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DATE/ 2023.07.10

昔の1円は現在の何円相当なのか?

お金の価値は変化し続けている

 コロナ禍やロシア・ウクライナ間での戦争の影響で、物価の上昇が続いています。そうすると、同じ金額を出しても以前は買えたものが今は買えないという状態になってしまいますよね。つまり、お金の価値がどんどん低くなっているということになります。このように、お金の価値は社会の動きと密接に関係しており、同じ1円でも時代によって大きな違いがあります。特に、近代化の幕開けとなった明治時代は社会のシステムから見ると現代の基盤になっていますが、1円の価値は現代よりずっと高く、重みがありました。つまり、1円で買えるものが今よりたくさんあったのです。

 ただし、明治時代と現代では生活様式が大きく異なるため、賃金水準や資本の需要と供給なども異なる点が多く、単純に比較できるものではありません。そこで今回は日本銀行の「企業物価指数」と、当時の記録による賃金水準の2パターンを見ながら、1円の価値の違いを探っていきます。なお、企業物価指数とは日本銀行の調査統計局物価統計課が毎月発表している統計のひとつで、企業間取引の価格変動を明治時代から継続して数値化しています。

明治の1円を現代の価値に換算すると…

 まずは明治時代(明治34年)の1901年と、現代(令和元年)の2019年では、1円の価値にどれくらいの違いがあるのかを企業物価指数から見てみましょう。両者の指数は1901年が0.469で、2019年が698.8です。この結果、現代の1円は明治時代の1円と比較して約1,490倍の価値があるということになります。

 また、当時の賃金水準で見てみると、明治30年代の小学校教員や警察官は初任給8~9円ほど、ベテランの大工で月収20円ほどだったとか。現代の一般的な会社員の初任給は20万円ほどなので、明治時代の1円は現代の2万円相当だったという見方もできます。

 ここでひとつ忘れてはならないのが、先にもお話したとおり、いろいろなものの需要と供給が明治時代と現代とでは異なる点です。たとえば、明治時代の瓶ビール大瓶は1本19銭。100銭が1円なので、1円を2万円として換算すると19銭は3,800円ということになります。現代ではお店によって多少値段は変わりますが、大体1本400円くらいでお釣りがくるので、ビールは約10倍の値段だったのですね。日本でビールが本格的に醸造・販売されるようになったのは明治初期のことなので、ビールがまだまだ珍しい飲み物だったことがわかります。

大正・昭和の1円の価値は?

 企業物価指数を見ると、明治時代以降の1円の価値の変化もわかります。明治時代と同様に、2019年の698.8と比較してみましょう。

・1913(大正2)年は0.647。1円は2019年の1,080円相当。小学校教員の初任給は50円ほどなので、1円は2019年の4,000円相当とも見られる。

・1927(昭和2)年は1.099。1円は2019年の636円相当。小学校教員の初任給は大正時代とほぼ同じ50円ほど。ただし、戦後の1959(昭和34)年は初任給2万円ほどになる。昭和中期以降の1円は2019年の10円相当とも見られる。

 昭和時代には第二次世界大戦があり、この前後でお金の価値が大きく変わりました。この時期は一般的に近代と現代の境界とされており、昭和中期以降はお金の価値も令和時代とほとんど変わらなくなります。しかし、平成時代にはリーマンショックのようなお金の価値に大きな影響を与える出来事もありました。お金の価値は現在でも常に変化しています。賢くお金を使ったり、資産形成したりするときには、お金の価値の変動にも注目してください。

<参考サイト>
・三菱UFJ信託銀行 昔の「1円」は今のいくら?明治・大正・昭和・現在、貨幣価値(お金の価値)の推移
https://magazine.tr.mufg.jp/90326
・man@bow 明治時代の「1円」の価値ってどれぐらい?
https://manabow.com/zatsugaku/column06/
・UMESO 【ちょっとマネ知識】明治時代の1円、現在の価値は?
https://www.umeso.co.jp/blog/meiji-1en/
・ビール酒造組合 ビールの歴史
https://www.brewers.or.jp/tips/histry.html
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