テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2024.02.24

耳がカットされた野良猫「さくらねこ」って何?

「さくらねこ」の由来は耳の形が…

 「さくらねこ」といわれる猫をご存知でしょうか。アメリカンショートヘアやロシアンブルーのような種類のことではなく、耳の先をV字型に切られている猫をそう呼びます。切られた耳の形が桜の花びらのようなので、「さくらねこ」というのですね。「耳の先を切られている」なんて聞くと、痛くないのかと心配になってしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、これは動物愛護団体が行っている「TNR」という活動の施策のひとつです。きちんと医療的処置をしているので、猫が痛がることはありません。

 TNRとは、「Trap(捕獲)」・「Neuter(去勢・不妊手術)」・「Return(元に戻す)」という一連の活動の略称で、「地域猫」を対象に行われます。地域猫とは、特定の飼い主を持たずに屋外で生活している猫のことですが、動物愛護団体やボランティアの人々が世話をしているため、野良猫とはまた異なる存在です。なかでも大きな特徴が、TNRの「N」である去勢・不妊手術の実施といえるでしょう。

 猫を「さくら耳」にするのは、この手術のタイミングです。全身麻酔が効いている間に切るので、痛くないというわけです。また、猫の耳の先は薄くて血管が少ないため、出血しにくく傷もすぐにふさがります。麻酔から覚めたあとに痛みが長引くこともありません。どちらの耳を切るかに決まりはありませんが、多くの場合はオスが右耳、メスが左耳を切られるようです。

 つまり、さくらねこの耳は去勢・不妊手術済みの目印。去勢・不妊手術は猫の体に大きな負担をかけますが、手術の傷がきれいに治ると、メスは外見では手術をしたかわからなくなり、オスは外見では性別も判断できなくなります。このため、間違って再び手術をしてしまわないようにさくら耳の処置は大切なのです。

野良猫を増やさないためのTNR

 しかし、そもそもなぜTNRが必要なのでしょうか。その大きな理由は、殺処分される猫を減らすためです。環境省が発表した2021(令和3)年度の猫の殺処分頭数は11,718頭。重いけがをしていてやむを得ず処分された猫は5,676頭いましたが、それ以外は普通の元気な猫でした。

 猫は繁殖能力が高いので、野良猫の生殖機能をそのままにしておくとどんどん子どもが増えてしまいます。そうすると結果的に殺処分される“不幸な猫”が増えてしまうため、子どもが増えないようにしてゆるやかに個体数を減らしていこうという考え方のもとに行われているのがTNRなのです。実際に、5年前の2016(平成28)年には殺処分された猫が45,574頭おり、確実に殺処分される猫は減っています。TNRの活動が成果を上げていることがわかりますよね。

 健康な猫の体にあえて手術を施すことには賛否両論ありますが、TNRを行う人たちは捕獲の段階から猫がけがをしないように細心の注意を払っており、手術が終わったあとはもとの地域に戻して猫のコミュニティが壊れないように心がけています。猫への配慮を忘れずに、猫の幸せのために活動していることは間違いありません。

 近年は動物の殺処分に対する社会の注目度が上がっており、保護された猫とふれあえる猫カフェや、そのような保護猫を引き取る人も増えてきました。ふるさと納税で動物の殺処分を減らす活動への寄付を受け付けている自治体もあるので、節税対策として検討するのもよいでしょう。かわいい猫にはいやされますが、かわいがるだけでなく、猫と人間が幸せに共生するにはどうすればいいか考えて実行することはとても大切ですよね。

<参考サイト>
・公益財団法人どうぶつ基金 さくらねこ TNRとは (TNR先行型地域猫)
https://www.doubutukikin.or.jp/activity/campaign/story/
・大建工業株式会社 知ってください「さくらねこ」。地域猫問題に取り組む猫愛好家たちの活躍
https://www.daiken.jp/buildingmaterials/pet/nekogasukinaie/article/neko09.html
・株式会社ネコリパブリック TNR地域猫活動について
https://www.neco-republic.jp/about/tnr/
・hugU 地域猫・さくら猫ってなに? 猫を救うためのTNR活動について
https://hug-u.pet/feature/554
・buycott さくらねこって知ってる?猫の殺処分を根っこから解決するプロジェクト
https://buycott.me/report/000163.html
・環境省 犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html
・ふるさとチョイス 「殺処分ゼロ」 検索結果一覧
https://www.furusato-tax.jp/search?q=%E6%AE%BA%E5%87%A6%E5%88%86%E3%82%BC%E3%83%AD&header=1&target=1&sst=
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

軍の配置を見れば分かる!台湾のクーデター対策とは

軍の配置を見れば分かる!台湾のクーデター対策とは

クーデターの条件~台湾を事例に考える(2)クーデターの成功条件とリスク

クーデターが成功するかどうかは、鎮圧側とのせめぎ合いをどのように制するかが鍵を握っている。クーデターを仕掛ける国軍と、それを防ぐために策を講じる政府。その軍配を左右する条件や両陣の戦略、対策を具体的に解説する。...
収録日:2025/07/23
追加日:2025/10/05
上杉勇司
早稲田大学国際教養学部・国際コミュニケーション研究科教授 沖縄平和協力センター副理事長
2

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち

たかが「1」、されど「1」――今、数の意味が理解できない子どもがたくさんいるという。そもそも私たちは、「1」という概念を、いつ、どのように理解していったのか。あらためて考え出すと不思議な、言葉という抽象概念の習得プロ...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
3

「虚実篇」から学ぶ優秀なリーダーの役割と戦略の重要性

「虚実篇」から学ぶ優秀なリーダーの役割と戦略の重要性

『孫子』を読む:虚実篇(1)いかに主導権を握るか

今回から開始となる『孫子』シリーズの第6編「虚実篇」。虚実とは空虚と充実であり、空虚とは手薄、充実とは手厚いことだと田口氏は説く。また、虚偽と真実という虚実もある。これらはいったい何を意味しているのか。虚実篇では...
収録日:2020/05/21
追加日:2022/01/03
田口佳史
東洋思想研究家
4

生物学からわかる「ヒトの配偶や子育て」で大切なこと

生物学からわかる「ヒトの配偶や子育て」で大切なこと

編集部ラジオ2025(22)長谷川眞理子先生の「子育て」講義

育児・子育ては、いつだって、誰にとっても大問題です。とりわけ社会が複雑化し、流動化し、激変している現在においては、さまざまな問題も噴出しています。どう考えるべきか、判断が難しい問題も山積です。

このよう...
収録日:2025/08/25
追加日:2025/10/01
5

なぜ強みが大事なのか?ドラッカー、西田幾多郎の答えは

なぜ強みが大事なのか?ドラッカー、西田幾多郎の答えは

経験学習を促すリーダーシップ(4)成功を振り返り、強みを伸ばす

人の成長にとって、弱点の克服よりも重要なのは強みを伸ばすことだ。ではいかにして自分の強みに気づいていけばいいのか。指導者はどのようにしてそれを気づかせ、支援していけばいいのか。ピーター・ドラッカーの話をはじめ、...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/10/01
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授