原因と結果の迷宮~因果関係と哲学
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
「確率的因果」の迷宮性
原因と結果の迷宮~因果関係と哲学(4)確率的因果とその問題点
一ノ瀬正樹(東京大学名誉教授/武蔵野大学人間科学部人間科学科教授)
東京大学大学院人文社会系研究科教授・一ノ瀬正樹氏は、さらに原因と結果の迷宮へと私たちを誘う。ここで問題となるのは、確率だ。私たちは、単なる確率にすぎないことに、時として強固な因果関係を見てしまう。しかも、予防接種と副作用の問題のように、確率は私たちの生活でも大きな問題となり得る。(全8話中第4話)
時間:9分07秒
収録日:2016年12月15日
追加日:2017年3月4日
≪全文≫

●「肺がんを減らすためには喫煙を抑制すべき」は本当か


 かつてロナルド・フィッシャーという統計学者は、喫煙とがん発症の因果関係を確信し過ぎることで、過激な禁煙運動をする社会に警鐘を鳴らしました。彼は、理論的な想定として警鐘を鳴らしたのです。ある遺伝的な構造を生来持っている人は、その遺伝的構造ゆえにたばこを吸いたくなる、ニコチンを非常に欲してしまう傾向を持ちます。しかし、その遺伝的構造は同時に、そうした遺伝的構造を持たない人に比べて、肺がんのようながんをより多く発症させる場合があると想定します。

 もしそういうことが成り立っているとしたら、いくら喫煙を抑制してたばこを吸わないようにしても、もともとその人はがん体質なので、がんになってしまいます。だとすれば変な話ですが、そうした人には他人に迷惑をかけない限りでスモーキングを楽しんでもらった方が、当人にとっては良いということにさえなってしまいます。そういう可能性があることを知った上で、禁煙運動や関係する政策を行うべきだ、という非常に学者らしい提言をしました。

 これもやはり恒常的連接の問題、すなわち相関関係(喫煙すると、がんを発症する)と因果関係(特有の遺伝的構造を持つため、がんを発症する)は別であるという例です。

 ただここにも問題はあります。例えば、前回出した例です。スロットを引いて電車が発車し、スロット周辺に風が起こる。実はこの場合でも、「スロットを引くと電車(が走る)」、「スロットを引くと風(が起こる)」の間にあるのは因果関係だと見なしてお話しましたが、その因果関係すらもどうやって発見するのかということが問題になります。そうすると、問題は入れ子になってしまい、どんどんさかのぼってしまうということになるのです。いずれにせよ、こういう形で、相関関係と因果関係は区別できないのではないかという反論が寄せられることになります。


●「必ずそうなる」ではなく「そうなりやすい」としか言えない


 喫煙とがん発症の因果関係理解の例からも示唆されるように、連接の統計的観察による因果関係理解は、「必ずそうなる」ではなく、「そうなりやすい」という因果関係理解にも結び付いてきます。

 今日では普通、原因と結果が必ず対応する、こうすれば必ずこうなる、とはいいません。しかし、特に因果関係が重大な問題となって私たちの日常に降り...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
「怒り」の仕組みと感情のコントロール(1)「キレる高齢者」の正体
「キレやすい」の正体とは?…ヒトの「怒り」の本質に迫る
川合伸幸
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
世界神話の中の古事記・日本書紀(1)人間の位置づけ
世界神話と日本神話の違いの特徴は「人間の格づけ」にある
鎌田東二
西洋哲学史の10人~哲学入門(1)ソクラテス 最初の哲学者
ソクラテス:「フィロソフィア」の意味を問う最初の哲学者
貫成人

人気の講義ランキングTOP10
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
徳と仏教の人生論(5)陰陽と東洋思想を知ることの意味
『孟子』に学ぶ、リーダーが過酷な境遇に追い込まれる意味
田口佳史
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
東秀敏
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
認知バイアス~その仕組みと可能性(1)認知バイアス入門
誰もが陥る「認知バイアス」…その例とメカニズム
鈴木宏昭
〈続〉認知バイアス~その仕組みと可能性(1)概念のバイアス〈前編〉
非合理なのに誰もがハマる「概念のバイアス」とは
鈴木宏昭
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(1)ソニー流の多角化経営の真髄
ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?
水野道訓
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(5)恐るべき台湾への「浸透」
浸透工作…台湾でスパイ裁判が約70件、それも氷山の一角
垂秀夫
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤