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DATE/ 2020.10.05

先進国の子どもの幸福度ランキング

 2020年9月3日、ユニセフ(UNICEF:国際児童基金)・イノチェンティ研究所が「レポートカード」シリーズの『レポートカード16-子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か(Worlds of Influence: Understanding what shapes child well-being in rich countries)』(以下、『レポートカード16』)を発表しました。

 「レポートカード」シリーズは、ユニセフ・イノチェンティ研究所が、2000年以降ほぼ毎年1冊の割合で発行している先進国の子どもに関するレポートです。定期的に「子どもの幸福度」に関する調査・分析を行い、ランキング化を行っていることも特徴で、『レポートカード11』(2013年)や『レポートカード7』(2007年)に基づき、『レポートカード16』でも、「先進国の子どもの幸福度ランキング」が発表されました。

「先進国の子どもの幸福度ランキング」

 では早速、「先進国の子どもの幸福度ランキング」をみてみましょう。38カ国・国別の総合順位および、「精神的健康」「身体的健康」「スキル」各分野の順位は、以下のとおりとなっています。

「先進国の子どもの幸福度ランキング」(『レポートカード16』より)
総合:国名/精神的健康/身体的健康/スキル
1位:オランダ/1位/9位/3位
2位:デンマーク/5位/4位/7位
3位:ノルウェー/11位/8位/1位
4位:スイス/13位/3位/12位
5位:フィンランド/12位/6位/9位
6位:スペイン/3位/23位/4位
7位:フランス/7位/18位/5位
8位:ベルギー/17位/7位/8位
9位:スロベニア/23位/11位/2位
10位:スウェーデン/22位/5位/14位
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11位:クロアチア/10位/25位/10位
12位:アイルランド/26位/17位/6位
13位:ルクセンブルク/19位/2位/28位
14位:ドイツ/16位/10位/21位
15位:ハンガリー/15位/21位/13位
16位:オーストリア/21位/12位/17位
17位:ポルトガル/6位/26位/20位
18位:キプロス/2位/29位/24位
19位:イタリア/9位/31位/15位
20位:日本/37位/1位/27位
-----
21位:韓国/34位/13位/11位
22位:チェコ/24位/14位/22位
23位:エストニア/33位/15位/16位
24位:アイスランド/20位/16位/34位
25位:ルーマニア/4位/34位/30位
26位:スロバキア/14位/27位/36位
27位:イギリス/29位/19位/26位
28位:ラトビア/25位/24位/29位
29位:ギリシャ/8位/35位/31位
30位:カナダ/31位/30位/18位
-----
31位:ポーランド/30位/22位/25位
32位:オーストラリア/35位/28位/19位
33位:リトアニア/36位/20位/33位
34位:マルタ/28位/32位/35位
35位:ニュージーランド/38位/33位/23位
36位:アメリカ/32位/38位/32位
37位:ブルガリア/18位/37位/37位
38位:チリ/27位/36位/38位

 以上のように、ランキング上位の19位までは全てヨーロッパの国、20位に日本が続くという結果となりました。

 また日本は、「身体的健康」は1位となっていますが、「精神的健康」がワースト2の37位と全体を押し下げ、また「スキル」が27位と低迷した結果となっています。

多分野からみる先進国の子どもの幸福度

 ではここで、評価項目となった3分野「精神的健康」「身体的健康」「スキル」についてさらに詳しくみていきながら、特に日本での子どもの幸福度について考察してみたいと思います。

 「精神的健康」では、「15歳児の生活への満足度」と「15歳から19歳までの自殺率」の2項目が調査・分析されました。

 このうち特筆すべきことは、多くの国で「生活に満足している」と回答した子どもは5人中4人以下という結果となったことです。

 一方、自殺も先進国の15~19歳の子ども・若者の主要な死因として、大きな社会問題となっています。なお、自殺で亡くなる若者の割合が高い国のワースト3は、リトアニア、ニュージーランド、エストニア――、となっています。

 「身体的健康」では、「5歳から14歳までの死亡率」と「5歳から19歳までの肥満率」の2項目が調査・分析されました。

 ちなみに、「身体的健康」で日本は1位となっています。特に後者の「5歳から19歳までの肥満率」は平均の28.9%に対し、日本は14.4%で最上位となっています。

 しかしながら、肥満や過体重の子どもたちの割合は近年増加にあり、ほぼすべての国でおよそ3人に1人の子どもが肥満または過体重の状態にあり、特にヨーロッパ南部で割合が急増していること。また、先進国であっても4分の1以上の国で、いまだ乳幼児死亡率が1,000人中1人以上いる現実があります。

 「スキル」では、「15歳児の国語と数学のレベル」と「15歳児で友達作りが容易と感じる人の割合」の2項目が調査・分析されました。

 日本は前者の“国語と数学のスキル”は5位でしたが、後者の“友達作りのスキル”が37位という、「精神的健康」同様に最低レベルとなっています。

 いかがでしたでしょうか。幸福度を高めるうえで土台となる「身体的健康」はもちろん重要ですが、そのうえで“幸福感”につながる「精神的健康」や「スキル」のうちでは特に“友達作りのスキル”のような大切な軸が、日本では見過ごされがちな現実がうかがえてきました。

 国が豊かとなって先進国の一員となったのであれば、国民の幸福度を高めること、さらには未来を担う大切な子どもの幸福度を高めることは、最重要課題といえます。多様な分野にわたる軸をよりよくしていくことで、調和のとれた幸福度を底上げしつつ高めていくことが求められます。

<参考文献・参考サイト>
・Worlds of Influence: Understanding what shapes child well-being in rich countries
https://www.unicef-irc.org/publications/pdf/Report-Card-16-Worlds-of-Influence-child-wellbeing.pdf
・Worlds of Influence: Understanding What Shapes Child Well-being in Rich Countries
https://www.unicef-irc.org/publications/1140-worlds-of-influence-understanding-what-shapes-child-well-being-in-rich-countries.html
・ユニセフ報告書「レポートカード16」発表 先進国の子どもの幸福度をランキング
https://www.unicef.or.jp/news/2020/0196.html
・【国際】ユニセフ「子どもの幸福度」38ヶ国ランキング、日本20位。生活満足度と友達作りが37位
https://sustainablejapan.jp/2020/09/04/unicef-child-well-being-ranking/53488
・「子どもの幸福度」『日本大百科全書』(小学館)
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