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DATE/ 2023.11.22

『おとな六法』で楽しく学ぶ法律の世界

 法律は私たちの日常生活に深く根ざしています。普段の買い物からビジネスの現場に至るまで、私たちの行動のほとんどは法律と関係しています。しかし、法律は難しく複雑です。内容の正確さが求められるため、文章はどうしても難解になりがちで、その理解は簡単ではありません。

 そこで、今回ご紹介する『おとな六法』(岡野武志・アトム法律事務所著、クロスメディア・パブリッシング)は、誰もが法律に親しみをもち、法律的なトラブルのない生活が送れるように、法律の世界をわかりやすく解説してくれています。「人の唐揚げに勝手にレモンをかけたら犯罪ですか?」といった、何気ない素朴な質問に答えていくことで、法律に対する近寄りがたいイメージを払拭してくれます。

「質問きてた!」法律×動画配信という革新的エンターテインメント

『おとな六法』の著者である岡野武志氏は現職の弁護士で、アトム法律事務所の代表です。岡野氏は経歴も活動も非常にユニークです。まず、弁護士としては珍しく、大学で専門的な法学教育を受けたわけではありません。岡野氏は高校卒業後、アメリカや日本でフリーター生活を送ります。バーテンダーや土木工事の仕事を続けながら勉強し、28歳で司法試験に合格。その後すぐに自分の弁護士事務所を設立しています。2019年からはYou Tubeチャンネル「岡野タケシ弁護士【アトム法律事務所】」を設立し、ユーチューバーとしても活躍しています。

 YouTubeでは、時事ニュースの解説や日常生活に関わる法律の疑問に答えるといったコンテンツが提供されています。特に短い時間で楽しめるショート動画が注目されており、幅広い層から人気を獲得しています。2021年には、YouTube国内ショート動画クリエイターランキングで1位を獲得し、TikTok CREATOR AWARD 2021のティーチャー部門で最優秀賞を受賞。また、2022年にはTikTok Awards Japan 2022でEducation Creator of the Yearを受賞し、YouTubeチャンネルの登録者数は100万人を突破。2023年(10月時点)動画の総再生回数が25億回を超えるなど、その影響力は絶大です。

人の唐揚げに勝手にレモンをかけたら犯罪ですか?

 本書では、法律に関する質問が全部で100個取り上げられており、Q&A形式で回答されています。質問はそれぞれ「アニゲー」「学校」「職場」「犯罪」「刑務所」「事故被害」「ネット」「裁判」「司法試験」「弁護士」の10個に分類されています。ここでは二つほどQ&Aをご紹介しましょう。

 まずは、「人の唐揚げに勝手にレモンをかけたら犯罪ですか?」という質問について。

 結論としては、「犯罪になる場合がある」といえます。通常、人の唐揚げに勝手にレモンをかけても、犯罪の故意がないため犯罪にはなりません。ただし、重度のレモンアレルギーの人が「絶対にレモンかけないでね!」と事前に言っていた場合、レモンをかけると食べられなくなってしまうため、器物損壊罪が成立することがあります。3年以下の懲役か30万円以下の罰金・科料になってしまうかもしれません。

 さらに、こっそり唐揚げにレモンをかけて、それを食べた人にアレルギー症状が出てしまったなら、傷害罪が成立することも。この場合は15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。もしアレルギー症状で亡くなってしまった場合は、傷害致死罪や殺人罪になる可能性まであります。唐揚げにレモンをかける場合も注意しなくてはいけないということですね。

交通事故の慰謝料で損する一番の原因とは?

 本書では、他にも実生活に役立つ内容を多く取り上げられています。その一つに、「交通事故の慰謝料で損する一番の原因とは?」というものがあります。

 結論は、「保険会社の提示額を信じてしまうこと」が一番の原因ということです。岡野氏によると、人が良すぎると交通事故の慰謝料で損をすることがあるといいます。交通事故の慰謝料は多くの場合、事故を起こした相手方が加入している保険会社から支払われます。このとき、保険会社が提示する金額をそのまま受け入れてしまうと、本来受け取れるよりも低い金額で示談してしまうことがあります。ここで重要になるのが弁護士の役割です。弁護士が交渉することで、被害者は裁判所が認める金額に相当する適正な慰謝料を受け取る可能性が高まります。

 実際にアトム法律事務所が担当したケースでは、最初に保険会社が提示した金額から2~3倍、中には10倍以上の金額になったものまであったそうです。交通事故における慰謝料の交渉では、保険会社の最初の提示金額にすぐに同意せず、まずは弁護士に相談してみることが重要なのです。

これからのアトム法律事務所

 本書に登場する質問はどれもYou Tubeチャンネルで動画化されているものばかりです。そのため、本のページに掲載されたQRコードを読み取ることで、実際の動画を見ることができます。動画では、岡野氏とスタッフのノリちゃんとのコントのようなやり取りが楽しめます。You Tubeチャンネルで扱われている動画の一覧としても本書は便利です。また、本書には関連条文や図表なども載っており、紙の本ならではの価値があります。

 本書で取り上げられている最後の質問は、「アトム法律事務所って、今後、どこに向かっていくんですか?」です。その結論は、「時代と環境に合わせて進化していく!」というもの。You TubeやTikTokといった現在の主流プラットホームに適応し、法律と動画配信という革新的な手法で人気を博している岡野氏が、今後どのような活動を展開してくれるのか、楽しみですね。まずは大人でも子どもでも楽しめる『おとな六法』を読んで、その一端を垣間見てください。

<参考文献>
『おとな六法』(岡野武志・アトム法律事務所著、クロスメディア・パブリッシング)
https://book.cm-marketing.jp/books/9784295408772/

<参考サイト>
岡野タケシ弁護士【アトム法律事務所】のツイッター(現X)
https://twitter.com/takeshibengo
アトム法律事務所ホームページ
https://atomfirm.com/
YouTubeチャンネル:岡野タケシ弁護士【アトム法律事務所】
https://www.youtube.com/channel/UCl8E6NsjN979gbMBdztF48g
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
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