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DATE/ 2023.04.02

「日本の十大発明家」日本を変えた発明品とは

 日本は世界でも有数の発明大国として知られ、これまでに数多くの発明が生まれ世界にも大きな影響を与えてきました。日本の特許制度は1885年から始まり、100周年を迎えた1985年には、特許庁が特に功績のある10人を「日本の十大発明家」として顕彰しています。今回は日本の十大発明家はどんな顔ぶれなのか、そして日本の発展にどう貢献したのかを紹介していきましょう。

豊田佐吉

 豊田自動織機の社祖でもある豊田佐吉は、かつて人力で動かしていた織機の改良に努め、1891年に木製人力織機で特許を取得した人物です。当時、織物をおりあげる織機は両手と足を使うため効率をあげることが難しかったのですが、佐吉はまず人力織機の改良を手がけたのち、動力織機や自動織機を完成させました。佐吉の功績は日本の紡織機工業、繊維産業を世界的レベルへ押し上げていく原動力になりました。

 ちなみに、佐吉の息子の豊田喜一郎はトヨタグループの創業者。発明に心血を注ぐ父の精神を引き継いで自動車事業へ進出し、今日のトヨタグループの礎を築いた人物です。

御木本幸吉

 今や世界中で愛されているミキモトパール、その創業者が御木本幸吉です。当時、非常に希少だった天然パールは高級品として富裕層に人気でしたが、そのせいで天然パールの乱獲が横行。そのことに心を痛めた御木本は故郷の伊勢志摩で養殖真珠に挑戦し、1896年に特許を取得しました。

 養殖真珠の登場は世界に衝撃を与え、偽物だと訴えられることもありましたが、最終的には真珠としての価値が認められるようになりました。その結果、現在もなおミキモト・パールは世界的なブランドとして十分な評価を得ています。

高峰譲吉

 高峰譲吉は、ホルモンの一種であるアドレナリンの結晶化に成功して1901年に特許を取得しました。ホルモンの結晶化を成功させたのは世界初のことであり、どれだけ大きな偉業を達成したことかわかるでしょう。このアドレナリンはのちに商品化され、現在も医療現場で手術や病気の治療に欠かせない存在となっています。

 また、消化酵素であるタカヂアスターゼを発見したことも彼の大きな功績です。胃腸の働きを助け消化不良を改善してくれるタカヂアスターゼは、現在も世界中で胃腸薬として重宝され続けています。

池田菊苗

 料理するときに使ううま味調味料、そのうま味がグルタミン酸ナトリウムという成分だということを突き止めたのが池田菊苗です。甘味、酸味、塩味、苦味とは異なるうま味の研究を続け、その正体が昆布に含まれる成分だということを発見し、1908年に特許を取得しました。

 このうま味調味料の工業化を進め、味の素の創設者である鈴木三郎助と協力し、現在も愛されるうま味調味料、味の素が誕生。現在でも国内外問わず受け入れられる調味料として愛されています。

鈴木梅太郎

 米ぬかの中から世界で初めてアベリ酸、現在でいうビタミンB1を発見し、米ぬかから取り出すことに成功したことで1911年に特許を取得た鈴木梅太郎。当時の日本では脚気が流行し死者が相次いでいましたが、ビタミンB1が有効であることが解明され、鈴木の功績によって脚気による死者を減少させることができました。

 鈴木は発見したアベリ酸をオリザニンと名付けましたが、その翌年にポーランドの化学者が同じ成分を発見しビタミンと名付けたことで、こちらの名前が一般的に。それでも、世界で初めてビタミンを発見した鈴木の功績はとても大きいものになっています。

杉本京太

 かつて書類作成に使われていたタイプライターは欧米で生まれたもののため、欧文用のものしかありませんでしたが、杉本京太が邦文のタイプライターを開発。1915年に特許を取得しました。日本語はアルファベットとは異なり文字数が多く、1000~2000字のキーがあるため、使う側も技術を要するものでした。それでも、この発明により書類作成のスピードが飛躍的に向上し、ワープロが普及するまでの間、官公庁や多くの企業で愛用されていました。

本多光太郎

 物理学を学び鉄鋼学者の道を進んだ本多光太郎は、KS鋼と呼ばれる強力な磁石鋼の開発により、1918年に特許を取得しました。これは第一次世界大戦により磁石鋼の輪入が途絶えたことがきっかけとなった研究でしたが、これに応える形で、当時世界最強だったタングステン鋼の約3倍もの磁力を持つKS磁石鋼の発明に成功しました。肝心の陸海軍では磁力が強すぎたため使えませんでしたが、その後の強力な磁石鋼の発明の道を開き、日本の磁性材料発展に大きく貢献したのです。

八木秀次

 電気通信の研究者であった八木秀次は、現在も広く使用されている八木アンテナを発明した功績で知られています。この技術により1926年に特許を取得しました。この八木アンテナは指向性アンテナと呼ばれるものであり、特定の方向からのみ放送電波を受信することに専念するため、受信の強度が高いアンテナになっています。発明された当時は日本ではまだ使われず、欧米で戦闘時の相手国のレーダー用アンテナとして使われていましたが、現在ではTVなどの地上波放送の受信用アンテナとして広く使用されています。

丹羽保次郎

 東京電機大学の初代学長である丹羽保次郎は現在のファックスの基礎となる独自方式の写真電送装置を発明。1928年、昭和天皇の即位式の写真をいかに早く報道するかを競って各新聞社はドイツやフランスの技術を取り入れようとしましたが実験段階でうまくいかず、丹羽の発明した写真電送装置が大成功したことで実用化への道が開かれました。この功績によって1929年に特許を取得。純国産のこの技術はファックスの発展に大きく貢献したのです。

三島徳七

 ニッケル合金の研究に努めていた三島徳七は、当時としては革命的といわれた永久磁石鋼であるMK磁石鋼を開発したことで、1932年に特許を取得しました。この磁石は本多光太郎が発明したKS鋼の2倍の保磁力を持ち、なおかつ安価に生産ができるという特徴を持っていました。発電機や通信機、ラジオのスピーカーなどさまざまな機械の磁石として広く使われ、その進歩に大きく貢献しました。

 日本十大発明家について紹介しましたが、1985年から時は流れ、現在も素晴らしい発明を行った日本人は数多くいます。発明大国でもある日本から、これからも多くの技術が世界に轟いていくことが楽しみでなりませんね。

<参考サイト>
・豊田佐吉物語 | 株式会社 豊田自動織機
https://www.toyota-shokki.co.jp/company/history/toyoda_sakichi/
・トヨタ企業サイト|トヨタ自動車75年史|第1部 第1章 第1節|第1項 豊田佐吉
https://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/text/taking_on_the_automotive_business/chapter1/section1/item1.html
ブランドストーリー | MIKIMOTO - ミキモト - リクルートサイト
https://recruit.mikimoto.com/brand-story.html
・世界初、アドレナリンの抽出結晶化 - 高峰譲吉博士研究会
https://npo-takamine.org/who_is_takaminejokichi/scientist_inventor/adrenaline/
・くすりのあゆみ | くすり研究所 | 日本製薬工業協会
https://www.jpma.or.jp/junior/kusurilabo/history/person/takamine.html
・うま味発見から商品化への軌跡ー池田菊苗物語 | ストーリー | 味の素グループ
https://story.ajinomoto.co.jp/history/020.html
・くすりのあゆみ | くすり研究所 | 日本製薬工業協会
https://www.jpma.or.jp/junior/kusurilabo/history/person/suzuki.html
・本多光太郎5つの顔を持つ男 - 東北大学 金属材料研究所
http://www.imr.tohoku.ac.jp/media/files/public/publications/honda/hondaA4.pdf
・八木式アンテナの発明者 八木秀次小伝:HYSエンジニアリングサービス
https://www.hitachi-kokusai.co.jp/hyses/service/antenna/yagi/index.html
・アンテナの原理から見る八木アンテナの指向性とは?構造や特性について | 地デジ・テレビアンテナ工事・設置・取り付けのみずほアンテナ
https://mizuho-a.com/column/column906797
・初代学長 丹羽保次郎紹介 | 東京電機大学
https://www.dendai.ac.jp/about/tdu/history/niwa_yasujiro.html
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