テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2024.07.21

仏教の聖地「高野山」、猫が立入禁止だった理由

古くからの聖地・高野山

 紀元前5世紀頃のインドでブッダによって開かれた仏教は、中国から朝鮮を経由して6世紀半ばに日本へと伝わったといわれます。そして、日本国内ではさまざまな仏教の宗派が誕生しました。そのうちのひとつに、平安時代の僧侶・弘法大師(空海。弘法大師は死後に贈られた敬称)が開いた真言密教があります。真言密教は現在も日本国内で広く信仰されている真言宗の流派のひとつ。仏様にすがるのではなく、自分で宇宙の真理を解き明かして悟りを開こうという、ストイックな考え方が特徴です。

 この真言密教の総本山が、現在の和歌山県北部にある金剛峯寺です。通常、お寺というとひとつの建物を指すことが多いですが、金剛峯寺は「一山境内地」といわれ、お寺が建っている高野山全体を聖域としています。このため、「金剛峯寺」も「高野山」も同じ「高野山全体」を意味することがよくあります。

 弘法大師は承和2(835)年に亡くなったと記録されていますが、高野山では「奥之院」という施設で修行を続けているとされており、今もなお神聖さや荘厳さが守られ続けています。

女人禁制の真意とは?

 男女同権が常識の現代では驚いてしまいますが、高野山は開山当初から女人禁制、つまり女性は立入禁止でした。禁制が解かれたのは明治維新後の明治6(1873)年。日本が世界と肩を並べられる近代国家を目ざしはじめてからなのです。

 しかし、このルールは弘法大師が率先して決めたことではありません。当時は「僧尼令(そうにりょう)」という法律があり、この中で女性は寺院に入ってはいけないと決められていたので、むしろ女人禁制にするのは当然だったのです。

 それでは僧尼令は女性差別の法律だったのかというと、これも違います。女性が寺院に入れないのと同様に、男性も尼寺には入れませんでした。男女が寝食をともにするとどうしても風紀が乱れてしまい、修行の妨げになるという考え方から、このような決まりが制定されたのです。あくまでも僧侶や尼僧の堕落を防ぎ、優秀な聖職者を育てるための法律だったのですね。弘法大師は「修行において男女を論じる必要はなく、みんな等しく“その人”である」という意味の言葉を残しており、現代でも通用する男女平等の考え方の持ち主だったことがわかっています。

 高野山のふもとには阿弥陀寺や室生寺などの女性も参詣可能なお寺があり、「女人高野」と呼ばれて親しまれました。高野山は女人禁制を徹底した一方で、女性への配慮も忘れなかったのです。

猫も立入禁止というストイックぶり

 そして高野山は、意外な存在も立入禁止になっていました。その意外な存在とは、なんと猫。猫はかわいすぎて修行の妨げになるため、禁止されていたのだとか。これには思わず納得してしまう方も多いのではないでしょうか。

 ただし高野山の“猫禁制”は、女人禁制のように明文化された決まりではなかったようです。明治時代後期に金剛峯寺の座主(ざす。そのお寺で一番偉い僧侶)が提示した禁止事項の中に「猫を飼うこと」が入っているのですが、理由は語られていません。むしろ高野山は、犬以外の動物を飼うことが禁止されていたとも考えられています。犬は弘法大師を高野山に導いた動物なので、特別に飼ってもよいとされていたのだとか。しかしこの説もはっきり記した文献が見つかっているわけではなく、真偽のほどは不確かです。

 仏教では魂を不滅の存在と考えており、一度死んでまた生まれ変わる“輪廻転生”が重要な世界観のひとつです。魂は生前の行いによって転生先が決まりますが、動物は人間よりも下位であるとされています。この点から考えると、聖域の高野山に動物を入れるのは基本的によくないことだったと見るのが自然かもしれません。しかし、猫のかわいさが多くの人を魅了しているのも事実。「猫はかわいすぎるから禁止」とは、猫好き僧侶の間で語られた“面白ネタ”だったのかもしれませんね。

<参考サイト>
・高野山真言宗 総本山金剛峯寺
https://www.koyasan.or.jp/
・いかす・なら 奈良県における仏教の変遷
https://www.pref.nara.jp/miryoku/ikasu-nara/fukabori/detail01/
・COTRE チベット仏教の源流を探って
https://ura.sec.tsukuba.ac.jp/archives/6455
・和歌山県公式観光サイト 女性の祈りを集める女人高野
https://www.wakayama-kanko.or.jp/features/koyasan1200/koyasan-for-female/
・神戸観光コンシェルジュ 高野山の女人禁制を中心に
https://nippon-culture.jimdofree.com/高野山の女人禁制を中心に/
・grape 『高野山』は昔、猫の立ち入りが禁止されていた 理由が「分かる、分かりすぎる!」
https://grapee.jp/352366
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

実物大のガンダムを動かせ!困難を乗り越えて夢の実現へ

実物大のガンダムを動かせ!困難を乗り越えて夢の実現へ

「動くガンダム」に学ぶロボット工学と未来(2)「動くガンダム」で新たな夢の実現へ

人々が夢見てきた技術は現在、その多くが実現されてしまった。そんな技術開発に夢を持ちづらい時代だからこそ、「動くガンダム」の実現によって次の夢の叩き台をつくることが必要なのである。大事なのは夢をいかに高く掲げるか...
収録日:2024/02/18
追加日:2024/12/04
2

超深刻化する労働力不足、解消する方策はあるのか

超深刻化する労働力不足、解消する方策はあるのか

教養としての「人口減少問題と社会保障」(6)労働力の絶対的不足という問題

人口減少によって深刻となる問題の2つ目が「労働力不足」である。今盛んにいわれている女性活用、高齢者活用、外国人労働者受け入れは、労働力の絶対的不足を解消する有効な方法となり得るのか。これからの労働力不足の問題と方...
収録日:2024/07/13
追加日:2024/12/03
森田朗
一般社団法人 次世代基盤政策研究所(NFI)所長・代表理事
3

横井小楠、佐久間象山、西郷隆盛…なぜ幕末に人材が育ったか

横井小楠、佐久間象山、西郷隆盛…なぜ幕末に人材が育ったか

今求められるリーダー像とは(1)幕末転換期から学ぶ

日本の経済的地位は1990年以降低下し続け、2023年の一人当たり名目GDPは34位に転落している。企業のリーダーや政治家にとって重要なのは、今がどういう時代なのかを知ることであり、そのために幕末の転換期が参考になる。内外の...
収録日:2024/09/26
追加日:2024/11/06
神藏孝之
公益財団法人松下幸之助記念志財団 理事
4

おみくじは「吉凶」だけでなく「和歌や漢詩」を読むのが本当

おみくじは「吉凶」だけでなく「和歌や漢詩」を読むのが本当

おみくじと和歌の歴史(1)おみくじは詩歌を読む

日本人にとって身近な「おみくじ」。しかし、その歴史を知る機会はあまり多くない。つい吉凶にばかり目が行きがちなおみくじだが、本当に受け取るべきメッセージはそこではないという。どういうことなのか。まず、おみくじの成...
収録日:2023/11/10
追加日:2023/12/20
平野多恵
成蹊大学文学部日本文学科教授
5

なぜ「心の病」が増えている?メンタルヘルスの実態に迫る

なぜ「心の病」が増えている?メンタルヘルスの実態に迫る

メンタルヘルスの現在地とこれから(1)「心を病む」とはどういうことか

組織のリーダーにとって、メンバーのメンタルヘルスは今や最重要課題になっている。組織として目標達成が大事であることは間違いないが、同時に一人ひとりの個性を見極め、適材適所で割り振っていく「合理的配慮」も求められて...
収録日:2024/04/17
追加日:2024/06/15
斎藤環
精神科医