DATE/ 2026.01.16

地球上で最も長生きな生物とは?

驚異の長寿生物たち

 科学や医療の発展によって、いまや人間は80歳ほどまで生きられる時代になりました。しかし、地球上にはこの寿命を圧倒的に上回る長寿生物がいることをご存知でしょうか。今回はそんな驚異の生物の生態と、長生きの秘密に迫ります。

 人間の常識では考えらない長寿生物には、次のようなものがいます。

・ニシオンデンザメ:主に北大西洋に生息するサメの仲間。脊椎動物の中で最も長生きと考えられており、平均寿命は少なく見積もって272歳といわれます。観測された個体では300歳を超えるとされたものもおり、科学誌・サイエンスでは400年近く生きると発表されました。成体の体長は5~6mほどになりますが、成長はとても遅く、1年に1cmほどしか大きくなりません。メスが性成熟するのは150歳ごろとされています。このように成長が極めて遅いのは、細胞分裂がとてもゆっくりだから。冷たい深海に生息しているので代謝が鈍くなり、細胞分裂も遅くなっていると考えられています。

・アイスランドガイ:その名のとおりアイスランド近海に生息する、二枚貝の仲間。無脊椎動物も含めたすべての動物界で、最も長生きの個体が科学的に証明された生物です。ミンと名づけられたその個体の年齢は、なんと507歳。採取されたのは2006年なので、1499年生まれと推測されます。この貝が生まれた時代と中国の明王朝の繁栄した時代が重なることから、「ミン(Ming)」と名づけられたとか。「世界一長生きの貝」というギネス記録にもなっています。生態はニシオンデンザメとよく似ており、冷たい海に生息しているので代謝が鈍く、成長速度がとてもゆっくりです。

 アイスランドガイのミンが誕生したとされる1499年といえば、ヨーロッパではレオナルド・ダ・ヴィンチが「モナ・リザ」を制作していた時期。日本では室町幕府が権威を失って戦国時代に突入した最初期です。そんな時代から現代まで生きてきた生物がいるなんて、想像もつきませんよね。

 また、ベニクラゲの仲間には「成体から幼生状態に若返る」という不思議な生態を持つ種類もいます。このサイクルは無限に繰り返せる可能性があるので、理論上は「不死」ということになり(実際はほかの生物に食べられたら死亡します)、寿命や若返りの研究分野で大きな注目を集めています。

長寿な哺乳類といえば

 驚きの長寿生物を見てきましたが、魚類や無脊椎動物となると生態が違いすぎて、身近な存在とは言いにくいですよね。それでは、人間に近い哺乳類には長生きの生物はいないのでしょうか。それはもちろん、「NO」です。哺乳類にも長生きのシステムを持つ生物は存在します。特に代表的な、ゾウとホッキョククジラを例に見てみましょう。

 まず前提として、ゾウとホッキョククジラは「ピートのパラドックスを克服した存在」という点が重要です。ピートのパラドックスとは、イギリスの疫学者リチャード・ピートが考えた「大型生物は短命という予想に反して、実際は長命の大型動物がいる」という矛盾。生物を構成する細胞ひとつひとつの大きさはどの生物もほとんど同じなので、大型生物ほど細胞の総数は多くなります。そうすると、細胞を構成するDNAの傷の蓄積が原因となるガンの発生リスクは大型動物のほうが高いので、ゾウやクジラのような大型動物はガン腫瘍だらけになってすぐ死んでしまうはずです。しかし実際には、ゾウは60~70年程度、ホッキョククジラはなんと200年近く生きることもあります。その理由が、次のような長生きのシステムによるものなのです。

・防御力を高めたゾウ:ガン抑制遺伝子・p53のコピー数を増やして、ガンへの防御力を高めています。人間では1対しかないp53が、ゾウには20対もあるのだとか。このため、損傷した細胞をくまなく効率的に自殺(アポトーシス)に誘導してガンを発生させません。人間はp53が変異して機能を失ってしまうこともありますが、ゾウはコピー数が多いので一部が機能を失ってもすべてが機能しなくなることはほとんどありません。

・修復能力を高めたホッキョククジラ:DNA修復遺伝子・CIRBRを活発にはたらかせることで、傷ついたDNAがガン化する前に修復します。ホッキョククジラのCIRBRは2重鎖切断という深刻な損傷を負ったDNAに対しても、ほかの生物よりはるかに高い修復能力を発揮することがわかっています。人間とマウスの細胞に組み込む実験でも、2重鎖切断のDNAを通常より2倍効率的に修復できるという結果が出ました。

 哺乳類の長寿システムは人間にも応用できる可能性があり、今後のさらなる研究と医療への実用化に期待が高まりますね。

長寿の秘訣はガンの回避

 ゾウやクジラのような大型動物の一方で、小型の哺乳類にも長生きの動物がいます。アフリカ東部の地下に生息するハダカデバネズミです。名前のとおり体毛がほとんどなく、発達した前歯を持つネズミの仲間。体長は日本に生息する普通のネズミとほとんど同じ15cm前後ですが、普通のネズミが2~3歳で寿命を迎えるのに対してハダカデバネズミは30歳前後と、普通のネズミの10倍くらい長生きします。

 ハダカデバネズミが長生きする理由は、炎症を起こす遺伝子の機能に大きな欠失があるから。このため、ガン発生が促進される炎症反応を強力に抑え込んだ予防システムが構築されているのです。炎症反応は老化との関係性も指摘されており、実際に炎症反応がほとんど起きないハダカデバネズミは老化が極めて遅いです。老化せず、病気にもならない、まさに理想の一生を体現しているような動物ですね。

 ここまで見てきて、長生きに重要なキーワードは「ガンにならない」であることがおわかりいただけたのではないでしょうか。長寿生物は遺伝子レベルでガンを巧みに避けて生きています。近年はこのような生物たちをヒントに、新たな視点からのガン研究が進んでいます。治るガンも増えてきましたが、ガン耐性があまり高くない人間にとってはまだまだ恐ろしい病気。長生きの動物たちにあやかって、ガンに悩まない未来が早く訪れることを願ってやみません。

<参考サイト>
・推定2万3000歳!?「不老不死」を手に入れてしまった最強生物たち|ナゾロジー
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/86062
・約400歳のサメが見つかる、脊椎動物で最も長寿|ナショナルジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/081000304/
・がん耐性齧歯類ハダカデバネズミの 化学発がん物質への強い発がん耐性を証明 -炎症抑制を介したがん耐性機構の一端を解明-|東京大学医科学研究所
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00162.html
・ゾウから学ぶ腫瘍学~日経サイエンス2023年1月号より|日経サイエンス
https://www.nikkei-science.com/?p=68575
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