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『新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと』に学ぶ
新聞の購読者数は以前に比べてだいぶ減りました。日本新聞協会によると、2003年10月時点の新聞発行部数は約5287.5万部でした。これが20年後の2023年になると約2859万部となっています。つまり20年で半減したことになります。この背景にはインターネットやSNSの普及が関連しています。ではデジタル化された新聞記事なら読まれているのかといえば、そうでもないようです。
この現状について詳細に分析した書籍が『新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと』(斉藤友彦著、集英社新書)です。著者の斉藤友彦氏は、なぜ新聞記事が読まれないのかという点について聞き取り調査を行い、その書き方に問題があるのではないかと感じ、新聞記事の問題点はなにか、メディアの役割は何かと問いながら、そのあり方について考えが深められていきます。
斉藤氏は1972年生まれで、現在は共同通信社デジタル事業部担当部長です。名古屋大学文学部を卒業後、1996年に共同通信社に入社、その後は社会部記者、福岡編集部次長(デスク)を経て2016年から社会部次長となります。そうして2021年からは、フィールドをデジタルに移し、デジタルコンテンツ部担当部長として「47NEWS」の長文記事「47リポーターズ」を配信。本書以外の著書には『和牛詐欺 人を騙す犯罪はなぜなくならないのか』(講談社)があります。
このことによって、数多くの記事が並ぶ新聞紙面では、はじめを読めばポイントを掴むことができます。47NEWSでも当初この型に沿った記事をウェブで配信しましたが、まったくPV(ページビュー)が伸びません。このとき、斉藤氏はヒットしているさまざまなデジタル記事を分析します。そこで見えてきたのが、共感性が得られる記事はヒットにつながりやすいということでした。共感性が得られる記事とは、その出来事を「自分事」として捉えてもらえるような記事です。
そのように書くためには、過去から現在へと流れる「ストーリー性」が大事です。また、話の展開がわかりやすくなるように新聞記事では省略される「接続詞」や「指示語」をできる限り入れる。その上で詳細な場面描写を取り入れる。他にも、主語を明確にする、新聞の慣用表現(省略語)を使わないなど、細かいルールがいくつか考え出されます。このあたり、新聞記事からデジタル記事への書き換えの具体例はたいへんわかりやすいものが本書の中に示されています。
ただし斉藤氏は、デジタルのストーリーが新聞の説明文より優れていると言いたいわけではありません。新聞の説明文から得ることができるのは「知識や教訓」です。一方、デジタル記事のストーリーからにじみ出てくるものは「共感性」です。新聞読者が年々減り続ける現状では、デジタル読者にも共有すべき社会の情報、ニュースを届けていかなければ、報道機関の役割を果たしたことにはならないと斉藤氏は考え、この「共感性」を生む書き方を重視すべきだと考えます。
たとえば「Yahoo!トピックス(ヤフトピ)」は、Yahoo!ニュースのトップ画面に8本の記事が掲載されますが、ここに掲載されると桁違いにPVが増えるので、記事が掲載された書き手は思わず喜んでしまいます。しかし、何が掲載されるのかは書き手側にはわからないため、PVはプラットフォーム次第ということです。
また、デジタルは「感情の世界」です。被害者と加害者が登場するような記事をストーリー形式で配信すると、SNS上では加害者側に対するすさまじい敵意に満ちたコメントを目にすることがあるといいます。もし、この異常な敵意を持つ人が読者の多数になった場合どうなるか、と考えて斉藤氏は恐怖を感じているということです。
ということで、「デジタル記事の書き方を覚えてPVを稼げればいい」と短絡的に考えることは誤りであると忠告しているのです。
このように、斉藤氏は新聞記事の書き方を解体し、共感を得られるデジタル記事のメソッドを見つけます。その上でメディアの役割を再認識します。この役割とは「検証可能な一次情報を核として記事を作ること」です。これがなければ、「確からしさ」を把握することがだれもできなくなってしまいます。このとき広がるのは陰謀論です。確かな根拠のある情報に立って考えることができなければ、社会は偽情報にコントロールされていきます。その社会は、自由や民主主義と相入れません。
本書はこの危機感に基づいて書かれています。ただし先に示した通り、共感ばかりを求めて感情を刺激する書き方に邁進することの「恐怖」についてもメディアは自覚しなければなりません。本書の最後はこの点について「メディアは、どこまで自制できるだろうか」という言葉で締めくくられます。
ぜひ本書を開いてみてください。文章の構造が変わると、伝わり方が変わる。そのことが実例とともに明確に解説されているので、理解しやすいのです。そして、私たちは情報をどのように受けとればよいのか、また現代で情報を発信するときの問題がどこにあるのか、という点についても考えるきっかけになるはずです。
この現状について詳細に分析した書籍が『新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと』(斉藤友彦著、集英社新書)です。著者の斉藤友彦氏は、なぜ新聞記事が読まれないのかという点について聞き取り調査を行い、その書き方に問題があるのではないかと感じ、新聞記事の問題点はなにか、メディアの役割は何かと問いながら、そのあり方について考えが深められていきます。
斉藤氏は1972年生まれで、現在は共同通信社デジタル事業部担当部長です。名古屋大学文学部を卒業後、1996年に共同通信社に入社、その後は社会部記者、福岡編集部次長(デスク)を経て2016年から社会部次長となります。そうして2021年からは、フィールドをデジタルに移し、デジタルコンテンツ部担当部長として「47NEWS」の長文記事「47リポーターズ」を配信。本書以外の著書には『和牛詐欺 人を騙す犯罪はなぜなくならないのか』(講談社)があります。
新聞記事は「説明」を行い、デジタル記事は「共感」を呼ぶ
新聞記事の基本形は逆三角形と言われています。これは最も重要な要素である「リード」を第一段落に置いて書く形です。リードはおおよそ100字から200字程度で、その記事の結論が入れられます。また、ここで収まりきれない要素が第2段落、第3段落に入っていきます。特に続報ではない初出の記事では、5W1H(WHO/WHAT/WHEN/WHERE/WHY/HOW)といった基本情報が第一段落に置かれることになります。このことによって、数多くの記事が並ぶ新聞紙面では、はじめを読めばポイントを掴むことができます。47NEWSでも当初この型に沿った記事をウェブで配信しましたが、まったくPV(ページビュー)が伸びません。このとき、斉藤氏はヒットしているさまざまなデジタル記事を分析します。そこで見えてきたのが、共感性が得られる記事はヒットにつながりやすいということでした。共感性が得られる記事とは、その出来事を「自分事」として捉えてもらえるような記事です。
そのように書くためには、過去から現在へと流れる「ストーリー性」が大事です。また、話の展開がわかりやすくなるように新聞記事では省略される「接続詞」や「指示語」をできる限り入れる。その上で詳細な場面描写を取り入れる。他にも、主語を明確にする、新聞の慣用表現(省略語)を使わないなど、細かいルールがいくつか考え出されます。このあたり、新聞記事からデジタル記事への書き換えの具体例はたいへんわかりやすいものが本書の中に示されています。
読者を迷子にしないように、読者の手をとって文末まで導く
こうした書き方について、斉藤氏は「読者を迷子にしないように、読者の手をとって文末まで導く」といいます。ネットでデジタル記事を読むときの読者は移り気です。少しでも「わからない」と感じたり、文章の流れを見失ったりしたときに立ち止まって考えたり、読み返したりはせず、すぐに離脱する。また、新聞記事のような「説明文」だとすぐに飽きてしまう。だからこそ、デジタル記事には「ストーリー性」が必要だといいます。ただし斉藤氏は、デジタルのストーリーが新聞の説明文より優れていると言いたいわけではありません。新聞の説明文から得ることができるのは「知識や教訓」です。一方、デジタル記事のストーリーからにじみ出てくるものは「共感性」です。新聞読者が年々減り続ける現状では、デジタル読者にも共有すべき社会の情報、ニュースを届けていかなければ、報道機関の役割を果たしたことにはならないと斉藤氏は考え、この「共感性」を生む書き方を重視すべきだと考えます。
デジタル記事の注意すべき点
ただし、デジタル記事には注意すべき点もあります。まず取り上げるのは、その記事を大きくピックアップするかどうかはそのプラットフォームにかかっている点です。たとえば「Yahoo!トピックス(ヤフトピ)」は、Yahoo!ニュースのトップ画面に8本の記事が掲載されますが、ここに掲載されると桁違いにPVが増えるので、記事が掲載された書き手は思わず喜んでしまいます。しかし、何が掲載されるのかは書き手側にはわからないため、PVはプラットフォーム次第ということです。
また、デジタルは「感情の世界」です。被害者と加害者が登場するような記事をストーリー形式で配信すると、SNS上では加害者側に対するすさまじい敵意に満ちたコメントを目にすることがあるといいます。もし、この異常な敵意を持つ人が読者の多数になった場合どうなるか、と考えて斉藤氏は恐怖を感じているということです。
ということで、「デジタル記事の書き方を覚えてPVを稼げればいい」と短絡的に考えることは誤りであると忠告しているのです。
民主主義を保つために必要なもの
本書では新聞が読まれなくなっている現状に対して、何が問題なのかという点について、新聞記事を振り返って分析し、デジタル記事との違いを明確にしています。本書を読むと、斉藤氏が検証を続ける中で新聞記事の評価に対して受けたショックや葛藤の様子まで伝わってきます。そうして記者として長い間に身につけてきた自身のあり方が、一から捉え直されていくのです。このように、斉藤氏は新聞記事の書き方を解体し、共感を得られるデジタル記事のメソッドを見つけます。その上でメディアの役割を再認識します。この役割とは「検証可能な一次情報を核として記事を作ること」です。これがなければ、「確からしさ」を把握することがだれもできなくなってしまいます。このとき広がるのは陰謀論です。確かな根拠のある情報に立って考えることができなければ、社会は偽情報にコントロールされていきます。その社会は、自由や民主主義と相入れません。
本書はこの危機感に基づいて書かれています。ただし先に示した通り、共感ばかりを求めて感情を刺激する書き方に邁進することの「恐怖」についてもメディアは自覚しなければなりません。本書の最後はこの点について「メディアは、どこまで自制できるだろうか」という言葉で締めくくられます。
ぜひ本書を開いてみてください。文章の構造が変わると、伝わり方が変わる。そのことが実例とともに明確に解説されているので、理解しやすいのです。そして、私たちは情報をどのように受けとればよいのか、また現代で情報を発信するときの問題がどこにあるのか、という点についても考えるきっかけになるはずです。
<参考文献>
『新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと』(斉藤友彦著、集英社新書)
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-721350-8
<参考サイト>
斉藤友彦氏のX(斉藤友彦@共同通信)
https://x.com/saitotomohiko1
『新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと』(斉藤友彦著、集英社新書)
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-721350-8
<参考サイト>
斉藤友彦氏のX(斉藤友彦@共同通信)
https://x.com/saitotomohiko1
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