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お店のBGMにはどんな効果があるのか?
仕事や勉強、エクササイズなどをするときにBGMが欠かせない人も多いでしょう。今回は飲食店や美容院、ホテルや病院など多くの施設で取り入れられている「お店のBGM」について調べてみました。
医療機関では、手術や麻酔に臨む患者の緊張をほぐし、不安を取り除くためにBGMが積極的に用いられています。たとえば歯科医などでは、治療現場の機械音が患者にとってのストレス。そうした音を「マスキング」し、リラックスすることで麻酔の十分な効果が得られ、唾液分泌が抑制されるなど、治療がスムーズになるとの報告があります。
工場の生産現場では、「生産性向上」のために取り入れた音楽が作業の効率化、ミスの低減につながる感情誘導効果が実証されました。「単調さを打ち破り、職場になごやかな空気を醸し出し、疲労や退屈を感じなくなる」と作業する人たちにも好評。ただし、アメリカの音楽配給会社ミューザック社によると、一日中流し続けるのは逆効果。8時間労働であれば、2~3時間程度が推奨されています。
パチンコ店の『軍艦マーチ』は定番中の定番。興奮効果をもたらし「消費促進」につながるといいます。その源泉はフランス軍を率いるために合唱隊を組織したジャンヌ・ダルクやワーグナーの音楽を国民扇動に用いたナチス・ドイツにあるとか。現在ではスポーツ界がその伝統を踏襲。アスリートが練習時、クイーンやサバイバー、レディ・ガガなどを流し、集中力を高める光景は、もはや当たり前になりました。
デパートやスーパー、レストランでは店内の雰囲気をつくりだし、イメージアップする効果をメインとします。映画でも劇の流れや場面をより引き立てるBGMが使われるように、視覚の印象を定めるのは聴覚刺激。脳に快さや明るさ、高級さの記憶として定着し、印象を際立てます。こうしたBGMの用法は「アメニティ効果」と呼ばれています。
ニュースなどでときどき紹介されるのは、「モーツァルトを聴かせると日本酒(牛乳、野菜や果物)がおいしくなる」という説。聴覚のない植物であっても、音楽の振動により自然の環境以上に適切な「ゆらぎ」を得るのだといいます。ただし、おいしさを感じるのは人間の舌なので、個人差はあるようです。
音楽は世界各地でさまざまな文化を花開かせますが、その特性について研究が始まったのは、エジソンの蓄音機が普及する20世紀初頭です。「生産音楽」が職場環境整備の目的で活用され、音楽放送の事業化が始まりました。エジソン自身もどんな音楽が有害な音をマスクし、やる気をアップさせるか測定しようとしましたが、スピーカーや伝達技術が未熟だったため、測定にはいたりませんでした。
世界で初めてBGMの放送サービスを開始したのは1929年、英国のレディチューン社(後のレディフュージョン・ミュージック社)でした。5年後にはアメリカに「MUZAC(ミューザック)」社が設立され、有線放送による音楽配信を始めます。
第二次大戦中、英国のBBCは工場に勤労動員されて働く人の疲労をやわらげ、事故を減少させるための番組を用意しました。戦後になると、精神の安定、モラルの高揚、ストレスの軽減など、音楽の持つさまざまな効用が注目され、多方面でBGMが活用されるようになります。
アメリカやヨーロッパでは電話回線を用いたBGMビジネスが主流となりますが、日本では1957年に最初のBGM配給会社(日本音楽配給株式会社)が設立され、音楽テープと再生装置をレンタル/販売するパッケージビジネスが業界標準になりました。最初はオープンリール、次にカートリッジ・テープ、さらにエンドレスのコンパクト・カセット。長時間演奏が必要なBGM業界では技術革新が相次ぎ、CD時代を経て現代ではインターネットが主流となり、音楽による環境デザインが注目ワードとなっています。
生活に溶け込む音楽に最初に取り組んだのは、フランスのエリック・サティです。『家具の音楽』は、まさに家具や調度品のように用いられることがコンセプトで、コンサートでは「どうぞおしゃべりを続けて」と客にリクエストしたと言われます。
今日のアンビエント・ミュージック(環境音楽)を提唱したのは英国のブライアン・イーノ。マイクロソフトのOS、Windows 95の起動音を作曲した人としても有名ですが、アンビエント・レーベルの第1作『ミュージック・フォー・エアポート』は、飛行機恐怖症だった彼が、自分の心を落ち着かせるために作ったものでした。
イーノの設立したオブスキュア・レーベルからデビューしたペンギン・カフェ・オーケストラは、音楽側からの新しいBGMの活用提言と言えるものでした。
2018年7月25日に「amass」に掲載されたニュースには、「あなたの料理は桂離宮と同じくらい素晴らしい...だが、レストランの音楽はトランプタワーのようなものだ」と伝えた坂本氏の言葉とともに新しいプレイリストもアップされました。
けなされたBGMがどのようなラインナップだったかは分かりませんが、桂離宮とトランプタワーの対比は鮮やかですね。
ところで、お店などで生演奏や動画につけた音楽以外の音源を流すと「BGM利用」として、日本ではJASRACへの手続きや著作権使用料が必要になります。
面倒な手続きを省略して会社や店舗にBGMを導入するには、日本BGM協会に加入している企業のサービスを利用するのが早道です。例えば全国展開されているUSENのシステムを導入するには、初期費用30,000円、工事費用20,000円のほか、月額費用が4,500円から6,000円発生します。
購買意欲を高めるか、店舗のイメージ戦略として活用するか。多彩な目的に応じてチャンネルが選べるのはうれしいところです。
BGMの効果とは?
BGM(バックグラウンドミュージック)の定義は、「鑑賞することが主体ではなく、背景として使用される音楽」。これらが実際にどんな場面で使用されているかを見ていきましょう。医療機関では、手術や麻酔に臨む患者の緊張をほぐし、不安を取り除くためにBGMが積極的に用いられています。たとえば歯科医などでは、治療現場の機械音が患者にとってのストレス。そうした音を「マスキング」し、リラックスすることで麻酔の十分な効果が得られ、唾液分泌が抑制されるなど、治療がスムーズになるとの報告があります。
工場の生産現場では、「生産性向上」のために取り入れた音楽が作業の効率化、ミスの低減につながる感情誘導効果が実証されました。「単調さを打ち破り、職場になごやかな空気を醸し出し、疲労や退屈を感じなくなる」と作業する人たちにも好評。ただし、アメリカの音楽配給会社ミューザック社によると、一日中流し続けるのは逆効果。8時間労働であれば、2~3時間程度が推奨されています。
パチンコ店の『軍艦マーチ』は定番中の定番。興奮効果をもたらし「消費促進」につながるといいます。その源泉はフランス軍を率いるために合唱隊を組織したジャンヌ・ダルクやワーグナーの音楽を国民扇動に用いたナチス・ドイツにあるとか。現在ではスポーツ界がその伝統を踏襲。アスリートが練習時、クイーンやサバイバー、レディ・ガガなどを流し、集中力を高める光景は、もはや当たり前になりました。
デパートやスーパー、レストランでは店内の雰囲気をつくりだし、イメージアップする効果をメインとします。映画でも劇の流れや場面をより引き立てるBGMが使われるように、視覚の印象を定めるのは聴覚刺激。脳に快さや明るさ、高級さの記憶として定着し、印象を際立てます。こうしたBGMの用法は「アメニティ効果」と呼ばれています。
ニュースなどでときどき紹介されるのは、「モーツァルトを聴かせると日本酒(牛乳、野菜や果物)がおいしくなる」という説。聴覚のない植物であっても、音楽の振動により自然の環境以上に適切な「ゆらぎ」を得るのだといいます。ただし、おいしさを感じるのは人間の舌なので、個人差はあるようです。
どういう変遷を辿ってきた?
BGMの歴史は、4000年前までさかのぼれます。紀元前2000年頃のエジプトで、妊婦に音楽を聴かせて出産の苦痛をやわらげたという記録が残っています。ほかにも中国、インド、古代ギリシャなど、音楽が鎮痛剤や精神療法のひとつとして利用されていたことが伝えられています。音楽は世界各地でさまざまな文化を花開かせますが、その特性について研究が始まったのは、エジソンの蓄音機が普及する20世紀初頭です。「生産音楽」が職場環境整備の目的で活用され、音楽放送の事業化が始まりました。エジソン自身もどんな音楽が有害な音をマスクし、やる気をアップさせるか測定しようとしましたが、スピーカーや伝達技術が未熟だったため、測定にはいたりませんでした。
世界で初めてBGMの放送サービスを開始したのは1929年、英国のレディチューン社(後のレディフュージョン・ミュージック社)でした。5年後にはアメリカに「MUZAC(ミューザック)」社が設立され、有線放送による音楽配信を始めます。
第二次大戦中、英国のBBCは工場に勤労動員されて働く人の疲労をやわらげ、事故を減少させるための番組を用意しました。戦後になると、精神の安定、モラルの高揚、ストレスの軽減など、音楽の持つさまざまな効用が注目され、多方面でBGMが活用されるようになります。
アメリカやヨーロッパでは電話回線を用いたBGMビジネスが主流となりますが、日本では1957年に最初のBGM配給会社(日本音楽配給株式会社)が設立され、音楽テープと再生装置をレンタル/販売するパッケージビジネスが業界標準になりました。最初はオープンリール、次にカートリッジ・テープ、さらにエンドレスのコンパクト・カセット。長時間演奏が必要なBGM業界では技術革新が相次ぎ、CD時代を経て現代ではインターネットが主流となり、音楽による環境デザインが注目ワードとなっています。
音楽ソフトの提供から有線、インターネットへ
音楽評論家からはけなされがちなBGMですが、アメニティとしての音楽利用はクラシックにルーツがあります。音楽が胃の消化を助けると信じていた16世紀の貴族たちは、室内アンサンブルによる「食卓の音楽(ターフェルムジーク)」を食前酒(アペリティフ)のように楽しみました。18世紀半ばにバッハが作曲した「ゴルトベルク変奏曲」も、元ロシア大使カイザーリンク伯爵の不眠を癒すために書かれたものでした。生活に溶け込む音楽に最初に取り組んだのは、フランスのエリック・サティです。『家具の音楽』は、まさに家具や調度品のように用いられることがコンセプトで、コンサートでは「どうぞおしゃべりを続けて」と客にリクエストしたと言われます。
今日のアンビエント・ミュージック(環境音楽)を提唱したのは英国のブライアン・イーノ。マイクロソフトのOS、Windows 95の起動音を作曲した人としても有名ですが、アンビエント・レーベルの第1作『ミュージック・フォー・エアポート』は、飛行機恐怖症だった彼が、自分の心を落ち着かせるために作ったものでした。
イーノの設立したオブスキュア・レーベルからデビューしたペンギン・カフェ・オーケストラは、音楽側からの新しいBGMの活用提言と言えるものでした。
実際どれぐらいの費用がかかるのか?
音楽による「環境デザイン」の大切さを語るのが、数年前の坂本龍一氏のエピソードです。坂本氏はニューヨーク・マンハッタンにある行きつけの日本料理店「Kajitsu」のBGMがあまりにもひどいのに耐えきれず、みずから店主に申し出てノーギャラで選曲を引き受けた、とのこと。2018年7月25日に「amass」に掲載されたニュースには、「あなたの料理は桂離宮と同じくらい素晴らしい...だが、レストランの音楽はトランプタワーのようなものだ」と伝えた坂本氏の言葉とともに新しいプレイリストもアップされました。
けなされたBGMがどのようなラインナップだったかは分かりませんが、桂離宮とトランプタワーの対比は鮮やかですね。
ところで、お店などで生演奏や動画につけた音楽以外の音源を流すと「BGM利用」として、日本ではJASRACへの手続きや著作権使用料が必要になります。
面倒な手続きを省略して会社や店舗にBGMを導入するには、日本BGM協会に加入している企業のサービスを利用するのが早道です。例えば全国展開されているUSENのシステムを導入するには、初期費用30,000円、工事費用20,000円のほか、月額費用が4,500円から6,000円発生します。
購買意欲を高めるか、店舗のイメージ戦略として活用するか。多彩な目的に応じてチャンネルが選べるのはうれしいところです。
<参考サイト>
・日本BGM協会:BGMの歴史と現在
http://www.bgm.or.jp/biography.html
・amass:坂本龍一 お気に入りのレストランの音楽があまりにも酷いため選曲を引き受ける
http://amass.jp/108203/
・JASRAC:お店などでBGMwpご利用の皆様へ
https://www.jasrac.or.jp/info/bgm/pr/index.html
・『エレベーター・ミュージック・イン・ジャパン』(田中雄二、DU BOOKS)
・日本BGM協会:BGMの歴史と現在
http://www.bgm.or.jp/biography.html
・amass:坂本龍一 お気に入りのレストランの音楽があまりにも酷いため選曲を引き受ける
http://amass.jp/108203/
・JASRAC:お店などでBGMwpご利用の皆様へ
https://www.jasrac.or.jp/info/bgm/pr/index.html
・『エレベーター・ミュージック・イン・ジャパン』(田中雄二、DU BOOKS)
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