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DATE/ 2021.12.12

いつの間にか公園から消えた「遊具」とは

 子どもの頃、公園のブランコで靴飛ばしをしたり、ジャングルジムに登ったり、滑り台を何度も滑り降りたり…さまざまな遊具で友達と遊んだ記憶がある方も多いでしょう。しかし最近の公園にでは、かつて遊んだ遊具が次々と姿を消しているのをご存じでしょうか? どんな遊具があって、なぜ消えているのか。その背景を調べてみました。

なぜ遊具が次々と消えているのか?

 その理由は一言で言えば「子どもの安全を守るため」といえます。

 公園で遊具を使って遊んでいて怪我をした経験は誰しもあると思いますが、取り返しのない大怪我をしてしまうことがあります。特に2000年代初頭に起きた箱ブランコによる死亡事故は大きな衝撃を与え、自治体が怪我の恐れがある遊具を撤去するきっかけともなりました。

 また、公園に置かれている遊具は雨風にさらされ老朽化・劣化していくので、それを撤去する必要があります。しかし、そのあとに子どもたちが怪我をするリスクがある遊具を作るのはなるべく避ける傾向にあることも要因として挙げられます。

姿を消していく遊具たち

 では、私たちが遊んでいた遊具たちにはどんな危険があったのでしょうか? 懐かしの遊具を紹介しながら見ていきましょう。

・箱ブランコ

 鎖でつるされたゆりかごに向かい合わせになったブランコを設置した箱ブランコ。もともとブランコをこげない小さな子どもが乗って、大人がゆらして遊ぶ遊具でした。ただ、好奇心旺盛な子どもたちはそれだけでは物足りませんよね。座面に立って立ちこぎしたり、外側から押して勢いをつける、なんて遊び方をした方もいるのではないでしょうか。

 しかし、遊び方によっては危険を伴う遊具で、転落や転倒で怪我する子どもも少なくありませんでした。中にはブランコを押していた小学生が転倒し、その頭に戻ってきた箱ブランコがぶつかって死亡した事故が起こったこともありました。この事故が起こった2000年代前半、箱ブランコを撤去する自治体が相次ぎ、今では見かけることも少なくなりました。

・ジャングルジム

 円形のジャングルジムで、手で押すと遊具自体が回る仕組みの回転ジャングルジム。筆者も、子ども時代には回転ジャングルジムを全力で回す役の子がいて、遊具の外側を掴んでスーパーマンのような姿勢になって楽しむ、なんて危険な遊び方をしていました。

 しかし、実際に遠心力で飛ばされて、体が地面に打ち付けられるという事故も多発していたようです。また、遊具の下にもぐりこんで指を挟んで切断してしまう、高いところから落下するなんて事故も。その危険性から撤去されることが増えている遊具のひとつです。

 この他にも回転ジャングルジムと同じような回転塔、ぶら下がりシーソーなども徐々に姿を消しつつあるといいます。こうした動きのある遊具は危険を伴うこと、公園の遊具で怪我した場合には自治体の責任になることから、なるべく怪我するリスクのある遊具は置かないようになっているのです。

遊具の代わりに増えているもの

 動きのある遊具が減る代わりに増えているのは、大人が使うような健康器具系の施設。懸垂や足つぼ、背のばしなど簡単なストレッチや筋トレをするためのもので、目にすることが増えたのではないでしょうか。少子高齢化が進む中、公園が子どもの遊び場だけではなく、高齢者の健康促進の場としてのニーズも高まっていることが背景にあるのではないかと考えられます。

 公園から懐かしの遊具が姿を消し、大人向けの健康器具が増えていくのは、公園で汗を流して遊んだ身からするとさみしい気持ちにもなりますよね。しかし、遊具は減る一方ではなく、安全性を見直した新しいものも作られています。怪我をするリスクがあるからと遊具を撤去するだけではでなく、子どもたちのためにも遊具のある公園が減ることがないよう願うばかりです。

<参考サイト>
・箱型ブランコによる死亡事故
https://www.keyakisougou-law.jp/incident/in02-11.html│けやき総合法律事務所
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