●「肺がんを減らすためには喫煙を抑制すべき」は本当か
かつてロナルド・フィッシャーという統計学者は、喫煙とがん発症の因果関係を確信し過ぎることで、過激な禁煙運動をする社会に警鐘を鳴らしました。彼は、理論的な想定として警鐘を鳴らしたのです。ある遺伝的な構造を生来持っている人は、その遺伝的構造ゆえにたばこを吸いたくなる、ニコチンを非常に欲してしまう傾向を持ちます。しかし、その遺伝的構造は同時に、そうした遺伝的構造を持たない人に比べて、肺がんのようながんをより多く発症させる場合があると想定します。
もしそういうことが成り立っているとしたら、いくら喫煙を抑制してたばこを吸わないようにしても、もともとその人はがん体質なので、がんになってしまいます。だとすれば変な話ですが、そうした人には他人に迷惑をかけない限りでスモーキングを楽しんでもらった方が、当人にとっては良いということにさえなってしまいます。そういう可能性があることを知った上で、禁煙運動や関係する政策を行うべきだ、という非常に学者らしい提言をしました。
これもやはり恒常的連接の問題、すなわち相関関係(喫煙すると、がんを発症する)と因果関係(特有の遺伝的構造を持つため、がんを発症する)は別であるという例です。
ただここにも問題はあります。例えば、前回出した例です。スロットを引いて電車が発車し、スロット周辺に風が起こる。実はこの場合でも、「スロットを引くと電車(が走る)」、「スロットを引くと風(が起こる)」の間にあるのは因果関係だと見なしてお話しましたが、その因果関係すらもどうやって発見するのかということが問題になります。そうすると、問題は入れ子になってしまい、どんどんさかのぼってしまうということになるのです。いずれにせよ、こういう形で、相関関係と因果関係は区別できないのではないかという反論が寄せられることになります。
●「必ずそうなる」ではなく「そうなりやすい」としか言えない
喫煙とがん発症の因果関係理解の例からも示唆されるように、連接の統計的観察による因果関係理解は、「必ずそうなる」ではなく、「そうなりやすい」という因果関係理解にも結び付いてきます。
今日では普通、原因と結果が必ず対応する、こうすれば必ずこうなる、とはいいません。しかし、特に因果関係が重大な問題となって私たちの日常に降り...