社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2022.07.25

95%が未解明…未知なる「深海」の謎4選

海の底の世界「深海」

 2022年3月15日、日本の海洋研究機関・海洋研究開発機構(JAMSTEC)の有人潜水調査船・しんかい6500が相模湾初島沖の調査を行い、潜行調査の回数記録を1619回に伸ばしました。しんかい6500は1989年に三菱重工業神戸造船所でつくられ、それから20年以上も日本近海をはじめ、太平洋や大西洋などの調査を行っており、日本だけでなく世界の深海調査研究に欠かせない存在となっている調査船です。

 しんかい6500はその名のとおり、水深6500メートルまで潜ることができます。実は、地球で最も深い海底は約1万1000メートルのマリアナ海溝チャレンジャー海淵とされており、しんかい6500はその半分と少々までしか潜れないということになります。しかし、世界の海のほとんどは水深6500メートル以内なので、しんかい6500の性能があれば調査研究には差し支えないといえます。

 それでは、深海とは具体的にどのような世界なのでしょうか。今回は深海の謎を探りながら、その特徴を見ていきましょう。

謎1:深海とはどの深さから?

 まず基本的な謎として、深海とはどの深さからをいうのでしょうか。

 これは植物プランクトンが光合成を行える限界と考えられている、水深200メートルより深い海とされており、世界の海の約95%にあたります。つまり世界の海のほとんどは、200メートルから6500メートルの範囲の深さなのですね。

謎2:深海はどんな世界?

 ではなぜ、深海では植物プランクトンが光合成をできないのでしょうか。この謎を探りながら、深海の特徴を見ていきましょう。

 光が届かない・実は、プランクトンが光合成できない理由は簡単で、光がないからです。海の中には太陽光が届かないのです。水深200メートルになると太陽光は海面上の約0.1%しか届かなくなり、水深1000メートルを超えるとまったく光が届かない暗闇の世界になります。

 凍えるように寒い・太陽光が届かないということは、温度も上がりにくくなります。水深1000メートルになると水温は高くても4℃くらいになり、これより深く潜ってもほとんど変わりません。

 高圧がかかる・水に入ると水の重さ、つまり水圧がかかります。これが水深6500メートルになると約650気圧、つまり1平方センチメートルに約650キログラムの圧力がかかります。小指の爪に平均的な力士が4人近く乗っているのと同等の圧力になるのです。

 深海は以上のような環境なので、地上の生物が簡単に行ける世界ではありません。このため、まだ多くの謎が残されており、一説ではいまだに95%が未解明ともいわれています。

謎3:深海の生物はなぜ潰れないの?

 地上の生物には過酷な深海ですが、深海には深海の環境に適応した生物が住んでいます。深海魚と呼ばれる魚類は水深8200メートルまで生息しており、それより深い海にもナマコやエビの仲間のような無脊椎動物が生息しています。

 しかしなぜ、このような深海生物が水圧に押し潰されずに生きていけるのかはまだよくわかっていません。地上の生物が深海では生きられないのと同様に、深海の生物は地上に連れて行くと死んでしまうため、生態の研究がきわめて難しいのです。

 一方で、深海では残念ながら、人間の出したゴミも見られます。特にビニール製品は自然分解の速度が遅く、深海のさまざまな場所を漂っているのだとか。ビニール製品をスクリューに巻き込んだ潜水調査船は操作不能になってしまい、緊急浮上する事態にもなります。調査船の乗組員は、深海の地形や生物よりも、地上ではなにげなく使われているビニール袋などの人工物のほうがよほど恐ろしいと感じるそうです。

謎4:深海にまつわる不思議な話はある?

 深海には都市伝説のような不思議な話も伝わっています。たとえば、2001年にキューバ沖水深650メートルの深海で発見された海底遺跡は、いまだにいつどんな人々が住んでいたのかはっきりしていません。このため、1万2000年前に一夜で沈んだアトランティス大陸の町ではないかと憶測を呼んでいます。

 キューバ沖といえば、飛行機や船の行方不明が相次いでいるバミューダトライアングルの近くでもあります。このトライアングルは、フロリダ半島・プエルトリコ・バミューダ諸島を結んだ三角形の海域のこと。行方不明事件の原因には諸説ありますが、結論は出ていません。ただし、この海域はもともと飛行機や船の往来が激しいので、事故が起きる確率も高くなっているだけともいわれています。

 まだまだ未解明の部分が多く、だからこそロマンあふれる深海の世界。興味のある謎があったら、ぜひより深く調べてみてくださいね。

<参考サイト>
・講談社 我が国の深海研究において有人潜水調査船がどうしても必要な理由
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/95048
・講談社 【謎だらけの深海生物】超高圧でもつぶれないのはなぜ? 猛毒の餌でも平気って本当?
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/95213?page=3
・国際海洋環境情報センター 深海とは
https://www.jamstec.go.jp/godac/j/godac/kaiyou/deepsea.html
・ナゾロジー いまだ解明できない深海の12の謎
https://nazology.net/archives/2452
・JAMSTEC 有人潜水調査船「しんかい6500」
https://www.jamstec.go.jp/shinkai6500/
・Yahoo! JAPAN SDGs 「深海ではビニール袋ひとつが命に関わる」世界の海を調査したパイロットの言葉
https://sdgs.yahoo.co.jp/featured/145.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム

初めて会った人なのになぜか好意を抱いてしまうことがある。だが、なぜそうした衝動が生じるのかは疑問である。デカルトが友人シャニュに宛てた「愛についての書簡」から話を起こし、愛をめぐる精神と身体の関係について論じる...
収録日:2018/09/27
追加日:2019/03/31
津崎良典
筑波大学人文社会系 教授
2

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解

アメリカの大転換はトランプ政権以前に起こっていた。1980~1990年代、情報機器と金融手法の発達、それに伴う法問題の煩雑化により、アメリカは「ラストベルト化」に向かう変貌を果たしていた。そこにトランプの誤解の背景があ...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/11
3

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如

現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
4

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制

「バイアスがかかる」と聞くと、つい「ないほうが望ましい」という印象を抱いてしまうが、実は人間が生きていく上でバイアスは必要不可欠な存在である。それを今井氏は「マイワールドバイアス」と呼んでいるが、いったいどうい...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/09
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転

カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転

戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造

2025年9月、アメリカのトランプ政権は、国防総省を「戦争省」へ名称を変更した。それは内戦の構造を根本的に反転させる、大きな変化を象徴する出来事だった。政府から国民に対して行われるトップダウンの内戦とはなにか。ゲリラ...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/11/05
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー