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夫婦別姓のメリット・デメリットは?
「選択的夫婦別姓制度」が注目を集めています。同一の姓を名乗るよう定めた民法と戸籍法への疑問が最高裁判断に委ねられるなど、事態は急ピッチ。そもそもなぜ夫婦は同じ姓なのか、別姓のメリットとデメリットはどこにあるのか。調べてみました。
そもそも夫婦同姓が定められたのは明治民法の1898年以降。それまで日本人は伝統的に「姓がなかった」わけで、100年少しの慣例を「カルチャーや伝統」として別姓に反対するのはいかがなものかという意見も増えています。
実際、「姓が変わるなら結婚できない」と女性に断られた男性の話を紹介しつつ選択的夫婦別姓の導入を訴えた国民民主党の玉木雄一郎代表に対して、「だったら結婚しなくていい」と自民党女性議員からヤジが飛ぶ騒ぎがあったのは2020年の1月後半。「こういう自民党に任せていたから少子化が止まらなかった」と玉木氏は語ったものです。その後、新型コロナのパンデミックが蔓延したため、この議論は陰に隠れたかたちでしたが、ようやく再燃してきたということなのでしょう。
1. 変更手続きが不要になる
結婚して姓が変われば、住民票、健康保険証や運転免許証などの公的書類をはじめ、クレジットカードや銀行口座など、各種書類やデータベースに登録されている姓を変更する手続きを取る必要があります。勤めている職場での手続きは仕方がないとして、ショッピング・サイトや行きつけのお店の会員カードなども含めると、結構な量の作業になります。姓が変わらなければ、こうした「氏名変更」の手続きは省けます。
2. 男女とも自分の名前が一生変わらない
姓が自分の家系や生まれた土地とのつながりを表すものであるとすれば、「氏素性(うじすじょう)」という古い言い回しの意味が分かってきます。要は自分のアイデンティティを支えるバックグラウンド。極端な例を出すと、昨日まで「佐藤(さとう)さん」と呼ばれてきた女性が結婚したとたん「塩田(しおた)さん」になったら、笑い話にされてしまいます。望まないイメチェン、アイデンティティの喪失が女性の場合だけ起こるのは不公平という意見も多く聞かれます。
3. 個人情報を守ることができる
名字を変えることで、「あ、この人、結婚したな」とすぐ気付かれてしまいます。未婚か既婚か、周囲に広めるなんて大きなお世話という人も多く、実際に仕事上の都合などで、結婚したことが知られると不利益につながる場合もあります。現実に結婚して住民票では夫の名字でも、仕事ネームは旧姓のまま通す人も多くなりました。仮に将来離婚したとしても、姓を変えていなければ、元に戻す手間や不都合を生じるおそれはありません。
次に、夫婦別姓にすることのデメリットはどんなものがあるでしょうか。
1. 法律上正式な夫婦と認められない
別姓の選択は現在認められていないため、役所では婚姻届が受理されません。そのため、「法律婚」とはみなされず、「事実婚」の扱いとなります。事実婚の場合、婚姻による税金の優遇措置(「配偶者控除」など)が受けられません。また、子供が生まれると、母親の戸籍に入ります。父親との姓の違いや「非嫡出子」ということばを子供に理解させるのがひと手間ですし、父親には「認知」の手続きもしてもらう必要があります。将来的にパートナーが亡くなったときの財産相続についても、事実婚の場合は子供の有無にかかわらず、遺言書がないとスムーズに相続できないケースがまま見られます。
2. 世間の風当たりが強い
「事実婚」を少し古いことばで言うと「内縁関係」です。そのため、頭の切り替えができていない世代から理解が得られにくいのは事実。「どんな事情があるのか」「結婚できない理由は何か」など、痛くもない腹を探られることになります。一つの世帯に二つの表札がかかっているだけで、「家族の一体感がない」と批判されることも。さらに、子供の名字に選ばれなかった側の親族から違和感を言い立てられることもあります。
大きなデメリットは制度上のものですから、「選択的夫婦別姓制度」推進を望む声が高いのです。
夫婦同姓を義務付けているのは、世界中で日本だけ。インドのヒンズー教徒やジャマイカなどが同姓を用いてはいるものの、インド全体では宗教や地域により異なっており、ジャマイカは慣習上のもので、法律的な縛りはありません。
同じアジアでは、お隣韓国が各自の氏を称する夫婦別姓を使用。子の姓は原則的に父親のものが使われますが、2005年より母の姓も可能になりました。中国は「別姓、結合姓、同姓から」選択、フィリピンやトルコでは「主に夫の姓。結合姓や別姓も可能」、タイでは「夫か妻の姓。もしくは別姓」とする選択制を採用しています(結合姓は、夫と妻の姓を結合させたもの。たとえば「スミス・ブラウン」「増田・岡田」のようになります)。
ヨーロッパでも選択制が主流。「同姓、別姓、結合姓から」の選択制がドイツ、オランダ、ロシアなど。フランスでは法的規定がなく、基本別姓。夫婦ともに互いの姓を通称使用可能、子の姓は「父、母、結合姓」から選択。イギリスも法律規定がなく、伝統的には妻が夫の氏を称するものの、氏の変更は理由を問わず当人の自由に任されています。
アメリカでは、婚姻関係の法が州ごとに異なりますが、1970年代から選択的夫婦別姓を認める州が多くなっています。同姓、別姓、結合姓、相手の姓をミドルネームとして用いるなど、5種の選択肢があります。
たとえ結果的には夫の姓を選ぶにしても、選ぶ権利があれば、「だったら結婚してもいい」と納得してパートナー・ライフを進められそうですね。
夫婦別姓は2020年のトレンド?
日本では、結婚するとそろって夫の姓を名乗るのが通例となっており、妻の姓を名乗る男性は「おムコさん」と呼ばれます。しかし、女性の社会活躍が著しく、結婚後も長く働く人が増えた現在では、「結婚した後も元の名字のままで暮らしたい」と考える女性が増えてきました。そもそも夫婦同姓が定められたのは明治民法の1898年以降。それまで日本人は伝統的に「姓がなかった」わけで、100年少しの慣例を「カルチャーや伝統」として別姓に反対するのはいかがなものかという意見も増えています。
実際、「姓が変わるなら結婚できない」と女性に断られた男性の話を紹介しつつ選択的夫婦別姓の導入を訴えた国民民主党の玉木雄一郎代表に対して、「だったら結婚しなくていい」と自民党女性議員からヤジが飛ぶ騒ぎがあったのは2020年の1月後半。「こういう自民党に任せていたから少子化が止まらなかった」と玉木氏は語ったものです。その後、新型コロナのパンデミックが蔓延したため、この議論は陰に隠れたかたちでしたが、ようやく再燃してきたということなのでしょう。
別姓のメリット・デメリット
では、夫婦別姓にするメリットを見ていきましょう。1. 変更手続きが不要になる
結婚して姓が変われば、住民票、健康保険証や運転免許証などの公的書類をはじめ、クレジットカードや銀行口座など、各種書類やデータベースに登録されている姓を変更する手続きを取る必要があります。勤めている職場での手続きは仕方がないとして、ショッピング・サイトや行きつけのお店の会員カードなども含めると、結構な量の作業になります。姓が変わらなければ、こうした「氏名変更」の手続きは省けます。
2. 男女とも自分の名前が一生変わらない
姓が自分の家系や生まれた土地とのつながりを表すものであるとすれば、「氏素性(うじすじょう)」という古い言い回しの意味が分かってきます。要は自分のアイデンティティを支えるバックグラウンド。極端な例を出すと、昨日まで「佐藤(さとう)さん」と呼ばれてきた女性が結婚したとたん「塩田(しおた)さん」になったら、笑い話にされてしまいます。望まないイメチェン、アイデンティティの喪失が女性の場合だけ起こるのは不公平という意見も多く聞かれます。
3. 個人情報を守ることができる
名字を変えることで、「あ、この人、結婚したな」とすぐ気付かれてしまいます。未婚か既婚か、周囲に広めるなんて大きなお世話という人も多く、実際に仕事上の都合などで、結婚したことが知られると不利益につながる場合もあります。現実に結婚して住民票では夫の名字でも、仕事ネームは旧姓のまま通す人も多くなりました。仮に将来離婚したとしても、姓を変えていなければ、元に戻す手間や不都合を生じるおそれはありません。
次に、夫婦別姓にすることのデメリットはどんなものがあるでしょうか。
1. 法律上正式な夫婦と認められない
別姓の選択は現在認められていないため、役所では婚姻届が受理されません。そのため、「法律婚」とはみなされず、「事実婚」の扱いとなります。事実婚の場合、婚姻による税金の優遇措置(「配偶者控除」など)が受けられません。また、子供が生まれると、母親の戸籍に入ります。父親との姓の違いや「非嫡出子」ということばを子供に理解させるのがひと手間ですし、父親には「認知」の手続きもしてもらう必要があります。将来的にパートナーが亡くなったときの財産相続についても、事実婚の場合は子供の有無にかかわらず、遺言書がないとスムーズに相続できないケースがまま見られます。
2. 世間の風当たりが強い
「事実婚」を少し古いことばで言うと「内縁関係」です。そのため、頭の切り替えができていない世代から理解が得られにくいのは事実。「どんな事情があるのか」「結婚できない理由は何か」など、痛くもない腹を探られることになります。一つの世帯に二つの表札がかかっているだけで、「家族の一体感がない」と批判されることも。さらに、子供の名字に選ばれなかった側の親族から違和感を言い立てられることもあります。
大きなデメリットは制度上のものですから、「選択的夫婦別姓制度」推進を望む声が高いのです。
夫婦別姓が認められている国は?
夫婦別姓を認めない日本の民法規定については、国連から2003年、2009年、2016年と3度の是正勧告が行われています。「実際には女性に夫の姓を強制している」ものとして、女性の選択肢を広げる「選択的夫婦別姓制度」への移行を勧めるものです。夫婦同姓を義務付けているのは、世界中で日本だけ。インドのヒンズー教徒やジャマイカなどが同姓を用いてはいるものの、インド全体では宗教や地域により異なっており、ジャマイカは慣習上のもので、法律的な縛りはありません。
同じアジアでは、お隣韓国が各自の氏を称する夫婦別姓を使用。子の姓は原則的に父親のものが使われますが、2005年より母の姓も可能になりました。中国は「別姓、結合姓、同姓から」選択、フィリピンやトルコでは「主に夫の姓。結合姓や別姓も可能」、タイでは「夫か妻の姓。もしくは別姓」とする選択制を採用しています(結合姓は、夫と妻の姓を結合させたもの。たとえば「スミス・ブラウン」「増田・岡田」のようになります)。
ヨーロッパでも選択制が主流。「同姓、別姓、結合姓から」の選択制がドイツ、オランダ、ロシアなど。フランスでは法的規定がなく、基本別姓。夫婦ともに互いの姓を通称使用可能、子の姓は「父、母、結合姓」から選択。イギリスも法律規定がなく、伝統的には妻が夫の氏を称するものの、氏の変更は理由を問わず当人の自由に任されています。
アメリカでは、婚姻関係の法が州ごとに異なりますが、1970年代から選択的夫婦別姓を認める州が多くなっています。同姓、別姓、結合姓、相手の姓をミドルネームとして用いるなど、5種の選択肢があります。
たとえ結果的には夫の姓を選ぶにしても、選ぶ権利があれば、「だったら結婚してもいい」と納得してパートナー・ライフを進められそうですね。
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