社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
ダ・ヴィンチのノートに隠された意外な秘密とは?
2019年は、レオナルド・ダ・ヴィンチの没後500年でした。「知の巨人」「美の巨匠」として世界中の人が認識しているダ・ヴィンチ。彼の残したノートを中心とする研究がもう100年続いていますが、その全貌は未だ解明されていないと言います。
公証人は世襲されるのが普通でしたが、非嫡出のレオナルドにはその資格がありませんでした。つまり、14-15歳に達した彼がフィレンツェに出て、ヴェロッキオの工房に入ったのは、婚外子というハンディを背負っていたからこそ。嫡出子であれば、ダ・ヴィンチは村の公証人として、「絵のうまい物知りおじさん」に終わっていたかもしれないのです。
さて、2007年に東京国立博物館でダ・ヴィンチ初期の「受胎告知」が展示されました。これは師のヴェロッキオとともにレオナルドが描いた絵画の代表作です。この作品では、マリアの足元に素焼きのタイル(テラコッタ)が配置されています。教会の壁に飾られると、信者たちからはほとんど見えないような部分です。
また、中央の背景には、灰色っぽく青っぽい部分があります。空気中の水蒸気の乱反射による効果を表したもので、レオナルド自身が後世に理論化する「空気遠近法(大気遠近法)」を実践したものです。さらに、大天使ガブリエルの翼は、鳥の翼をそのまま模写したもので、他の大画家たちのような装飾を加えていません。
このように、自然を観察する目の異常なほどの正確さ、科学的観察結果をすべて盛り込む完璧主義に、ダ・ヴィンチの「天才」の大部分が集約されているのではないか、と東京造形大学の池上英洋教授は推測しています。
同じデザインを持つものは、同じ機能を発揮する。自然観察の得意だったレオナルドは、それまで知られることのなかった「葉脈ー血管ー河川」の類比、「幹ー柱ー背骨」の類比を発見して、絵画や実験、発明に役立てています。
絵を描くための観察眼は、博物学者としても科学者としても、また軍隊勤務にも一流の成果を残すものでした。実際レオナルドは、30歳になったときにミラノ公国に志願し、軍事技師として雇われます。ちなみに、その頃のイタリアは小さな都市国家に分裂した状態で、フィレンツェ、ミラノ、ローマ、ベネツィア、ナポリなどは、すべて別の国として覇権を競っていました。
30歳というと若いようですが、当時の平均寿命は約50歳。工房に入って15年経ち、ようやく独り立ちできると認められた頃の「転職」は、リスキーなものだったといえるでしょう。推薦状を自分で用意したレオナルドは、10項目中1から9まで軍事について書き、最後の1項目のみ美術のことを書いています。
地形を把握するため、登山に精を出していた彼は、あるとき山の上で貝殻の化石を発見します。当時、一般の人々はそういう機会に恵まれると、「ノアの洪水のかけらを私は見つけたぞ」と考えて喜びました。しかし、レオナルドは違います。
彼の観察眼は「地層」にも向けられ、「堆積」構造の意味するところを理解していたからです。彼は「ノアの洪水の時点で、地面が今日目にするように何層かにきちんと分かれているはずがない」と何度もノートに書き残しています。
ガリレオより100年も前に、このような意見を口に出すことはできませんでしたが、彼の「近代人」としての観察眼・思考力は、その後、ますます磨かれていきます。
単に「万能の天才」としてダ・ヴィンチを見ていると、ただ「すごいなー!」で終わってしまいます。「最初の近代人」として彼の事績を追っていくことで、科学的思考の積み重ねが導く道の確かさと出会うことができます。
婚外子でなければ、ダ・ヴィンチは世に出なかった?
レオナルドの姓が、フィレンツェ郊外にある「ヴィンチ村」の出身を表すものだというのは名高い事実ですが、彼は公証人の父と農夫の娘との間の婚外子として生まれました。公証人は世襲されるのが普通でしたが、非嫡出のレオナルドにはその資格がありませんでした。つまり、14-15歳に達した彼がフィレンツェに出て、ヴェロッキオの工房に入ったのは、婚外子というハンディを背負っていたからこそ。嫡出子であれば、ダ・ヴィンチは村の公証人として、「絵のうまい物知りおじさん」に終わっていたかもしれないのです。
さて、2007年に東京国立博物館でダ・ヴィンチ初期の「受胎告知」が展示されました。これは師のヴェロッキオとともにレオナルドが描いた絵画の代表作です。この作品では、マリアの足元に素焼きのタイル(テラコッタ)が配置されています。教会の壁に飾られると、信者たちからはほとんど見えないような部分です。
また、中央の背景には、灰色っぽく青っぽい部分があります。空気中の水蒸気の乱反射による効果を表したもので、レオナルド自身が後世に理論化する「空気遠近法(大気遠近法)」を実践したものです。さらに、大天使ガブリエルの翼は、鳥の翼をそのまま模写したもので、他の大画家たちのような装飾を加えていません。
このように、自然を観察する目の異常なほどの正確さ、科学的観察結果をすべて盛り込む完璧主義に、ダ・ヴィンチの「天才」の大部分が集約されているのではないか、と東京造形大学の池上英洋教授は推測しています。
人生50年の時代に、新天地を求め30歳で転職
天使といえども空を飛ぶ以上は、鳥と同じ構造の翼を持っているはずだ。このことはやはり彼自身によって、後世「アナロギア(類比)」理論が打ち立てられました。同じデザインを持つものは、同じ機能を発揮する。自然観察の得意だったレオナルドは、それまで知られることのなかった「葉脈ー血管ー河川」の類比、「幹ー柱ー背骨」の類比を発見して、絵画や実験、発明に役立てています。
絵を描くための観察眼は、博物学者としても科学者としても、また軍隊勤務にも一流の成果を残すものでした。実際レオナルドは、30歳になったときにミラノ公国に志願し、軍事技師として雇われます。ちなみに、その頃のイタリアは小さな都市国家に分裂した状態で、フィレンツェ、ミラノ、ローマ、ベネツィア、ナポリなどは、すべて別の国として覇権を競っていました。
30歳というと若いようですが、当時の平均寿命は約50歳。工房に入って15年経ち、ようやく独り立ちできると認められた頃の「転職」は、リスキーなものだったといえるでしょう。推薦状を自分で用意したレオナルドは、10項目中1から9まで軍事について書き、最後の1項目のみ美術のことを書いています。
「ノアの洪水」への反証を、地層から得る
かなり粉飾した自薦状により、無事、軍事技師に雇われたレオナルドは、各地点間の距離を計測し、地形を把握して正確な地図を描きます(距離を計測するための車も発明していました)。地形を把握するため、登山に精を出していた彼は、あるとき山の上で貝殻の化石を発見します。当時、一般の人々はそういう機会に恵まれると、「ノアの洪水のかけらを私は見つけたぞ」と考えて喜びました。しかし、レオナルドは違います。
彼の観察眼は「地層」にも向けられ、「堆積」構造の意味するところを理解していたからです。彼は「ノアの洪水の時点で、地面が今日目にするように何層かにきちんと分かれているはずがない」と何度もノートに書き残しています。
ガリレオより100年も前に、このような意見を口に出すことはできませんでしたが、彼の「近代人」としての観察眼・思考力は、その後、ますます磨かれていきます。
単に「万能の天才」としてダ・ヴィンチを見ていると、ただ「すごいなー!」で終わってしまいます。「最初の近代人」として彼の事績を追っていくことで、科学的思考の積み重ねが導く道の確かさと出会うことができます。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール
内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール
日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた主な要因として、二つのオウンゴールを挙げる島田氏。その一つとして台湾のモリス・チャン氏によるTSMC立ち上げの話を取り上げるが、日本はその動きに興味を示さず、かつて世界を席巻して...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/25
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
「歴史を探索していく」とは、どういうことなのだろうか。また、「歴史を活かしていく」とはどういうことなのだろうか。歴史作家の中村彰彦氏に、歴史を探り、活かしていく方法論を、具体的に教えてもらう本講義。第一話は、歴...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/14
雄大で雄渾な生命の全体像…その中で点滅する個々の生命
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(5)『秘蔵宝鑰』が示す非二元論的世界
全ては光だと説く空海が、なぜその著書『秘蔵宝鑰』で、「死に死に死に死んで死の終りに冥(くら)し」と書いたのか。『秘蔵宝鑰』については、以前のテンミニッツ・アカデミー講義でも解説したが、そこから半年かけてこの書を...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/26
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
国際社会における中国の動きに注目が集まっている。新冷戦ともいわれる米中摩擦が激化する中、2021年7月に中国共産党は創立100周年を迎えた。毛沢東以来、初めて「思想」という言葉を党規約に盛り込んだ習近平。彼が唱える「中...
収録日:2021/07/07
追加日:2021/09/07
熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
「熟睡とは健康な睡眠」だと西野氏はいうが、健康な睡眠のためには具体的にどうすればいいのか。睡眠とは壊れやすいもので、睡眠に影響を与える環境要因、内面的要因、身体的要因など、さまざまな要因を取り除いていくことが大...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/11/23


