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DATE/ 2017.03.05

「オレオレ詐欺」の被害はなぜ絶えないのか?

 振り込め詐欺が話題になってからすでに10年以上たちますが、その被害がおさまる様子はいまだにありません。警察庁による平成28年の統計では、振り込め詐欺をはじめとする特殊詐欺の被害総額は前年よりも下がったものの、400億円を超えています。認知件数にいたっては前年より増加し、14,000件を超えました。

 振り込め詐欺のなかでも最も件数が多いのは、親族になりすまして金銭を振り込ませる通称「オレオレ詐欺」。いまでは手口も名称もよく知られており、被害防止に向けた啓発活動や報道もさかんに行われているというのに、引っかかる人が多いのはなぜなのでしょうか。

オレオレ詐欺はもうオレオレではない

 オレオレ詐欺というのは、例えば何かトラブルに巻き込まれた、と息子を思わせる人物から電話がかかってきて、問題解決のために金銭を振り込ませるという手口の詐欺です。

 なぜオレオレなのかというと、信じる人にあたるまで、とにかくめったやたらに電話をかけるからです。相手に息子がいるか分からないし、いても騙されるかどうかやってみるまで分からない。そうなると、いちいち息子の名前など確認できないので、とりあえず「オレオレ」と誰にでも当てはまりそうな一人称を使うわけです。

 しかし、今では実際に引っかかりそうな人を集めたリストが売買され、そのリストには被害者候補の実際の親族関係まで記されていることもあります。オレオレではさすがに引っかからなくても、実際に息子や娘の名前で電話がかかってくれば信じてしまうというのは人情というものでしょう。

 ●「演劇団」として高度に組織化

 また、現在オレオレ詐欺集団は高度に組織化しています。電話をかける者、金を受け取る者、そして特にスキルは要らないが捕まりやすいため使い捨てにされる「出し子」といわれるATMからの引き下ろし役などの分業制があることはよく知られています。

 チームを束ねるリーダー役や、足のつかない「飛ばし」といわれる携帯を売る業者などもいます。さらに電話役を細かく役割分担して、被害者をだますことも行われています。

 例えば、「息子が痴漢で捕まってしまったけど、示談金をすぐに払えばおとがめなしになる」というような設定の場合、息子役、警官役、弁護士役などが代わる代わる電話で話し、現実感を演出し、被害者(電話先の相手)を心理的に追い込んでいくわけです。こう来られると疑う間もなく、あるいは疑いながらも焦って、お金を払ってしまう人がいるのも想像に難くありません。

最近のトレンドは「上京型」

 最近は「上京型」という手口が増えているといわれます。例えば、「会社の大切なお金を失くしてしまった。このままだとクビになってしまうので、すぐにお金を東京に持って来てほしい」というのです。

 お金を持って遠くから東京まで駆けつけると、同僚や部下などと自称する人から電話がかかって来て、指定の場所で落ち合ってお金を渡す、というものです。

 この手口のポイントは、慣れない土地に呼び出されて大きくなった戸惑いや不安に付け込み、サッとお金をとってしまうことです。

 ひとくちにオレオレ詐欺といっても、人間の心理を操るため、日々進化しています。ますます高度化する手口に、年老いた親族が引っかからないと自信を持って言える人は多くないのではないでしょうか。

<参考サイト>
・警察庁:振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺の被害状況
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki31/higaijoukyou.html
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