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DATE/ 2022.08.28

世界に存在する「未接触部族」とは

 「未接触部族」とは、「文明社会から隔絶された場所に住む人々」です。しかし、より正確にいうと「外界との接触を回避、もしくは拒否している人々」であり、「自ら進んで孤立した生活を続ける人々」ともいえます。

 なぜ彼らは、外部社会との未接触を選択し続けているのでしょうか。そして、どのような人々なのでしょうか。

「未接触部族」の特徴

 まずは、「未接触部族」の特徴を見てみましょう。

 「未接触部族」は、「非接触部族」「孤立部族」とも呼ばれ、世界に100以上の部族がいると推測されています。主にペルー・ブラジル・ボリビアの国境付近をはじめとした密林、インドネシア周辺やインド沖の島などに住んでいるといわれています。

 そして、「未接触部族」が文明社会と距離を置く理由には、一方的に奴隷や人身売買の被害者とされた負の歴史や、金の採掘や森林伐採など資源開発という名目の略奪、文化や環境の破壊などが挙げられます。

 また、たとえ文明社会側に悪意はなくとも、外部と接触することではしかが流行し部族の半数以上が亡くなったり、一般的な風邪でも致死にいたったりするなど、外部の病原菌に対する免疫力が極端に弱いことから、感染症防止といったことも不干渉の理由となっています。

有名な「未接触部族」・3選

 では具体的に、「未接触部族」はどのような場所に住み、どのような生活をしているのでしょうか。また、外部との接触による事件などはないのでしょうか。居住地域や推定人口、生活スタイルや近年の接触による事件などとあわせて、有名な「未接触部族」・3選を紹介します。

(1)センチネル族
居住地域:インド洋北東部のベンガル湾に浮かぶ北センチネル島(島はほとんどが密林)
推定人口:50~400人(正確には不明)
特筆事項:警戒心の強さ。外部からの接触を徹底的に拒み、外部からのあらゆる接触に弓や石で応じる。
生活スタイル:狩猟や釣りで食料を確保し、火をおこして自給自足の生活を過ごしているとみられる。沿岸の浅い海域を移動するためにカヌーを使うが、オールは使わず長い棒で海底を押して操作する。
言語:かつて言語を聞いた近隣の島民は理解できなかったとされる。
インド政府およびアンダマン・ニコバル諸島当局の政策:保護政策をとっている。北センチネル島を治外法権と考え、干渉しない方針を示している。
近年の接触による事件:2004年にスマトラ島沖地震の救援物資輸送ヘリコプターが攻撃される。2006年に島に漂着したインド人2名が殺害される。2018年に接触を試みたアメリカ人の宣教師が殺害される。なお、後者2件は遺体回収も不能。
「センチネル」の意味:英語で「番兵」「見張り」

(2)ヤノマミ族
居住地域:ブラジルのアマゾン熱帯雨林からベネズエラのオリノコ川流域全般
推定人口:1万人以上(正確には不明だが「大規模の未接触部族」とされている)
特筆事項:アマゾンで最も獰猛な先住民といわれる。100以上の部族、氏族で村ごとに別れて暮らし、民族内部での戦争状態が断続的に続いている。理想像は勇者(ワイテリ)。
生活スタイル:狩猟と村の防衛は男たちの仕事、それ以外のほとんどは女の仕事と、男女の役割分担が明確に分かれている。男は女に対して支配的かつ暴力的だが、女も他の村に誘拐されるよりはよいとの思いなどから、男に優しさよりも強さを求めている。酒を造って飲む文化はないが、ハイテンションで深夜まで歌い、踊る。アマゾンの他の部族がシャイであることと比べて感情の振り幅が大きく、喜怒哀楽の表現も豊か。
言語:外部に言語理解者がいる(探検家・医師・武蔵野美術大学名誉教授の関野吉晴氏もヤノマミ語話者の一人)。
ブラジルの政策:土地が法的に保護されているなど、保護政策をとっている。
近年の接触による事件:2016年に違法採金者6人がヤノマミ族に弓矢で射殺される。2018年に居住地近くの金の採掘による水銀中毒被害の調査結果が発表される。2022年にベネズエラ軍とのWi-Fiをめぐる争いでヤノマミ族4人が死亡した。
「ヤノマミ」の意味:ヤノマミ語で「人間」

(3)マシコ・ピロ族
居住地域:ペルーのマヌー国立公園
推定人口:600~800人(正確には不明)
特筆事項:外部との接触は友好的な場合も多いが、時に暴力的にもなる。近年では密林外での目撃が増えている。
生活スタイル:泳ぎは苦手だが、木登りには長けている。食料は狩猟と採取でまかなっている。竹筒の中で果実を発酵させ、酒を造る。
言語:周辺の先住民族と共通の言語体系を持つ。そのため、外部者とも話すことができる。
ペルーの政策:保護政策をとっている。
近年の接触による事件:2010年に10代の若者が槍で襲われて負傷する。2012年に地元の観光ガイドが竹矢で殺害される。2014年に弓矢で武装した200人余りのマシコ・ピロ族の一団が近隣の2つの村を襲撃した。
「マシコ」の意味:周辺先住民族の言葉で「野生人」「野蛮人」※そのため、当人たちは「マシコ」と呼ばれることを嫌い、「兄弟」「同郷の人」を意味する「ノモレ」を好む。

「未接触部族」の不変と変化

 世界中を調査・探検したドキュメンタリーを発表し続けているナショナルジオグラフィックは、2000年代以降もブラジルのアマゾン熱帯雨林での新たな「未接触部族」が発見されていることを発表しています。そして、「未接触部族」がヘリコプターに向かって弓矢を構える理由を「邪魔をせず、そっとしておいてほしい」という“健全な抵抗のサイン”として紹介しています。

 他方、ペルー政府の保護官ポンシアーノ氏は、「未接触部族」であるマシコ・ピロ族との接触時のルールとして、(1)ほしがる物を与える、(2)長く話しすぎない、(3)周辺住民から距離を置くように警告する、(4)罠を避けるために会う場所を変える、(5)繊細な話題に触れない――を挙げ、「大事なのは、交流とスケジュールにおける規律です。これらのシチュエーションでは、言葉に気を付けなければなりません」と述べています。

 国家を越えて地球規模で一体化が広がるグローバリゼーションが加速している現代ですが、グローバリゼーションは単なる一体化では不十分です。グローバリゼーションを進める際に絶対におろそかにしてはいけないことは、多様性を尊重し認めあうことです。

 地球規模の環境変化や社会変化が起こっている現代において、「未接触部族」の不変を尊重し見接触という交流を続けると同時に、ときとして彼らが希望する変化を受け入れて新たな共存をそれぞれの立場で考えていくことが、多様な人々に求められているように思います。

<参考文献・参考サイト>
・「この地球に生き続けるために<最終回>ヤノマミ・アナザーストーリー」『BE-PAL』(2021年7月号、関野吉晴著、小学館)
・「初めてのヤノマミの村へ」『わたしの外国語漂流記』(関野吉晴著、河出書房新社編、河出書房新社)
・宣教師を殺害したインド孤立部族、侵入者拒む歴史│日経ナショナル ジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/113000522/
・「文明未接触の島」どう守る 旅行者接近を懸念 - 産経新聞
https://www.sankei.com/article/20190111-A6WALY5KK5JSRDYY7JPRO5MDRQ/2/
・アマゾンの「孤立部族」を偶然撮影、部族名も不明│日経ナショナル ジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/122600496/
・森林伐採の危機、アマゾン孤立部族│日経ナショナル ジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/3761/
・「非接触部族」マシコ・ピロ族、頻繁に出没の謎│日経ナショナル ジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/b/101900042/?P=1
・アマゾンのヤノマミ族、希少な村に迫る「魔の手」│日経ナショナル ジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/112500452/?P=1

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