度、正しい「軽減税率」の境界線の知識をもって、税制の仕組みを見直してみてほしいと思います。

<参考文献・参考サイト>
・「軽減税率」、『日本大百科全書』(小学館)
・『Q&A軽減税率はやわかり』(日本経済新聞社編、日経文庫)
・令和元年10月1日、消費税の軽減税率制度がスタート!
https://www.nta.go.jp/about/organization/hiroshima/topics/syohi_keigen/index.htm
・消費税の軽減税率制度の実施について|国税庁
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/01_4.htm
・消費税の軽減税率制度等に関する資料 : 財務省
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d02.htm
・消費税の軽減税率制度に関するQ&A - 国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/03.pdf#search='食肉+軽減税率'
・『パッと見てわかる!消費税の軽減税率Q&A』(佐々木宏・中村茂幸共著、税務研究会出版局)
・税制改革法
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=363AC0000000107
・酒税法
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=328AC0000000006
・医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=335AC0000000145#D
・軽減税率「中小企業の7割が見直し求める」経営者調査
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191113/k10012175171000.html
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