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DATE/ 2020.12.17

歌舞伎語源の「〇枚目」は何枚目まである?

 美しくカッコいい男性のことをイケてるメンズ、いわゆる「イケメン」という言葉で呼ぶことが定着していますが、いっぽうで「二枚目」という言葉を使うことも多いですよね。またクールな二枚目に対し、親しみやすくひょうきんなタイプの人を「三枚目」と呼ぶこともあります。

 この「○枚目」という表現、実は歌舞伎が語源で、しかも「八枚目」まであるということをご存じでしょうか? 今回はこの言葉の語源について深掘りしていきます!

「○枚目」は歌舞伎俳優の序列が語源

 江戸時代、庶民の娯楽といえば芝居見物。中でも歌舞伎が人気でした。歌舞伎役者は現在のプロ野球選手のように、劇場と1年更新で契約し毎年11月に新しい座組で興行をしたそうです。

 そして新しい座組でお披露目される際、一座を代表する役者8人の名が記載された「顔見世番付」が配られました。芝居小屋にはその8人の絵が並べられ、演目の宣伝の役割を果たすとともにその俳優のステータスの象徴になりました。この8枚の並び順からそれぞれの序列、役どころがわかったのです。並び順のうち、右から2番目の役者が「二枚目」、3番目の役者が「三枚目」となり、二枚目は色男の役、三枚目は道化役と決まっていたのです。

「八枚看板」それぞれの役柄

 それでは一~八枚目が示す意味と主な役回りについてご紹介しましょう。(カッコ内は役柄)

【一枚目(主役)】演目の主人公。「一枚看板」「座頭役者」などと呼ばれる。
【二枚目(色男)】色事や濡れ場などを担当する。容姿端麗な優男が多い。
【三枚目(道化)】容姿はそこそこだが滑稽な役を演じ、物語を盛り上げる。
【四枚目(中軸)】「なかじく」と読む。中堅役者で、物語に安定感を与えるバイプレイヤー。
【五枚目(敵役)】主役に立ちはだかる悪役。ライバル。
【六枚目(実敵)】「じつがたき」と読む。敵方ではあるが善良な、憎めない人物を演じる。
【七枚目(実悪)】物語の真の敵で、最大の黒幕。ラスボス。
【八枚目(座長)】役者ではなく、一座の担当者。元締め。

 これらをまとめて「八枚看板」と呼びます。見物客は八枚看板を見て、どんな役者がどんな役回りをしているのかを一目で知ることができたのです。

 二枚目は恋愛、三枚目はお笑いという位置づけから、現代でも「二枚目俳優」「三枚目俳優」といったほぼ同じイメージで使われています。現在では二枚目・三枚目以外の言葉は使われなくなりましたが、他と比べて二枚目・三枚目は容姿と役回りにインパクトがあり、かつ両者比較されやすいために現代まで定着したのかもしれません。

 ちなみに歌舞伎には娘役(ヒロイン)もありますが、枚数として数えることはないそうです。

「二枚目半」本当の意味は?

 正式な歌舞伎用語ではないようですが、二枚目の派生語で「二枚目半」という言葉も見られます。これは見た目がちょっぴり残念な二枚目、という意味ではなく、二枚目でありながら三枚目も演じられる役者という意味です。日本の俳優では堺雅人さん、海外ではジョニー・デップさんあたりがイメージしやすいでしょうか。字面の通り、1.5人分の役柄をこなす実力派ということになりますね。なお、江戸時代では「二枚目が三枚目を演じる」「正義のイメージの役者が悪役を演じる」といったことはなく、役柄は固定されていたそうです。

 いかがでしたか。二枚目・三枚目以外にも役柄があった「○枚目」。その意味を覚えておくと、ドラマや映画の楽しみ方もぐっと広がるかもしれませんよ。

<参考サイト>
・舞台芸術教材で学ぶ(文化デジタルライブラリー)
https://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/modules/learn/#c3
・「ぴんとこな」歌舞伎コラム(TBS)
https://www.tbs.co.jp/pintokona/column/c15.html
・イケメンを"二枚目"と呼ぶ理由とは?8つある"◯枚目"を一気にご紹介!【歌舞伎】(雑学カンパニー)
https://zatsugaku-company.com/yonmaime/
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